2025年のJ1リーグは、昨シーズンとは違う魅力を提供している。その要素のひとつが、監督の存在だ。特に新監督には、チームをガラリと変え、上昇気流に乗せることが期待されている。サッカージャーナリスト後藤健生が、新監督たちの今シーズン序盤戦を…
2025年のJ1リーグは、昨シーズンとは違う魅力を提供している。その要素のひとつが、監督の存在だ。特に新監督には、チームをガラリと変え、上昇気流に乗せることが期待されている。サッカージャーナリスト後藤健生が、新監督たちの今シーズン序盤戦を振り返る!
■序盤戦は「継続路線」が優位か
2月14日に開幕したJ1リーグは、第6節までを終了して代表ウィークによる中断に入った。そこで、J1リーグの序盤戦を振り返り、今後の展望について考えてみたい。
今シーズンのJ1リーグ最大の注目点は、多くのクラブで監督交代が行われたことだった。
新監督の下で新しいチームを作るには当然、時間がかかる。昨年までと戦い方を変えれば、選手たちが適応するために時間が必要だ。
そして、新監督のやり方が最終的に成功するか否かすらも、はっきり言ってやってみなければ分からないのだ。
そこで、開幕前には、どうしても昨年と同じ監督の下で、同じやり方を継続してチームの完成度を上げていくチームを上位に予想せざるをえない。
今シーズンで言えば、昨年のチャンピオンのヴィッセル神戸と2位のサンフレッチェ広島はともに監督が留任。すでにチームのスタイルは確立されており、新シーズンに向けての方向性も定まっていた。
少なくとも、序盤戦は「継続路線」が優位かと思われた。
しかし、今シーズンのJ1リーグでは新監督が早くも手腕を発揮している成功例が多い。6試合を終了した段階での上位を見ると、首位の鹿島アントラーズと4位の柏レイソルは今年、新監督が就任したばかりのチームだ。
■開幕前には「懐疑的」な意見も…
新監督の中で、とくに注目が集まったのが鹿島の監督に就任した鬼木達だった。
川崎フロンターレの監督として8シーズン戦って、その間にJ1リーグで4度優勝。Jリーグの歴史の中でも名監督の1人であることは間違いない。
その鬼木監督が鹿島に移ったのだが、鹿島というクラブは伝統的に「常勝」を目指し、勝負に執着する独特のカラーを持つクラブだ。一方、川崎はクラブの方針として攻撃サッカーを志向し続け、前任の風間八宏監督(現、南葛SC監督)の下でショートパスをつなぐスタイルを確立していた。
そうしたテクニックに優れた選手たちを使ったパス・サッカーで、鬼木監督は川崎を圧倒的な強豪に育て上げた。
しかし、鹿島は川崎とはスタイルが違う。堅固な守備をベースに堅実な試合運びで勝負に執着する。鬼木監督のスタイルと鹿島のスタイルは、はたして適合するのだろうか? シーズン開幕前にはそんな懐疑的な意見も多かった。しかも、プレシーズンマッチでも結果が残せていなかったことで不安は高まっていた。
だが、フタを開けてみれば鬼木監督はいかにも鹿島らしいスタイルのチームを作って、結果を出している。
新戦力として加わったレオ・セアラも、プレシーズンマッチの段階ではチームにフィットしていなかったが、6試合で5ゴールを決めて得点王争いのトップを走っている。
■鹿島の攻撃を「無力化」した浦和
第6節の浦和レッズ戦では、鹿島は苦戦を強いられた。スタートダッシュに失敗した浦和は、このところ選手たちのハードワークを前面に出して戦っている。初勝利を挙げたファジアーノ岡山戦でも、個人能力で優位に立つ浦和が運動量で上回って、泥臭い試合で勝利した。
鹿島を相手にも、サイドで押し込み、ボールを奪われると徹底してスペースを消すことによって鹿島の攻撃を無力化した。そして、前半のアディショナルタイムに先制。しっかり守る浦和に対して、後半の途中まで、鹿島は攻撃の糸口を見つけることができなかった。
だが、ハードワークする浦和は、ベテラン選手が多いこともあって、なかなか90分間それを維持することが難しい。岡山戦でも、終盤は岡山に攻め込まれ、決定的なピンチもいくつかあった。
そうした浦和に対して、鹿島は終盤に入ってからはボールを握って相手陣内で戦っていた。
だが、浦和の守備陣の能力も高く、得点への道筋はなかなか見えてこなかった。
そこで、鬼木監督は選手交代とポジションチェンジを繰り返して、なんとか攻め筋を見出だそうとする。
鹿島は鈴木優磨とレオ・セアラの2トップでスタートしたが、まずサイドにチャヴリッチを入れて、しばらくすると鈴木を左サイドに置き、チャヴリッチをトップに配置転換。さらに、若い徳田誉を入れると、最後の時間には鈴木をMFに下げて、ボランチとしてプレーしていた知念慶をトップに上げる。
そして、後半の追加タイムにその知念が貴重な同点ゴールを決めて、ホーム26戦無敗というJリーグ記録を手繰り寄せてみせた。
鬼木監督の勝負師としての勘のようなものが実った同点劇だった。