昨秋、福岡の高校野球界で「超伝統校」が快進撃を見せた。1758年の藩校開設の流れをくむ県内最古の歴史を持つ育徳館が、秋季福岡大会で準優勝を果たし、九州大会に初出場。1勝を挙げて8強にも進出し、センバツ21世紀枠の福岡県推薦校となった。 残念…
昨秋、福岡の高校野球界で「超伝統校」が快進撃を見せた。1758年の藩校開設の流れをくむ県内最古の歴史を持つ育徳館が、秋季福岡大会で準優勝を果たし、九州大会に初出場。1勝を挙げて8強にも進出し、センバツ21世紀枠の福岡県推薦校となった。
残念ながら九州地区推薦の候補校になれなかったが、昨秋の奮闘は、今春以降の福岡の「新風」となることを予感させる。チームの快進撃を導いた、井生広大監督を直撃インタビューし、強さに迫る。
「劣勢だったゲームをひっくり返す、そんな力がついた」
――秋準優勝の勝因をどう分析されてますか?
井生監督 バッテリーを中心に守備がうまく機能した。攻撃ではワンチャンスを生かして、ロースコアで勝てた。選手にも、そうなると伝えていましたね。
――攻撃がうまくいったのでしょうか?
井生監督 バットが変わって、得点が入らないことが分かった。うちは長打が望めないので、とにかく走塁とか足をつかって、バントとかスクイズとか、足を絡ませることを目指した。選手がそれを諦めずにやってくれた。
――大会を通じて選手が成長した部分は?
井生監督 粘り強さが出るようになった。劣勢だったゲームをひっくり返す、そんな力がついた。成長したのかなと。それでチーム力が上がっていった。
――新チームになってからの方針は?
井生監督 守備重視です。あと「2枚目の存在」が大事かなと。レギュラーの次の子が出てきて、レギュラーを脅かす存在が必要かなと思っていた。
――昨秋福岡大会準決勝のサヨナラ打を放った荒津 星瑛内野手(3年)も大会序盤はベンチだった
井生監督 荒津も最初は調子が悪かったけど、途中で調子を上げてきてくれた。練習もかなり多くやっていた。結果が出てうれしかった。
――やはりエースの島 汰唯也投手(3年)の活躍が大きかった
井生監督 入学してから、人間的に成長した。学校でも多くの選手を担任していることもあって、日常生活からよく接しているが、グラウンドだけでなく普段から成長していた。毎日見ていて、その姿勢が大人になったなあと感じる。
――ピッチングについて、バッテリーを組む隅田 勇輝捕手(3年)とのコンビは?
井生監督 隅田が緩急をつかったり、うまくリードしてくれている。島もけん制や、クイックなバント処理など、投手としての総合力も上達した。
――投球フォームで何か変わったりしたんでしょうか?
井生監督 フォームでいえば間合いが良くなって、しっかり立てることができている。月に2回ほど、外部の原口コーチ(常磐で甲子園出場)に指導してもらっているのが大きい。
「人間力がないと技術は上達しない」
――そのほか、大きく成長した選手はいますか?
井生監督 高瀬 永遠(内野手=3年)が成長した。考えて野球ができるようになった。打者なら、守備位置を見てセーフティーバントを試みたり、守備では打者によって、ポジションを少し変えることができるようになった。
――3番の山下 恩生外野手(3年)が昨秋福岡大会で高打率をマークしました
井生監督 山下はパンチ力がついた。もともとコンタクト力があって、バット操作がうまい。さらに力強さが備わってきた。足も速いので、打ちながら走っていたけど、しっかり打ってから走りなさい、とアドバイスしてから、打てるようになってきた。
――独立リーグでのプレー後、育徳館の監督になった経緯を教えていただけますか?
井生監督 明治学院大では社会科の教員免許をとっていたが、社会では難しいと思い、独立リーグが終わってから、九州共立大に2年通って、体育教員の免許を取得しました。その後2年は八幡工で副部長を務め、築城特別支援学校で1年勤めたのち、正式に教員に採用となって、2022年4月から育徳館に赴任し、1年目は副部長で、23年4月から監督ですね。
――指導者としてのモットーを聞かせてください
井生監督 大学のときも、独立リーグのときも、自分でそう感じたんですが、技術は練習で必ず上手になるわけではなく、やはり人間力がないと技術は上達しないと思っている。社会人としての挨拶や礼儀とかが大事。生徒に言っているのは「高校野球で頑張ったとしても、その後の君たちの人生のなかでは、たった3年間のこと。甲子園にいったところで人生が変わることにならない。野球も大事だが、人間としてきちんとしないといけない。野球のフェアグラウンドは90度の世界だが、それ以外の270度の部分も、きちんとしないといけない。360度しっかりしないといけないよ、と教えてます。
――残念ながら21世紀枠の九州地区候補校にはなれませんでしたが、冬のテーマは何だったのですか?
井生監督 福岡で準優勝したし、追われる立場になる。それに甘んじないよう、1人1人、個人が力を上げていく時期にした。とにかく目の前のことを一生懸命させるだけです。あとは攻撃の部分に力を入れた。総合的にレベルアップさせたいですね、守備も攻撃も。島も研究されてくると思うので、こちらもレベルアップしていかないといけない。
とにかく熱い監督だ。練習中の指導する姿、インタビューしている時の口調からも、選手と真剣に向き合っていることが分かる。時には厳しい口調も飛び出すが、それも選手への「愛」の裏返し。ナインがその熱意に引っ張られて、その気になっていったことが分かった気がした。