吉成名高インタビュー・前編(全3回)ムエタイ界の至宝・吉成名高がONE初参戦 © Yuko YASUKAWA/集英社 ムエタイ界のPFP(パウンド・フォー・パウンド)1位に君臨する吉成名高が、ついにONEの舞台に立つ。3月23日、さいたまス…
吉成名高インタビュー・前編(全3回)
ムエタイ界の至宝・吉成名高がONE初参戦 © Yuko YASUKAWA/集英社
ムエタイ界のPFP(パウンド・フォー・パウンド)1位に君臨する吉成名高が、ついにONEの舞台に立つ。3月23日、さいたまスーパーアリーナで開催されるONE Championship「ONE 172: 武尊 VS ロッタン」で、元ルンピニースタジアム王者ラック・エラワンと激突。ラジャダムナンスタジアム3階級制覇を成し遂げ、驚異の35連勝を誇る吉成が、ONEでどんな戦いを見せるのか?
ONE独自のオープンフィンガーグローブ(OFG)への適応、王座新設の可能性も囁かれるアトム級ムエタイ王座への意欲。ONEの舞台で世界を震撼させるために、吉成がどんな思いで挑むのか話を聞いた。
【ムエタイのPFP いざONEへ】
――いよいよ吉成選手がONEの舞台に立ちます。これまで、ONEをどのような印象で見ていましたか?
吉成(以下同) 「ONEは、自分が試合をしたことがある選手も出場していたりして、ずっとチェックはしていました。ロッタン(・ジットムアンノン)選手やタワンチャイ(・PK・センチャイ)選手ら"純ムエタイ"で活躍していた選手たちが、ONEで活躍してスーパースターになっていく姿を見て、本当に華やかな舞台だなと。自分もいつかこの舞台に立ちたいという想いはずっと持っていました」
――今回、参戦を決断した決め手は?
「以前からオファーは何度かいただいていたんです。ただ、その時は僕の中での大きな目標であるラジャダムナンスタジアムの3階級制覇(※)をまだ達成できていない状況だったので、まずはそれを成し遂げて、次の目標としてONEに挑戦をしたいと考えていました。その夢を叶えたタイミングでしたし、ONEの日本開催で、武尊選手とロッタン選手が戦う注目の大会で試合をする機会をいただいたので、これはまさに運命だなと感じましたね」
※吉成は、2023年12月のRWS(ラジャダムナン・ワールドシリーズ)で、ラジャダムナンスタジアム認定スーパーフライ級暫定王座決定戦で勝利し3階級制覇(タイ人以外では初の偉業)を達成。2024年2月、当時の正規王者・プレーオプラーオとの統一戦にも勝利し、スーパーフライ級の正規王者となった。
――武尊選手からの言葉もONE参戦の後押しになったそうですね。
「はい。4年前、武尊選手と食事をした時に、『いつか同じ大会に出場できたらいいね』という話をしてもらえて、すごくうれしかったんです。その言葉がずっと頭に残っていて、目標のひとつにもなっていたので、今回それが実現することはとてもうれしく思っています」
――武尊選手をはじめ、今回のONE日本大会には、錚々たる顔ぶれが揃いました。その大会にご自身が参戦することについては?
「すごく光栄なことです。武尊選手をはじめ、野杁(正明)選手、海人選手、秋元(皓貴)選手...、強い選手たちが集まっています。そんななかで、僕はムエタイという競技に関しては圧倒的な自信を持っていて、自分の階級では僕より強い選手はいないと思っています。アスリートとして、プロとして魅せる試合をしたいとは常に考えているので、このメンバーに選ばれて光栄、うれしい、という気持ちだけではなく、この大舞台で、僕にしかできないムエタイの試合を見せたいと思っています」
【ONEのルールと適応】
――ONEのルールは、吉成選手がこれまで戦ってきた伝統的なムエタイ(純ムエタイ)とは異なる点が多いと思います。大きくは、オープンフィンガーグローブ(OFG)の使用、5ラウンドではなく3ラウンド制、ラウンド間のインターバルが1分。この辺りの違いについてはどう感じていますか?
