「考える野球」を掲げる早稲田実は8年ぶり22回目のセンバツ出場を決めた。33年間にわたって野球部を率いる和泉実監督(6…

「考える野球」を掲げる早稲田実は8年ぶり22回目のセンバツ出場を決めた。33年間にわたって野球部を率いる和泉実監督(63)は「指導という言葉は嫌いだ」と語る。選手への接し方や高校野球のあり方について話を聞いた。【聞き手・矢野純一】
「夏はいけるぞ」が一転
――選手に話を聞くと、各自が課題を見つけ、その課題を克服しようと考えて練習しています。「考える野球」はいつから意識するようになったのですか。
◆昔から早実の野球は、「考える野球」だったのかもしれません。私も早実野球部の出身ですが、やらされていると感じるような練習はほとんどありませんでした。当時は「考えろ」とは言われませんでした。今思えば、選手が考えて自由にやっていました。
――生徒との接し方で大事にしていることはありますか。
◆早稲田大でも野球を続け、卒業後、南陽工(山口県)の監督に就任しました。このときに生徒から教えられたことを今も大切にしています。
監督1年目の秋の大会で、あと一つ勝てばセンバツというところまでいきました。「夏こそいけるぞ」と練習に励もうとしたら、選手にボイコットされました。結局、1週間ほどで選手は戻ってきましたが、私のやり方が、選手を強制して、プレーを制限していたと気づかされました。
――この時に学んだことは。
◆秋の大会では、練習したことがないようなプレーでアウトを取ることが何度かありました。例えば、満塁で内野ゴロを打たれた時、ホームでアウトにした後、ファーストに投げてアウトにするのが普通です。ところが、ホームでアウトを取った後に、捕手は一塁に偽投をして、オーバーランをしたサードランナーをタッチアウトにしました。選手は地元出身で子どもの頃から一緒に野球をしていました。その遊びの中で、こうしたプレーをしていたのです。「こちらが正しい答えを持っているのではなく、選手側に答えがある」ということを教えられました。
強いチーム作りの秘訣(ひけつ)は?
――今はどのように指導しているのですか?
◆「指導」という言葉は好きではありません。勉強でも一生懸命やっているのにガミガミ言われると聞く耳を持たないでしょう。一方、教える側は、間違ったことをやっているのが分かるので言いたくなります。
――声をかけるタイミングが重要ですね。
◆選手にやらせて、できないという体験をさせます。答えが出ないので、選手は当然、迷います。そこで考えて解決方法を見つける選手もいます。じっと観察して、どうしても自分で答えを見つけることができないと感じたらアドバイスをします。気づいてもらいたいのです。失敗を経験することで深く考え、その過程で成長すると思っています。聞いてもらうには信頼関係も大切です。
――強い言葉を選手に投げかける監督もいると思いますが。
◆長く監督をやっていると細かいところも見えてきます。他校のことはわかりませんが、こちら側がストレスを発散しているだけなのかなと思います。昔の教え子に「監督もそうだった」と言われるかもしれません。実際、言っているかもしれませんが、何か言おうとしたときに、今はちょっとやめておこうと思うようにしています。選手たちの伸び伸びした感覚を邪魔してしまうのではないかと思っています。
――なぜ強いチームを作れるのですか?
◆指導法があれば教えてほしいくらいです。斎藤佑樹(元日本ハム)を育てた監督と言われることもありますが、斎藤は斎藤です。指導法があれば、毎年、そうした選手を育てることができます。見守るという環境から彼が生まれたのかもしれません。今のエースの中村心大もそうです。
――人間形成を意識しているように感じますが。
◆そうしたことを意識して、高飛車に教えたりはしていません。環境がそうさせているのだと思います。
早実は、初等部も含め生徒数は全体で2000人弱です。たかだか36人の部員のために専用グラウンドがあります。そうした環境で練習できるのは野球部だけです。先輩たちから受け継がれてきた環境です。選手には「そう考えると、適当なことはできないな」と感じ取ってもらいたいと思います。全員が気づかなくても、一人か二人が感じてくれたら、チーム内に波及していきます。
衰退する部活動「良い部分たくさん」
――学校教育の場では部活動が衰退して、学校とは切り離された場でスポーツをするクラブチームなどが増えています。
◆働き方改革などの影響で野球などの部活は、クラブチームなどいわゆる社会教育といわれる場にシフトしています。部活が駄目だったのではなく、良い部分がたくさんあります。熱意のある教師もいます。お金もかかりますが、残してほしいと思います。
――なぜですか。
◆(クラブなど)社会教育の場ではドロップアウトした子どもたちに居場所がありません。クラブをやめて終わりです。学校教育の場では、学校があるので、終わりではありません。
教師は生活環境も含めて生徒を理解しています。実際に他校では(生活のため)アルバイトで練習に参加できない子もいると聞きます。それでも、野球が楽しいから部活に参加しているのです。教師は生徒を知っているので部活が成立しているのだと思います。
また、クラブチームに入るにはお金も必要です。家庭環境によっては、やりたくてもできない子もいると思います。難しい問題ですが、部活を学校教育の場から、あまり切り離すこともできないのではないかと思います。
「いつも新しい発見」
――選手を見ていて、昔とは変わったと感じることはありますか。
◆ユーチューブなどで動画を見て研究しています。昔は監督やコーチに聞いて、答えを見つけていましたが。今は自分で探すことができます。
特に新型コロナウイルスの感染拡大で大きく変わったと思います。今の生徒たちは中学時代に思うように野球をできませんでした。そういった環境で自分をレベルアップさせるには動画などを見るしかなかったのだと思います。
――高校野球の魅力は。
◆いつも新しい発見があります。選手とは3年間付き合います。アドバイスをしても同じ事を繰り返していて、試合中、「この子はこう失敗してしまう」と読めてしまうことがあります。
ところが、これまでとは全く違う姿をみせることがあります。一度、うまくできると、それ以降、全く違った選手になることがあります。「成長した」と言えば、簡単ですが、言葉で言い表せないくらい、すごいと思うし、うれしくなってしまいます。だから、高校野球は面白いのです。
和泉実(いずみ・みのる)
1961年9月10日生まれ。東京都出身。早稲田実の捕手として、78年に春と夏の甲子園に出場。早稲田大でも野球部。84年から山口県立南陽工野球部監督。92年から早実硬式野球部監督。これまでセンバツに4度、夏の甲子園に5度出場。斎藤佑樹(元日本ハム)を擁した2006年の夏の甲子園で初優勝。