山川が感じ取る自身の中の大きな変化 西武の山川穂高が、球界の新ホームランアーティストとして、本格開花の時を迎えている。9…
山川が感じ取る自身の中の大きな変化
西武の山川穂高が、球界の新ホームランアーティストとして、本格開花の時を迎えている。9月24日のオリックス戦で本塁打を放ち、プロ4年目で初の20本塁打を達成した。開幕1軍入りも、不振で5月1日に登録抹消。約2か月間を2軍で過ごし、7月8日に再登録となったのを機に量産態勢に入り、出場72試合目での到達となった。
本塁打率(打数÷本塁打=何打数に1本の割合で本塁打を打ったか)は、本塁打ランクトップにつけるデスパイネ(ソフトバンク)の13.34を大きく上回る10.61と、圧倒的な数字を誇り、8月度の月間MVPにも輝いた。さらに、9月も8本塁打で2か月連続トップで終えた。10月1日時点で21本塁打となっている。
この覚醒を、誰よりも早く見込んだのが、チームの大先輩・上本達之だった。ファームでの2か月間、1軍に上がった際に求められるであろう、『1打席で結果を出し続ける』ことを想定し、「1日1安打、打率3割以上は絶対」のノルマを、きっちり達成した上で再昇格してきた4年目スラッガーの“本気”を、すぐさま感じ取った。
山川が1軍復帰して間もないある日、それぞれ練習に訪れた2人は、偶然に室内練習場で一緒になった。「なんか、変わったなぁと思ったんです。よく、『目は、口ほどに物を言う』と言いますが、まさにそれ。今このタイミングやったら、素直に聞くな、と思ったので、一言あげようと思って」。プロ15年間もの長いキャリアをかけて導き出した、自身がいま、最も感じている心の底からの言葉を、上本は山川に惜しみなく伝えた。
「今はまだ若いから、そこまで深く思うことはないかもしれないけど、俺ぐらいの歳になった時に、もし今からお前が練習をやっていたら、『やっておいてよかった』って、必ず思うようになる。でも逆に、やってなかったら『やっておけばよかった』って、絶対に思うから。歳をとってからでは、どうしても疲れてできなくなるから、今のうちにできるだけやっておくべきだよ」
上本の直感通り、彼の言葉を、25歳のホームラン打者の心は、乾いたスポンジのように吸収した。
あっという間にスパイクに穴、山川の一発を生み出す右足親指
「15年も現役選手でプロ野球界にいる方が、『打てた日も、打てなかった日も、いい時も悪い時もあるけど、とにかく休みの日や試合が終わってから、ちょっとでいいから打っておいてみな。特にお前は、打ちまくるしかないんやから』みたいなことを言ってもらったんだから、やってみるべきだなと思いました。僕は、守備の人ではない。打てなければ終わってしまうので」
その日を境に、どんなに心身的にきつい日でも、ホームゲームの後は、デー、ナイターにかかわらず、必ず室内練習場へ出向き、マシンを相手にバットを振り続けている。
毎試合後行う室内でのマシン打撃は、長時間のみっちり打ち込む時間には充てない。ただ、「軽く振る」程度。だが、極めてシビアな自己確認を行う場だと位置付けている。ポイントは3つ。「左足を上げて軸足でピタッと止めるところ。スーッとタイミングをとって降ろすところ。バンっと振り抜くところ。中でも一番大事なのは、左足を下ろして回転する時に、右足の親指内側をしっかりと地面に“ぶつける”感覚で体重移動ができているか。それだけしか考えてないです」
その、“ぶつける”右親指こそ、山川穂高流本塁打論の鍵と言える。証拠に、スパイクの右足つま先の内側は、あっという間に穴が開く。「ひどい時は、1回の練習で擦り切れてしまうこともあります」。それほどまでに、強い衝撃がかかっているのだ。
