今の日本代表は中国勢と好勝負を演じる選手が複数いる(C)Getty Images 昨年10月カザフスタンで行われたアジア卓球選手権大会。女子団体で頂点に立ったのは、早田ひな(日本生命)、張本美和(木下グループ)を擁する日本女子。絶対王者の中…

今の日本代表は中国勢と好勝負を演じる選手が複数いる(C)Getty Images

 昨年10月カザフスタンで行われたアジア卓球選手権大会。女子団体で頂点に立ったのは、早田ひな(日本生命)、張本美和(木下グループ)を擁する日本女子。絶対王者の中国を下して優勝という1974年大会以来50年ぶりの快挙を成し遂げた。

 1990年代の低迷期を乗り越え、この20年で着実に力をつけた日本は中国に次ぐ強豪国として確固たる地位を築いている。なぜ日本は強くなったのか、今後中国に勝つためには何が必要なのか。自身も日本代表として活躍し、2019年世界選手権女子シングルスではベスト8入賞を果たした加藤美優さんに、日本女子チームの現在地を語ってもらった。

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――加藤さんから見て、ここ数年の日本女子の躍進はいかがでしょうか?

 中国との距離が少しずつ縮まっていると感じています。少し前までは世界では断トツの2位ではあるけど1位の中国とはまだまだ差があるという状況でしたが、最近は中国選手に勝つ試合も増えていますし、かなり近づいている印象です。

――その要因は何でしょうか?

 選手1人ひとりのサポート体制が良くなっている点が大きいと思います。個人で専門スタッフを雇ってチームを組む選手が増えています。以前であればそういう個別のチームを持てるのは福原愛さんや石川佳純さんくらいという感じでしたが、卓球の注目度も高まってスポンサーが増えているので、日本代表に入るレベルであればそういうサポート体制を作ることが可能になってきています。それにより各選手のレベルが上がり、さらに選手同士の争いも激しくなったことで全体的なレベル向上につながっていると思います。

 あとはTリーグのチームの存在も大きいですね。大きい企業が卓球界に入ってくれて、そこに所属する選手はしっかりしたサポートを受けられるし、練習環境の面では卓球界はかなり良くなっています。

――中国選手は以前と比べてどうでしょうか?

 日本選手が強くなってきて相対的にそう見えてしまうというのもあるかもしれませんが、以前のような圧倒的な強さがあまり感じなくなっていますね。カリスマ的な選手が少し減ったような気がします。私が現役の時は丁寧(リオ五輪優勝)、劉詩雯(世界選手権優勝)、李暁霞(ロンドン五輪優勝)がいて、その下に陳夢(東京五輪・パリ五輪優勝)、朱雨玲(世界選手権準優勝)もいて、こちらから見ると“そびえ立っている”ような存在感でした。

 自分も日本代表ですしそういう選手たちに勝つつもりで大会に臨みますが、練習で同じ台に入ったら緊張してしまうぐらいオーラがありました。

 現在の中国代表は世界ランク1位の孫穎莎はオーラを感じますが、他の選手はそれほどでもないという印象です。もちろんすごく強いし、戦ったらまだ日本選手が負ける回数のほうが多いのですが、昔ほど絶対的な存在というわけではないような気がします。

――加藤さんも中国選手とは何度も戦ってきたと思いますが、中国と日本の差はどこにあるのでしょうか?

 これは他の日本選手もよく言うのですが、とにかく中国選手は最後の1本を取らせてくれないというのはすごく感じます。ただしどこに差があってそうなるのか、現役時代は自分も模索しながらやっていましたが、結局わからなかったというのが正直なところです。

 もちろん実力で劣っているというのはありますが、それにしてもなぜか毎回最後の1本が取れないんです。自分の時もですし、現在の日本選手の試合を見ていても、相変わらず中国選手は最後の1本が強い。オリンピックなどのビッグゲームはさらに厳しいですね。

現役時代の体験も含めて日本代表の現在地を語ってくれた

――相手の迫力とかそういうのを最後に感じてしまうのでしょうか?

 それまで競ってはいるので気迫で負けているとかはないはずなんです。それが中国選手の底力なのか、なぜか取れない。取りたい時に取らせてもらえない。その要因はわからずじまいでしたが。

――技術的には中国選手はどのあたりが強いですか?

 ラリーがとにかく強いですね。サービス、レシーブに関しては実はそれほどでもなくて、そこに関しては日本選手のほうが上手いと思います。中国選手のサービス、レシーブはすごくシンプルですが、日本選手は色々と工夫をするし、選手それぞれで個性があります。

 ただしラリー力はかなり違いますね。中国選手と対戦すると本当にビックリして笑っちゃうようなボールが来るんです。「こんなこと自分はできない」というボールが。日本選手や他の国の選手との対戦ではそういうボールは来ません。ラリー力に関しては差があると思います。

――しかも中国は選手同士の練習でそういったボールを受け慣れているでしょうし、ラリー力の差を縮めるのはなかなか簡単ではなさそうですね。

 日本選手も同じ質のボールを受けられたら良いですが、なかなかそういう環境、機会を作るのは難しいですね。日本女子も男子選手と練習することもありますが、中国女子のトップのボールはやっぱり少し質が違います。

――世界ランク1位の孫穎莎選手はやはり他の選手とはさらに違う印象ですか?

 私も対戦したことがありますが、本当にすごいボールが来るのでビックリします。「決まった」と思ったボールが、お手本のような飛びつきフォアストレートで返されてしまう。もうお手上げというか、「こんなことできるのか……」という気分です。とにかくフィジカルがすごいからどこに打っても決まらないし、すごいボールがあると思うとこっちも怖くなってしまうし、彼女はそこまで身長は高くないのですが、コートで向き合うとすごく大きく感じる選手ですね。

――攻略法はあるのでしょうか?

 さすがに明確な穴はないですね。疲れが見える時に日本選手も競ったりしますがコンディションが万全な時はかなり厳しい相手です。ただしレシーブに関してはそこまですごいボールが来るわけではないので、サービスで崩すことがひとつのポイントにはなると思います。

――孫穎莎選手含め、中国選手に勝つために日本選手が身につけるべきことは何でしょうか?

 繰り返しになりますが、日本選手が勝つにはサービス、レシーブで変化をつけて優勢に持っていくことが大事です。ラリー勝負になったら簡単には勝てないので、その前にいい形を作る必要があります。ただし日本選手のフィジカル面も向上しており、最近の試合を見ていても互角のラリーが増えています。ラリー力の差が少しずつなくなっているので、そのうえでサービス、レシーブで上回れば、勝つチャンスはかなり高くなるはずです。

――昨年はアジア選手権の団体で中国を倒しましたが、今後は世界選手権やオリンピックでも中国を倒す日が来る日が来るかもしれませんね。

 そうですね。まだまだ実力では中国のほうが上ですが、選手のサポート体制で考えると日本も恵まれていると思うので、今後も差は着実に縮まっていくはずです。張本選手など日本の若手選手もどんどん育っていますし、ビッグゲームで日本が中国に勝つ可能性は十分にあると思います。

[取材・文:渡辺友]

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