プレミアリーグ初采配も今シーズンのリバプールを快走に導いている、アルネ・スロット監督。チャンピオンズリーグベスト16敗退も胸を張る姿が話題となっているが、その成功の要因はどこにあるのか。【CL敗退も胸を張って去る】「私がこれまでに関与した…
プレミアリーグ初采配も今シーズンのリバプールを快走に導いている、アルネ・スロット監督。チャンピオンズリーグベスト16敗退も胸を張る姿が話題となっているが、その成功の要因はどこにあるのか。
【CL敗退も胸を張って去る】
「私がこれまでに関与したなかで、最高のフットボールの試合だった」
リバプールのアルネ・スロット監督は、パリ・サンジェルマン(PSG)戦後の記者会見でそう切り出した。激闘のチャンピオンズリーグ(CL)16強を戦い終え、競り負けたものの、力を出し尽くした人が放つ潔さのようなものが感じられた。
リバプールのアルネ・スロット監督
photo by Getty Images
「とてつもなくハイレベルでインテンシティの高い2チームがぶつかり、特に最初の25分間は信じられないほど見事な内容を披露した。最初の90分間は、うちが負けるべきだったとは思わない。180分間で見れば延長になるべき対戦で、延長戦ではおそらくパリ・サンジェルマンが優っていたと思う。そしてPK戦になり、彼らが4つ決め、うちは2つ。そうして敗れた」
優勝候補のひとつと目されたプレミアリーグの首位チームが、欧州のラウンド16で惜敗した(2試合合計1-1、PK戦2-4)。だが壇上のスロット監督に、悲壮感はなかった。普段と同じオランダ訛りの英語で質問者の目を見て話し、時には笑顔さえのぞかせていた。
悔しいに違いない。涙を堪えきれなかったエースのモハメド・サラーをはじめ、多くの選手が試合後に呆然と立ち尽くしたように、失意のほどは計り知れない。
今季の"スペシャルな"リバプールはいかなる大会であろうと――たとえ欧州のエリートコンペティションでも――、16強で敗れ去るようなチームではないはずだった。プレミアリーグで後続に大差をつけて首位を快走し、今季から始まったCLのリーグフェーズもトップでフィニッシュ。ただその新フォーマットの綾なのか、決勝トーナメントの初戦でPSG(グループフェーズ15位)と対戦することになってしまった。
「(敗退には)もちろんショックを受けている」と、46歳のオランダ人指揮官は続けた。「ただ、大会から姿を消さねばならないのなら、今日の我々のように、欧州のベストチームのひとつと凄まじい戦いをして、去るべきだろう。世界中のすべてのファンが、試合が終わってほしくないと思っていたのではないかな。それほど凄まじい内容だった。
私たちはとても、とても、とても不運だった。リーグを首位通過しながら、(決勝トーナメント初戦で)欧州屈指のパリ・サンジェルマンと対戦することになかったのだから。とはいえ、我々はそのフォーマットのなかで戦っているので、これを受け入れて、来季にもっと強くなって戻ってくるだけだ」
胸を張って去る敗者のロールモデルを見ているようだった。でもこの人格の持ち主だからこそ、ユルゲン・クロップ前監督の後任という困難な仕事を、これ以上ないほどうまく進められているのではないだろうか。
【自分でもここまでうまくいくとは】
昨季まで、スロット監督には母国以外での指導経験がなかった。現役時代も国内のクラブだけでプレーした代表と無縁のMFで、引退後は監督としてカンブール、AZ(菅原由勢が在籍)、フェイエノールト(上田綺世を指導)と国内でステップアップ。スロット曰く「アンフィールドに似ている」デ・カイプを本拠に構えるフェイエノールトで、一昨季にエールディビジを制し、昨季はKNVBカップで優勝している。
とはいえ、初の国外挑戦が、世界随一のリーグでも指折りの名門クラブだったわけだ。それなのに多くの人々の予想をいい意味で裏切り、目覚ましいスタートを切った。この好調の要因について『BBCスポーツ』のインタビューでギャリー・リネカーが質問し、スロット監督は次のように答えている。
「大きくアジャストする必要はあったが、結局のところ、私の仕事はここ(クラブのオフィスと練習場)にある。トレーニングピッチでは、世界のどこであろうと、やることに大差はない。そこで自分のアイデアを選手に伝えようとするだけだ。幸運にも、ここには毎日意欲的に成長しようとする選手が大勢いる。初日からそれは明らかだった。そうは言っても、自分でもここまでうまくいくとは予想していなかったけれども」
自身がクロップの後釜に指名されたのは、「似たプレースタイルを標榜していたからだろう」と分析し、現役時代の自らについては「足が遅いうえ、走行距離も少なかった」と振り返る。そんな選手が、20年近くプロのキャリアを続け、監督として名門の指揮官に任命されたのはなぜだろうか。
「思考が速く、フットボールの知識に富んでいたからだと思う。若い頃からボールを受ける時は常に周囲を確認し、その後の展開を考えていた。一緒にプレーした選手は誰ひとりとして、私が監督になったことに驚いていないはずだ」
世界中の足が速くない選手を励ますような言葉だ。
【今季最初のタイトル獲得なるか】
真のトップレベルの選手たちを指導して感じた他との違いについては、「すべての側面がより優れているのは間違いないが、誰もがトップアスリートであるということ。最大の違いを挙げるなら、フィニッシュだ。ここの選手たちのシュートは、パワーも精度もレベルがまるで違う」と話している。
だがそんな選手たちのフィニッシュも、この日はPSGの守護神ジャンルイジ・ドンナルンマにことごとく止められ、絶好調のウスマン・デンベレの得点で追いつかれてしまった。逆に第1戦ではリバプールのGKアリソンが獅子奮迅の働きを披露し、28本のシュートを打ったPSGを無得点に抑え、2本しかフィニッシュを記録しなかったリバプールがハービー・エリオットのゴールで先行していた。これが示すのは、見どころに満ちた接戦ではあったものの、内容で優っていたのはPSGだったということだろう。
スロット監督がリーグ戦とCLではほぼローテーションをしないため、緊張感の高い試合に出ずっぱりの主力に、疲れが見えていたのも事実だ。メンバーを落として臨んだFAカップ4回戦で、チャンピオンシップ(2部リーグ)で最下位に沈むプリマス・アーガイルに不覚を取ったことが、その考えを益々頑なにしたのかもしれない。
また指揮官は「来季にもっと強くなって戻ってくるだけだ」と言ったが、トレント・アレクサンダー=アーノルド、フィルジル・ファン・ダイク、サラーの主軸3人は、今季終了時に現行契約が満了するため、クラブを離れる可能性がある。そうなれば、今より強いチームを作るのは難しくなる。
それでも、スロット監督が統率するリバプールがどこまでのチームになるか、これからの展開がとても楽しみだ。今週末には、ニューカッスルとのリーグカップ決勝が控えている。昨季のチームが唯一獲得したタイトルを維持し、指揮官にとって記念すべきリバプールでの最初のトロフィーとなるか。
2月26日のホームでのリーグ戦ではニューカッスルに2-0の勝利を収めているが、この時は相手の絶対的なエース、アレクサンデル・イサクが負傷欠場していた。この25歳のスウェーデン代表を封じるために、遠藤航が起用される可能性もゼロではない。PSGとの第2戦の延長でイブラヒマ・コナテが負傷し、遠藤と交代しているだけに。
今季のイングランドの最初のタイトルを懸けた大一番は、日本時間17日午前1時半にキックオフを迎える。