「ラジャダムナンでの試合は、インターバルが2分なので、1分になると短くは感じます。ですが、日本で開催されるムエタイの大会はインターバル1分が多いので、そこはあまり気にならないですね。やっぱりいちばんの違いはグローブで、OFGになることで、戦い方を攻撃的なスタイルにシフトする選手も多いです。でも、僕はそこには付き合わず、自分のスタイルを貫こうと思っています」
――ONE仕様にするのではなく、吉成選手がいままで培ってきたスタイルで戦うと。
「そうですね。もちろん新しいことも取り入れたりはするんですけど、基本的には自分の戦い方でいきます。相手の攻撃はかわして自分の攻撃だけを当てる。相手がどんな戦い方をしてきても、このスタイルを崩さずに戦えば勝てると信じています。今までもずっとそうやってきました。全局面で相手を上回って、手詰まりにする戦いを目標としています」
――昨年12月、シュートボクシングの大会で、初めてOFGを着用して戦いました。感触はいかがでしたか?
「やはり(グローブの)面積が小さいので、パンチがガードの隙間を抜けて来やすいことは試合中に感じました。逆にこちらもピンポイントで狙いやすいので、その点はすごくよかったですね」
――ONEで使用するのは、4オンスのOFGです。薄さについてはどう感じました?
「従来のボクシンググローブと比べたらめちゃくちゃ薄いです。最初は、自分が打ったパンチで拳をケガしてしまうとか、そういう心配もあったんですけど、しっかり狙ってちゃんと当てられれば、その可能性も低くなると感じました。それから、OFGも団体によって違いがあると思いますが、ONEのOFGは、超硬いです」
――吉成選手は拳が硬い、と伺いましたが、ONEの硬いOFG、フィット感はいかがですか?
「元々パンチが得意で、特に左のパンチは、トレーナーさんから『石みたいに硬い』と言われるくらいなので、ONEのOFGであれば、その硬いパンチがより活かせると考えています。面ではなく、点で当てる感じで、より一撃の威力が増したと思います」
――ONEは「KOボーナス」がありますが、意識されますか?
「タイ人はハングリー精神が強くて、お金を稼ぐためにムエタイをやっている選手も多いので、KOボーナスを狙って、ガンガン前に出て打ち合いに行くスタイルに変える選手もいます。でも自分は、今までのスタイルでKO率が6割を超えています。今までどおりのスタイルを貫けば、自然とボーナスも付いてくると思います」
――対戦相手のラック・エラワン選手(元ルンピニースタジアム・ライトフライ級王者)について、どんな印象を持っていますか?
「5~6年前から名前は知っていましたし、ルンピニースタジアムのチャンピオンということもあって、『いつかやるだろうな』と意識していた選手です。過去に2度、試合が決まりかけてから流れてしまったのですが、ついに実現することになったので楽しみですね」
――直近では、去年12月の『RWS JAPAN』で一度組まれた試合ですね。
「そうですね。ラック選手の家庭の事情で流れましたが、その試合(ラジャダムナンスタジアム認定スーパーフライ級・王座防衛戦)は、自分がチャンピオンで、挑戦者としてラック選手を迎え撃つ形でした。今回のONEでは、僕が青コーナーになります。ラック選手は経験豊富で、ONEでも戦っていてルールにも慣れています。そういった意味では、僕が挑戦者側として見られているかもしれません。でも僕は、ムエタイのこの階級では、自分が王者だという意識があります。だから、青コーナーというのはあまり気にしていません」
――吉成選手が青コーナーに立つのは、レアじゃないですか?
「そうですね、いつが最後かは思い出せないですが、かなり久々だと思います」
――ラック選手は、左右のフックを振ってくる印象がありますが、ファイトスタイルをどう見ていますか?
「パンチを思い切り振ってくるし、軌道が独特です。それから、タイミングをずらして打ってくる感じがあって、反応して避けたつもりでも、パンチが遅れて飛んでくる。それをもらって倒されている選手も多いので、そこは警戒しています。1ラウンドから集中力を切らさず、最大3ラウンド、9分間を戦い切ろうと思っています」
――ONEのチャトリ代表が、吉成選手の階級であるアトム級ムエタイ王座の新設を検討しているとのことですが、もし実現すれば、今後の主戦場も変わるのではないでしょうか?
