今年、サッカーのルールが変更されることになった。これまでも何度も改正されているゴールキーパー(以降、GK)に関するルー…
今年、サッカーのルールが変更されることになった。これまでも何度も改正されているゴールキーパー(以降、GK)に関するルールだが、新たなルールはサッカーという競技を、どのような方向へと導いていくのか? サッカージャーナリスト大住良之が「8秒ルール」を検証する!
■「満場一致」で正式ルールに
3月1日土曜日。気温7度、南風が強く、雲が空を覆っていた。北アイルランドのベルファスト郊外にある「カローデン・エステイト&スパ」では、国際サッカー評議会(以降、IFAB)の年次総会が開催されていた。穏やかなベルファスト湾(地元ではなぜか「ベルファスト湖」と呼ばれている)を望むことができる高級リゾートホテルである。
IFABの年次総会は、それを構成する4協会(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)とFIFA、5団体の持ち回りで行われるが、このような風光明媚なリゾートホテルで行われることが多い。
今年の主要議題は、昨年から試験導入されている「キャプテン・オンリー」のガイドライン設定のほか、ドロップボールなどの細かなルールの改正だった。しかし、思いがけない決定がなされた。昨年から一部の試合で実験的な導入が行われていた「GKボール保持8秒ルール」が正式なルールとなることが満場一致で決議されたのだ。
■間接から「コーナーキック」に
改正は、競技規則第12条(ファウルと不正行為)の第2項(間接フリーキック)の一部である。
2024/25版までのルールでは、「ゴールキーパーが自分のペナルティーエリア内で、次の反則のいずれかを行った場合、間接フリーキックが与えられる」とされる中にある最初の項目は、「ボールを放すまでに、手や腕で6秒を超えてコントロールする」(日本サッカー協会発行『サッカー競技規則2024/25』)となっていた。この項目が、今年夏から施行される2025/26版では、「間接フリーキックとなる違反」から外され、「ゴールキーパーがボールを8秒以上保持した場合、主審は相手チームにコーナーキックを与える」(IFAB発表文書の私訳)と変更されることになったのだ。
このルールの適用にあたって、主審はGKにはっきり見える形で5秒間の「カウントダウン」をするという。GKがボールを保持して数秒たったところで、たとえば右手を上げて指を1本ずつ折りながらGKに示すということだろうか。
■ルール改正の多くは「GK関係」
目的は、もちろん「時間の浪費」を減らすことだ。年次総会後の記者会見に登壇したIFABのテクニカルダイレクター、デービッド・エラリー氏(イングランド)は、三笘薫も出場した昨季のマンチェスター・ユナイテッド×ブライトンの試合(2023年9月16日、1-3)を例に挙げ、ユナイテッドのGKアンドレ・オナナがボールを保持していた時間の平均が4.8秒だったのに対し、ブライトンのジェイソン・スティールは14.8秒も保持していたと語った。ビジターのブライトンが前半1点を先制し、最後までリードを保った試合である。
「エンターテインメント」としてのサッカーを考えれば、ボールが外に出て選手たちがダラダラ歩いていたり、GKがボールの上に寝そべっていたり、フリーキックのときに守備側の選手が前に立ってキックを遅らせようというような「死んだ」時間はできるだけ減らし、ファンが期待するスピーディなプレーの連続をもっともっと増やさなければならない。最近30年間のルール改正の多くが、その目的のために行われてきた。そして、その多くが、GKに関係するものだった。