中学軟式が持つ役割とは? 茨城「明野五葉学園・協和・関城」が“拠点校方式”採用のワケ 大谷翔平投手(ドジャース)に憧れ、中学からでも野球を始めたい――。そんな子どもたちの“真の受け皿”となるべく生まれた、中学軟式野球の“合同チーム”がある。…

中学軟式が持つ役割とは? 茨城「明野五葉学園・協和・関城」が“拠点校方式”採用のワケ

 大谷翔平投手(ドジャース)に憧れ、中学からでも野球を始めたい――。そんな子どもたちの“真の受け皿”となるべく生まれた、中学軟式野球の“合同チーム”がある。茨城県筑西市の公立「明野五葉学園・協和・関城」は、今月21日に岡山で開幕する全国大会「文部科学大臣杯 第16回全日本少年春季軟式野球大会ENEOSトーナメント」(文科杯)に、同県代表として出場する。3つの校名が並ぶが、正式には「筑西市拠点校チーム」として活動。誕生のきっかけは、少子化や部活動の地域移行問題に直面しながらも、野球熱の高い地区の歴史を背負い、「部員不足に悩む全国の公立中学に希望を」という教員たちの思いがあった。

 東を望めば、名峰・筑波山が勇壮にそびえ立つ。2月下旬の週末、寒風吹き荒ぶ明野五葉学園のグラウンドで、3つの中学校から集った24人の選手たちが懸命に白球を追っていた。この日指導する教員も3校から集まった4人。「アドバイスを聞き流さない。聞く力は大事。上手くなるチャンスですよ」。指揮を執る古田部祐也監督(明野五葉学園教諭)の熱を帯びた声が響き渡る。

「明野」と聞けば、高校野球ファンはピンとくるかもしれない。1979年、創立わずか3年目の県立明野高校が夏の甲子園に初出場し、延長13回の熱戦の末に高松商業を破った一戦は語り草だ。3校のある旧真壁郡は元々学童を含めて軟式野球が盛んな地域で、古田部監督のもと2023年に全国中学校体育大会(全中)を戦った明野中も、協和中も関城中も、過去に全国出場の輝かしい戦績を持っている。

 それでも少子化の波は容赦がない。明野高校は2年後の閉校が決まっており、明野中も小学校との統合で明野五葉学園となった。そこに、わき上がったのが公立部活動の地域移行問題。拠点校チームが生まれる契機となったのは、市が突然示した、教員たちも“寝耳に水”の方針からだった。

「昨年度の入学説明会で、『令和8年度(2026年度)から、市内中学の土日の部活動については地域クラブに委ね、教員は一切指導に関わらなくなる』と保護者に伝えてしまったんです。それで部活動は“なくなってしまうもの”と捉えられ、経験者の子たちは軒並み、硬式チームなどに流れてしまうことになりました」

負担が小さい軟式球は未経験者に最適「“1点を取り合う攻防”は勉強に」

 現在の部員24人の内訳は明野五葉12人、協和9人、関城3人だが、うち1年生(新2年生)はそれぞれ4人、2人、関城に至ってはゼロだ。しかも経験者はその6人中1人しかいない。市が打ち出した方針は影響が大きく、3校以外の市内中学校も軒並み、学童経験者が入部を避けるという事態に陥った。

 それでも、10年以上前から小学6年生と中学生との交流戦を開くなど、地域振興に務めてきた古田部先生ら顧問たちには、中学軟式野球が持つ“役割”への強い思いがあった。

「大谷選手の活躍もあって、中学から野球を始めてみようという子たちは結構いるんです。とはいえ、未経験者がいきなり硬式は難しいですし、成長段階の中学生には軟球の方が体への負担は小さい。それに、私は軟式が硬式に劣るとは全く思っておらず、“1点を取り合う攻防”はものすごく勉強になると考えています。野球界の裾野を広げていくためにも、中学から始めたい子たちの“本当の受け皿”となるべきは学校部活動じゃないかと、顧問同士で話し合ったんです」

 入部希望の新入生を数えると、どの学校もギリギリ単独チームは組めた。しかし、未経験者が多くなれば、試合に出られても故障リスクが増えてしまう。「少子化が今後さらに進むであろうことを考えても、“エリアで組む”と決めてしまった方がいいのではないか」。そこで始まったのが「拠点校方式」だった。

「拠点校方式」とは、在籍する学校に希望の部活がないなどの事情を持つ他校の生徒を、1つの学校が“拠点”となって受け入れる方式で、地域移行のモデルケースの1つでもある。複数チームが組むとなれば出場機会が減る選手も出てくるが、そうしたリスクも説明した上で保護者会からの理解を得た。市の教育委員会に掛け合い、校長会の了承を経て、明野五葉を中心とした3校、そして旧下館市の3校に分かれての2つの拠点校チームとして、昨年秋から活動がスタートした。

 厳密に言えば、拠点校方式となれば明野五葉以外の2校は野球部をなくしてもいい。しかし、明野と協和は片道10キロほど離れており、放課後に自転車で来るには負担がかかる。そこで、各校野球部は残して平日はそれぞれで活動し、保護者が送迎できる週末練習のみを合同で行うことになった。

3校の名前での全国大会出場にこだわり「地元の方にも喜んでもらえる」

 幸運もいくつか重なった。1つは、3校の顧問たちが以前から別の学校で共に勤めるなど、“気心知れた”同士だったことだ。

 協和中顧問の小澤啓登先生は古田部監督のかつての教え子で、文科杯へチームを導いた経験があり、同中副顧問の田口圭介先生は長年野球指導に携わってきたベテラン。関城中顧問の齋藤麗先生はサッカー選手として全国出場経験があった。それぞれの経験と知見を擦り合わせ、「土日いずれか3時間」という国のガイドラインに沿った短時間練習の中で、うまく3チームを融合させていった。

 もう1つの幸運が、2026年度以降の地域移行に向けた外部指導員を、古田部監督の中学時代の同級生が引き受けてくれたこと。取材日もシートノックなどの守備練習で3時間はあっという間に過ぎ、打撃練習はごく短時間だった。そうした不足分を、部活動のない休日を使って自由参加の練習を実施し、補完してもらえたのは「非常に大きかった」と監督は感謝する。

 こうして誕生したチームは、即席とは思えぬ結果を残した。昨年10月の県新人体育大会で優勝し、今春の文科杯に出場。様々な幸運や関係者の理解があったとはいえ、短期間でチームがまとまり、戦績もついてきたのは驚異的でしかない。

「でも正直、私たちは優勝なんて全く考えてなかったんです。結果は後からついてきた話で、何よりも、生徒も保護者も安心して学校部活動に任せてもらえる環境を作らなければいけない。その思いで、みんなで話し合ってできたのが拠点校というスタイルでした」

 文科杯に出場する56チームは私立や公立、クラブチームなど様々。その中で、学校名の連名は「明野五葉学園・協和・関城」だけだ。「筑西市拠点校チーム」ではなく3校名での出場を決めたのも理由がある。

「この拠点校も、2026年度以降は『筑西RISE』というクラブチームとして活動していくことになり、教員は土日ともノータッチになります。ですから、全国経験がある3つの学校名で出ることが、私たち顧問のこだわりでもあり、地元の方たちにも喜んでもらえるのではと考えました。別々の学校で組んでも全国まで来られる。そういうアピールの場にもできればと思っています」

 岡山で開催される大舞台には、3校それぞれのユニホームを着て挑む。地域で培われてきた軟式野球熱の底力、公立部活動の底力を、強豪を相手に示す意気込みだ。(高橋幸司 / Koji Takahashi)