戦国J2、である──。 J2リーグは開幕からここまで4試合を消化。J1から降格してきた北海道コンサドーレ札幌が4連敗を喫し、最下位に沈んでいる。サガン鳥栖は1分3敗の19位である。同じく降格組のジュビロ磐田も2勝2敗とアクセルを踏み込めて…
戦国J2、である──。
J2リーグは開幕からここまで4試合を消化。J1から降格してきた北海道コンサドーレ札幌が4連敗を喫し、最下位に沈んでいる。サガン鳥栖は1分3敗の19位である。同じく降格組のジュビロ磐田も2勝2敗とアクセルを踏み込めていない。
J1昇格候補が苦戦を強いられているなかで、J3からカテゴリーを上げたRB大宮アルディージャは4連勝で2位、カターレ富山は3勝1敗で3位と、すばらしいスタートを切っている。初のJ2挑戦となるFC今治も2勝1分1敗の6位だ。
RB大宮アルディージャの攻撃を牽引する32歳の杉本健勇
photo by AFLO
好スタートを切った昇格組で、とりわけ注目度が高いのはRB大宮だろう。レッドブルのグローバルネットワークの一員となって初めて迎えるシーズンで、生まれ変わった姿を強烈にアピールしている。
昨シーズンのJ3でベストイレブンに輝いた大宮GK笠原昂史は、「自分たちは目の前の1試合に集中していて、地に足を着けて戦うことができています」と話す。4節のレノファ山口戦では今シーズン初めて先制されたが、わずか3分後に追いつき、最終的には2-1と突き放した。
「山口戦は先に取られちゃいましたけど、チーム全員が『このままじゃ終われない』という気持ちで試合に望むことができていました。それは去年のシーズンの成功体験というか、たとえばJ3降格が決定した2023年のシーズンだったら、0-1から0-2、0-3へ持っていかれたかもしれない。0-1からもう一回全員がギアチェンジして、よりゴールへ向かう姿勢を出せたことが、結果につながったのでは」
勝利の裏づけは、日々の練習で作り上げられている。36歳の経験豊富な守護神は、長澤徹監督が植えつけたキーワードを挙げた。
「練習は試合のように、試合は練習のように、という。まさにそういう感じで、できていると思うんです」
昨年7月に7年ぶりの復帰を果たしたベテラン和田拓也も、「練習がそのまま試合に出ている」とうなずく。サイトバックとセントラルMFをこなし、激しさとスマートさを兼ね備えるプロ17年目の経験者は、「自分はまだこのクラブが求めるインテンシティとかに、ついていこうとしている立場です」と明かす。
【J2トップの1試合平均シュート数】
続けて和田は言う。
「頭では理解できていますけれど、足を動かすところは、みんなすごい。自分はまだ自然じゃない。去年の夏に入った時は『一歩遅いな』と感じて、今もまだ半歩遅い。インテンシティとか球際とか切り替えとか、みんな身体に染みついている。プログラミングされていて、頭で考えずに身体が動いているんですよ」
この34歳は、アカデミーを過ごした東京ヴェルディでプロとなり、ベガルタ仙台、サンフレッチェ広島、横浜F・マリノス、横浜FCに在籍してきた。豊富な経験が裏打ちするその眼が、好調の要因を解き明かす。
「去年のシーズンはJ3だったので、開幕前はJ2での自分たちの立ち位置がちょっと図りにくかったんですけど、ここまでの数試合でみんながそれをつかんでいる。カテゴリーが変わってレベルが上がったところに対しても、自分らが積み上げてきたものがどれくらい通用するのかも、もうすっかりつかんでいる。それがそのまま、結果に出ている印象ですね」
そう言って和田は、「トレンド」という言葉を持ち出した。
「このチームは、徹さんもそうだし、レッドブルというグループもそうだし、トレンドをうまくつかみながら成長しているな、と感じます」
第4節までのデータで、RB大宮の平均ボール支配率はリーグで14位に位置する。1試合平均パス数はリーグ11位だ。
それでいて、攻撃力の裏づけとなるデータは軒並み高い。
シュート総数・1試合平均シュート数はRB大宮の単独1位。チャンスクリエイト総数は、リーグ屈指の攻撃力を持つV・ファーレン長崎と並んで1位タイだ。枠内シュート総数は、その長崎に次いで2位タイである。
ライプティヒが示すように、レッドブルのグローバルネットワークの哲学はポゼッションありきではなく、守備に軸足を置くことでもない。攻守において高強度にプレーし、ボールを持つことも、カウンターを放つこともできるサッカーだ。長澤監督はそれを「第3の立ち位置」と表現するが、まさにそのとおりのデータが並んでいる。
【俺らだってモチベーションは高い】
J3で25勝10分3敗の成績を残した昨シーズンも、平均ボール支配率は10位、1試合平均パス数は8位だった。その数字で、リーグ4位のチャンスクリエイト総数を弾き出している。長澤監督のサッカーとレッドブルのグローバルネットワークの哲学には、そもそも親和性が認められていたのだ。
昨シーズンから積み上げてきた「第3の立ち位置」を日々の練習から磨き上げ、J1でふたケタ得点を記録したこともあるFW豊川雄太と、J2の横浜FCでJ1昇格の原動力となったブラジル人CBガブリエウとFWカプリーニらを獲得した。昨シーズンは期限付き移籍だったFW杉本健勇とMF泉柊椰も、完全移籍へ移行している。
開幕4連勝が驚きではないことは、わかるはずだ。
対戦相手の警戒レベルは、ここからさらに上がっていくだろう。いつかは連勝が止まり、勝ち点を取れない試合が訪れるかもしれない。
笠原も「難しい時期は来ると思います」と、言葉に力をこめる。「そのなかでも強度を高くやれるかどうかが大事で、現状維持では何も変わらないし、結果を残していけないですから」と続ける。目線は高く、視線は先見る。
「ここからもっともっと、自分たちのレベルをどれだけ高めていけるか。そのために、一人ひとりがさらに強度を高くプレーする。ワンプレーにこだわる、ということをしていけば、試合内容をさらに充実させることも可能だと思います」
チームの得点源であり、精神的な支えにもなる元日本代表FW杉本は、「RB大宮になったから相手がモチベーション高く挑んでくるって言われますけど、俺らだってモチベーションは高いですよ」と、迷いのない表情を浮かべる。
「もちろんJ2へ戻って1年目なので、すべてのチームが俺らより上だと思っている。チャレンジャーの気持ちで挑んで、食ってやろうっていう気持ちです」と、チームのメンタリティを代弁する。
試合のように練習する日々は、試合の結果に影響されない。このチームは高いスタンダードで貫かれており、これから何があろうとも、一戦必勝のメンタリティが揺らぐことはないのである。