「はい。今回はONE初戦として目の前の試合に集中していますが、やはりベルトが設立されるとなると意識はしますね」
――まずは、ラック戦の勝利ですね。
「この試合の結果次第で、今後の展開も変わってくると思います。今は目の前の試合に"全集中"して、しっかり結果を出したいと思います」
【充実の2024年】
――昨年1年間を振り返ると、2月にラジャダムナンの正規の3階級制覇王者になられて、4月には、普段のスーパーフライ級(52.16kg)よりも重い53.7kg契約で試合をされました。12月にはOFGでの試合に勝利と、ONEでの戦いを想定しての1年でもあったのでしょうか?
「特にそういうわけではなく、昨年は、ベルトが懸かる試合を、防衛戦2回、王座統一戦を入れたら3回させてもらいましたが、RWSという舞台でいちばん活躍している外国人選手は自分なんだと思って戦ってきました。3試合とも判定でしたが、相手に1ポイントも取られることなく勝ち切れたのはすごく自信になりました。昨年は、自分の持っているラジャダムナン・スーパーフライ級のベルトを絶対守り切る1年間でしたね」
――ONEに出場することで、吉成選手を新たに知る人もグンと増えると思います。ONEで自分の強さをどう表現したいですか?
「ONE参戦が発表された時、InstagramやXのフォロワーが一気に増えたのですが、その多くが海外の方だったんです。それだけONEが世界的に注目されている大会なんだと改めて実感しました。だからこそ、僕のことを知らない人が見た時に、マンガのように攻撃を全部避けて戦う『こんなアメージングな選手がいたのか!』と驚かせたいですね」
――新たな挑戦をする一方で、ここまで3階級制覇、35連勝、PFP1位、ダイヤモンド王座獲得と、数々の偉業を成し遂げてきました。ムエタイでは、「やり尽くした」という感覚になることはありませんか?
「そうですね。ただ、ONEを主戦場にしている選手とは、防衛戦などで交わることがなかったので、そういった選手たちと戦ってみたいという気持ちは強いです。いまONEで活躍しているソンチャイノーイ(・ゲッソンリット)選手(ONEで8戦全勝)とは過去に試合(吉成の3R KO勝利/BOM OUROBOROS 2023)をしましたが、彼はその後さらに成長した印象があります。もちろん僕も強くなっていますから、いま戦えば、また違った内容になると思うので、ソンチャイノーイ選手とはまた戦いたいですし、ほかのONEだけに出場している選手たちとも交わっていけたら面白いですね」
――ONE参戦で、吉成選手の新たな幕が開くと。
「そうですね。ここからがまた新しい挑戦の始まりだと思っています」
インタビュー中編につづく
【Profile】吉成 名高(よしなり・なだか)
2001年1月8日生まれ、神奈川県横須賀市出身。165㎝・56㎏。エイワスポーツジム所属。幼少期に兄の影響で空手を始め、小学3年時にキックボクシングへ。6年生の頃から本場タイで修業しながらムエタイ選手として実績を積む。2019年、日本人として初めてムエタイ最高峰の舞台である「ラジャダムナン」と「ルンピニー」の統一王者に輝いた。2023年、タイ人以外では初となるラジャダムナンスタジアム3階級制覇という偉業も達成。さらに、タイスポーツ省承認のWMO(世界ムエタイ機構)からはPFP(パウンド・フォー・パウンド)ランキング1位に選ばれ、名実ともにムエタイ界において唯一無二の存在となる。現在、破竹の35連勝中。
3月23日に開催される ONE Championship「ONE 172: 武尊 VS ロッタン」 では、元ルンピニースタジアム王者ラック・エラワンとの一戦が決定。ムエタイの伝統とONE独自のルールが交錯する中、吉成がどのように新たな歴史を刻むのか、世界が注目している。
通算成績は68戦61勝(39KO)6敗1分。