F1第1戦オーストラリアGPレビュー(前編)「イエース! P5だ! アメイジングなアタックラップだった!」 開幕戦オーストラリアGPの予選で、角田裕毅(レーシングブルズ)が魅せた。 シーズン開幕前の下馬評をはるかに上回る予選5位。マシンのパ…

F1第1戦オーストラリアGPレビュー(前編)

「イエース! P5だ! アメイジングなアタックラップだった!」

 開幕戦オーストラリアGPの予選で、角田裕毅(レーシングブルズ)が魅せた。

 シーズン開幕前の下馬評をはるかに上回る予選5位。マシンのパフォーマンスもさることながら、1000分の1秒を削り取る角田のドライビングが、マシンをこのポジションへと押し上げた。


角田裕毅の予選の走りは関係者を大いに驚かせた

 photo by BOOZY

「セッションごとに改善を重ねていって、最後のアタックラップは本当に今までで最高のクオリティのラップが決められたと思います。すべてのコーナーで0.02秒ずつくらい刻んで稼いでいって、ほぼノーミスでうまくまとめられました。

(ターン7から)ターン9まで少しランド(・ノリス/マクラーレン)のトウを使えた幸運もありました。それには感謝ですけど、魔法のような最高のラップだったと思います」

 中団トップを争ったウイリアムズとは、常に0.1秒以下の僅差。さらにQ1では、トップから14位までが0.457秒にひしめくような大接戦──。

 ワンミスをおかすだけで大きくポジションを落としてしまう状況に、角田はナーバスになるどころか、むしろそれをチャンスと捉えて、モチベーションにしてしまう自信と実力があった。

「こういうタイトな状況には去年から慣れていたので、最高のアタックラップができれば、かなりいい結果が手に入れられることはわかっていました。もちろん失敗すれば大きなロスにつながるわけで、スリリングな状況ではありましたけど、それもかなり楽しみましたね」

 もちろんこれは、本能だけで得た結果ではない。むしろ理詰めの小さなゲインの積み重ねによって成し得たアタックラップであり、その裏側には数えきれないほどの努力がある。

 金曜のフリー走行では、一つひとつコーナーに向き合った。空力や脚回りといった物理的なセットアップのみならず、デフやブレーキバランス、エンジンブレーキといった電子的なセッティングも、コーナーごとに究極まで突き詰めていった。

【今年の角田は明らかに違う】

 それを可能にしたのは、これまで以上に細やかなエンジニアとのコミュニケーションだ。ドライビング中も事細かにマシンの状態や感触、意見をフィードバックし、エンジニアからの指示やアドバイスに対しても、そのつどディスカッションをしていく。

 決勝を想定したロングランの間も、ただ周回を重ねるだけではなく、ラップごとに走り方を変えてその反応をデータとして収集した。アウトラップも無駄にすることなく、実戦のための鍛錬にあてた。

「去年のレースで『どこがもう少し詰められるところなのか』を振り返った時、たとえばレースのなかでアウトラップがよくなかったらその訓練も兼ねるなど、そういったちょっとしたところも詰めていくようにしました」

 コミュニケーションが課題と言い続けてきた角田だが、今年は明らかに違う。これはコミュニケーションそのものの変化というよりも、レースに対するアプローチの成長だ。

 とにかく、やれるだけのことはすべてやり尽くす。言葉にするのは簡単だが、実際にそれを実行することは極めて難しい。

 予選までの走行は1時間のセッションが3回だけ。それ以外の時間はプロモーション活動や取材対応にも追われつつ、いかにエンジニアたちやファクトリーでサポートするスタッフたちと緊密に改善と準備を進めていくかだ。

 チームリーダーとしてチームを引っ張っていかなければいけないという責任感と、結局はそれが自分自身に結果という形で返ってくるという意欲。

 今年の角田裕毅は、明らかに今までの彼とは違うドライバーへと成長している。