フォルティウス吉村紗也香インタビュー(前編)2月に行なわれた日本カーリング選手権 横浜2025。ハイレベルな激闘を制したのは、フォルティウスだった。この結果、フォルティウスは9月に開催予定の2026年ミラノ・コルティナ五輪(あるいはミラノ・…
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吉村紗也香インタビュー(前編)
2月に行なわれた日本カーリング選手権 横浜2025。ハイレベルな激闘を制したのは、フォルティウスだった。この結果、フォルティウスは9月に開催予定の2026年ミラノ・コルティナ五輪(あるいはミラノ・コルティナ五輪世界最終予選)日本代表決定戦への進出を決めた。まずは先の日本選手権での戦いについて、スキップの吉村紗也香に振り返ってもらった――。
優勝した日本選手権について振り返る吉村紗也香
――あらためて日本選手権優勝、おめでとうございます。
吉村紗也香(以下、吉村)ありがとうございます。
――初の首都圏開催やアリーナアイスでのゲーム、2026年五輪への道......さまざまなことで話題になった横浜大会でしたが、今振り返ってみて、優勝できた要因はどんなところにあったのでしょうか。
吉村 大会前からチームとして「いい準備をしよう」という話をしていて、やれることをすべてやって、横浜に入れたのはすごくよかったです。あとは、自分を信じて、仲間を信じて、結果が出ると信じて、カーリングするだけでした。
――2026年ミラノ・コルティナ五輪出場という点においては、優勝以外はその道が途切れてしまう大会でもありました。
吉村 もう勝つしかない、という状況はもちろんわかっていましたが、負けたらどうとか、結果ばかり気にしすぎると自分自身も硬くなってしまう。ですから、万全の準備をして、「ここまでやったんだから、あとは楽しむだけ」みたいな環境までは作ることができました。その気持ちのまま、決勝戦まで進めました。
――準備という意味では、1月にカナダ・オンタリオ州で開催されたグランドスラム「マスターズ」に招待されたにもかかわらず、出場を見送っています。これは、国内外のファンに少なからずインパクトを与える決断でした。
吉村 はい、難しい判断ではありましたが、国内で調整することをチームで決めました。もちろんグランドスラムに出るメリットもあったとは思いますが、あらゆる面でいい状態にして日本選手権に臨みたい、という気持ちを優先しました。
――カナダ遠征を終えて、年末の軽井沢国際で優勝。年が明けて1月は、札幌で最終調整をしていたのでしょうか。
吉村 札幌だけの練習になるとひとつのアイスに慣れてしまうので、短期間ですが、常呂(アドヴィックスカーリングホール)に行って、ロコ・ドラーゴ(ロコ・ソラーレの男子部門)と練習試合をしてもらいました。その後、札幌に戻ってきて、最後はKiT CURLING CLUB(北見市で活動する社会人・学生による男子チーム)とも対戦させてもらって、しっかり狙いを持った試合ができたのもいい準備のひとつでした。
――日本選手権が開幕して、フォルティウスは1次予選リーグを唯一全勝でクリア。最終戦では、昨年王者のSC軽井沢クラブに主導権を渡さずに快勝しました。
吉村 初戦からみんながしっかりアイスを読みながら、それぞれがいい感覚を持って投げていたので、いい入りができて「決勝に向けてさらに精度を上げていこう」という話ができていました。
――ニクラス・エディンコーチとは大会中、どんなミーティングを重ねていたのでしょうか。
吉村 試合を振り返りながら、シチュエーションに合わせて的確なアドバイスをもらえたのは大きかったですね。
――2次予選リーグではロコ・ソラーレに、この大会初めて、そして唯一の黒星を喫しています。
吉村 本当に悔しかったです。
――試合を終えて、取材エリアに入ってきた吉村選手が「本当に悔しいです」と2回、繰り返したのは印象的でした。
吉村 自分たちの試合ができていただけに、ちゃんとフィニッシュできなかった悔しさがすごくあって......。もう少しうまく点を取れたエンドもいくつかあったので、そういった詰めの部分は今後の課題です。でも、内容的には自分たちのゲームだったので、「優勝するために必要な負けだったんだ」と前向きに、次の試合に向けて切り替えました。
――その言葉どおり、北海道銀行との試合はラストロックを決めて2次予選リーグを1位通過。決勝進出を決めました。手に汗握る試合ばかりでした。苦しい場面も多かったと思いますが、吉村選手は大会中、常に明るく「楽しいです」とコメントしていました。
吉村 確かに苦しい場面もありましたが、それも楽しかったです。私個人としては3年ぶりの日本選手権だったんですが、特に今年は今までで一番楽しかった日本選手権だったかもしれません。
――それは、大きな会場で多くのファンの声援に包まれる、あの雰囲気によるものもありましたか。
吉村 それもあると思います。連日多くのファンの方が来場してくれて、フォルティウスの応援グッズを持っていたり、横断幕を掲げてくれたりと、会場の一角にクローバーズ(フォルティウスのファンの呼称)の皆さんが集まってくださってフォルティウスの応援団を作ってくれました。そこに向かって試合前に手を振ったりして、リラックスもできましたし、力をもらえました。
――今季もクラウドファンディングを継続して、ファンに支えられたシーズンでもありました。
吉村 そうですね。横浜でもご支援してくださった方にお会いできて、直接お礼を伝えることができました。札幌に戻ってからも、ファンクラブ向けに優勝報告の配信をさせていただきました。いい報告ができて本当によかったです。
――そんなファンの大歓声にあと押しされての決勝エキストラエンドのラストロックですが、試合後、吉村選手には(その声援が)「聞こえてなかった」という衝撃の事実が判明しました。
吉村 ストーンを離したあとに、(ストーンの進みに合わせて)拍手をしてくれたのは覚えています。
――その前に、吉村選手がハック(デリバリーの足場)に向かう時も大きな拍手が起こっていました。
吉村 それは、聞こえてなかったです(笑)。集中していたんだと思います。(チームの)みんなが高い集中力を保って、個々のパフォーマンスを決勝に向けて上げていったところと、どんな時も「またここから」という気持ちで戦えていたのが勝因でした。
(つづく)
日本選手権を制してニクラス・エディンコーチと喜びを分かち合う吉村紗也香
吉村紗也香(よしむら・さやか)
1992年1月30日、北海道北見市常呂町出身。小学4年生からカーリングを始め、常呂高校時代から日本選手権の表彰台に上がる。札幌国際大学卒業後、2014年に北海道銀行フォルティウスに加入。2018-2019シーズンからスキップを務め、2021年日本選手権で優勝。同年12月、北海道銀行との契約終了によって、以降はフォルティウスのメンバーとして活動。2023-2024シーズンに産休後、2025年日本選手権を制覇。2026年のミラノ・コルティナ五輪出場、金メダル獲得を目指す。好きな食べ物は「芋。芋ならなんでも好きです」。趣味は1歳になった息子の観察。