山川のスイングは、狭い歩幅の構えから、まっすぐ左足を上げ、踏み込む位置が非常に広い。「この広さのまま回転しても、回転しづらくて、全然体重が伝わらない」ため、ミートの瞬間に最も力の乗るステップ幅へと右足をずらしていくことで、飛距離が伸びるのだと、本人は解説する。通常、スイングの際、軸足は動かない方が理想とされている。動くと、頭の位置が動き、目線がブレてしまうからだ。だが、山川は、そのリスクよりも、より遠くに飛ばせる打ち方として、あえて現スタイルを選んだ。
それもこれも、「ホームランを打ちたい」から。中学3年時、そう心に決めてから、常に「ホームランを打つためにはどうすればいいのか」「何が必要か」を自分で考え、追求してきた末に辿り着いたフォームなのである。目線のブレを阻止するためにも、とにかく大事なのは「下半身の強さ」だと痛感した山川少年は、青年となり、プロになった今日この日まで、試合前の打撃練習では、「全球ホームランを狙っています」。生きた球に対し、フルスイングを繰り返すことこそが、長いシーズンを乗り越える下半身強化へとつながると確信し、実践し続けている。
「2軍にいる時の4番打者の僕と、1軍での4番打者の僕が一緒になってきたイメージ」
また、もう1つ、打撃練習にフルパワーを費やす意義があるという。「毎回、うしろでは首脳陣、スタッフ、さらには相手チームも見ている。その中で、『こいつのバッティング練習、エグいな』と思われないといけない」。小学生の頃に野球を始めてから、常に4番打者を務めてきた男らしいプライドと、首脳陣へのアピール、そして相手への威圧。その全てを満たすことができるのである。
再昇格後、「今日打てなければ、明日はない」と、2打席ずつ自らにプレッシャーをかけ、結果を出し続けてきた。その姿を評価し、辻発彦監督は8月20日の日本ハム戦から4番に抜擢したが、プレッシャーもあったに違いない。4試合連続無安打など、6試合18打数2安打2打点0本塁打9三振と、全く期待に応えることができなかった。そこで、一度5番に戻ると、たちまち復調。9月7日の千葉ロッテ戦から再び4番を任されるようになったが、今度は大きく調子を落とすことなく、結果を出し続けている。「十分役割を果たしてくれている」と、指揮官も沖縄出身の新4番に太鼓判を押す。
今回、再抜擢されてから結果が出るようになったことについて、山川自身も、自分の中に大きな変化を感じていると語る。
「ここにきて、2軍にいる時の4番打者の僕(※2014年、16年イースタン・リーグ最多本塁打者)と、1軍での4番打者の僕が、一緒になってきたイメージがあります。『こういう時はこうだろうな』『ここはこう打たなきゃいけないな』など、状況によっていろいろある中で、でも、ベースとしてフルスイングだけは忘れちゃいけないなど、ファームだとできていた駆け引きが、1軍だと、今までは見失ってしまっていました。でも、ここ最近は、4番に座って続けて試合に出られるようになって、ファームの時と何となく同じような感じで毎日入れているので、それが、僕にとってはものすごく良い状態。この感覚をとても大事にしていますし、それが、いい結果を生んでいる理由だと思います」
それでも、自分は『4番』ではなく、あくまで『4番目』の打者だときっぱり言い切る。「もちろん、4番としての責任はしっかりと心に置いて打席に立っているつもりです。でも、まだまだ。中村(剛也)さんのように、何年も続けて数字を残して、初めて『真の4番』になれるものだと思います」。憧れ続けてきたヒーローの偉大さを、いま、身を以て改めて痛感している。とはいえ、近い将来、その位置を目指していることは言うまでもない。
「今は、そこに向かってステップを踏んでいるという気持ちで毎日を過ごしています。徐々に徐々に良くなって、(4番として)どっしりしていくために、これからも、1球1球、1打席1打席に集中していきたいと思っています」
謙虚さと、“練習”という裏付けのある努力。“アグー”の一発には、ホームランアーティストとしてのこだわりが、ぎっしりと詰まっている。(上岡真里江 / Marie Kamioka)