育成契約に切り替わり、背番号も「120」に。プロデビューから試行錯誤の日々を送ってきた森木。(C)産経新聞背番号120からの再起へ 今から3年前、敵地のマウンドで見せたパフォーマンスに誰もが明るい未来を投影した。森木大智(阪神)の1軍デビュ…

 

育成契約に切り替わり、背番号も「120」に。プロデビューから試行錯誤の日々を送ってきた森木。(C)産経新聞

 

背番号120からの再起へ

 今から3年前、敵地のマウンドで見せたパフォーマンスに誰もが明るい未来を投影した。森木大智(阪神)の1軍デビューは、その潜在能力を感じるには十分すぎる投球だった。

【動画】球界に衝撃を放ったデビュー 阪神・森木大智の初登板シーン

 2022年8月28日、敵地・バンテリンドームで行われた中日戦。初回に先頭で対峙した大島洋平に対して、当時19歳の高卒ルーキーだった背番号20が投じた初球は真ん中低めへの152キロの直球。そして2球目には、この日最速となる154キロ。結局、6回を投げて、4安打、3失点でプロ初黒星を喫したものの、5回までは1安打の快投。文句なしのプロデビューだった。

 その後、同年9月10日のDeNA戦で再び先発を任された森木は5失点で降板。それが彼にとって最後の1軍マウンドになっている。

「入団当時に思い描いた通りにはいかなかった。フィジカルと技量が全然マッチせず、フォームが安定せずに苦しんだ。でも球団にはまだチャンスをいただいたということなのでまずは支配下に戻ることを目指したい」

 プロ3年目を終えた昨年11月、森木の育成契約への変更が発表された。背番号も入団時から“+100”の120となっての再出発。この春、その少し重くなった背番号を背負って沖縄・具志川キャンプのブルペンで投げ込む姿を目にした。

 その3か月前の地元・高知での秋季キャンプではフォームが固まっておらず、直球のみの36球を投げた最終日までブルペン投球を封印。ここ数年、試行錯誤を繰り返した日々を思えば確実な前進に見えた。

 再出発のブルペンから3日後にはシート打撃に登板。マウンドに上がって「対バッター」に投球する森木をしっかりと見ることができたのは、あのデビュー戦以来だった。打者6人を相手に奪った三振は4つ。直球の最速は144キロと更なる伸びしろもうかがえた。

 数時間後、日も落ちかけた夕方、具志川球場を後にしようとする森木に話を聞いた。

「今日はとにかくゾーンに投げることがテーマだったんですけど、まっすぐも良かったですし、打者の反応的にも空振りも取れたので。それは良かったです。秋季キャンプからずっとやってきたフォームの課題も良くなってきている部分もあって。まだまだ課題もあるので向き合いながら。今の感じが最低限ぐらいにできるようにやっていきたい」

 当時はまだ2月上旬。キャンプも第1クールで試運転の段階とはいえ、空振りを取れた直球に手応えを感じ、注力してきた投球フォームの土台ができつつあると感じられた。

支配下登録が決まったルーキーの存在に“波紋”も

 ファームの久保田智之投手コーチと昨秋から取り組んできたのは、投球動作の中で左足が着地した時に右肘より先をできるだけ身体の近くにすること。言い換えれば、頭の近くにボールを握った右手、いわゆる「トップの位置」が来ることで「無意識の中でも少しずつできるようになった」と振り返る。

 近年、取り入れる投手も多いショートアーム型にも見えるが少し違う。森木は「僕の中ではショートアームというよりは左足が地面と着地したタイミングでちゃんと頭の近くにボールが上がってきていればいい。その過程がたまたま僕は小さくというか」とメカニックを明かした。

 シンプルなフォームには積み重ねてきた時間と本人の苦悩、もどかしさ、幾多のトライアル&エラーがにじむ。1月の自主トレでは体幹強化や連動性を意識するため水泳や体操など他競技の動きもトレーニングに加えた。体操のように頭のイメージと実際の動きが一致するかといった空間認知能力が求められるわけだが、本人は「投げている時とかもちょっとしたズレに気づいて修正することも大事なので」と語る。

 キャンプを終えた後も投球フォームは微修正している。ただ、「左足を着地した時にトップが頭の位置にあるのは僕のフォームの中で一番のポイントになるので」と“戻る場所”があるのは何よりも大きい。

 課題を向き合う最中、チームは同じ育成契約ながら今春に1軍で150キロ超えの直球を連発して猛アピールに成功していたルーキーの工藤泰成を支配下登録。その存在は少なからず森木の心に波紋をもたらしていた。

「キャンプ中はすごく焦っていました。工藤さんがすごく良いピッチングしていて、自分も負けないようにと思って空回りして、取り組みがブレそうになった。それは良くないと思って、自分のやることをやろうと思って」

 高知中に所属した当時、軟式の最速となる150キロを叩き出し、「スーパー中学生」と注目された男も21歳になった。回り道もしながらたどり着いた現在地から見据えるのは目標の支配下登録、そして1軍のマウンドだ。

「野球をやることに変わらないですし、やってやろうという気持ちです」

 立場や背番号が変わっても、腕を振り続ける。そこに変わりはない。3年前、輝きを放ち、声援を浴びたあのマウンドに戻って見せる。森木大智の「新章」は始まったばかりだ。

[取材・文:遠藤礼]

 

【関連記事】大谷翔平を牛耳った最高の5球 “MLB平均以下”だった阪神・才木浩人の直球が「メジャー級」と敵将ロバーツを唸らせた理由

【関連記事】「正直、(育成契約も)考えた」――難病克服からの“進化”へ 困難を乗り越える阪神・湯浅京己の「今」

【関連記事】阪神 才木浩人、ドジャース相手に5回7奪三振無失点の圧巻ピッチング! 米メディアも反応「サイキをLA行きの飛行機に乗せるためにいくら支払う必要がある?」