サッカーU-20日本代表は、U20アジアカップで戦い、年代別ワールドカップへの出場権を手にした。だが、表面上の結果だけ…
サッカーU-20日本代表は、U20アジアカップで戦い、年代別ワールドカップへの出場権を手にした。だが、表面上の結果だけではなく、この大会ではさまざまな「変化」があった。現地に飛んだサッカージャーナリスト後藤健生が、サッカー日本代表とアジア、そして世界の「距離」の変化について指摘する。
■「覚束ない」グループリーグ突破
守備面でも、個人能力の高い相手に対して集団で守ることができなかった。前線からプレッシャーをかけてはいたが、そこからの連動が悪く、相手を追い込んで、どこでボールを奪うのかが明確でなかった。
また、韓国戦ではせっかく1点をリードしながら終了間際に同点とされ、イラン戦では相手がフルパワーで仕掛けてきた序盤に無理してパスをつなごうとして、奪われて先制点を決められた。
試合運びも決してうまくなかった。
それでも、アジアの戦いなら個人能力の高さを武器に戦うことができる。だが、9月開幕のワールドカップではこの世代の世界のトップと戦うのだ。攻守ともに、しっかりとした戦術を構築して戦わなくてはグループリーグ突破は覚束ない。
もちろん、日本のようにプロリーグ(Jリーグ)の組織がしっかりしている国では、年代別代表を何度も招集してチーム作りに時間をかけることはできない。
むしろ、20歳以下の選手たちがJリーグのトップチームで出場機会を増やすことのほうが大切なのは間違いない。だから、代表の準備に割ける時間は少ない。
さらに、今後、20歳以下の選手でも夏の移籍でヨーロッパのクラブに移籍するケースが出てくるかもしれない(たとえば、J1リーグの強豪サンフレッチェ広島でレギュラーを張っている18歳の中島洋太朗)。そうなったら、準備試合に海外組を招集することは難しくなるし、本大会への招集も不可能になるかもしれない。U-20ワールドカップはヨーロッパのシーズンが開幕した直後の9月に開幕するのだ。
■「ワールドカップ出場」は不可欠か
これまで、年代別代表が各年代のワールドカップに出場することは、日本のサッカー強化のために不可欠なことと考えられていた。日本の選手がヨーロッパや南米、アフリカの強豪国とガチンコ勝負を経験するには、世界大会に出るしかなかったからだ。
実際、多くの選手がU-17やU-20ワールドカップやオリンピックを経験して成長していった。
だが、すでにオリンピックの場合は、多くの選手がヨーロッパのクラブに移籍しているため、U-23代表の強化は難しくなっている。昨年のパリ・オリンピックではオーバーエイジだけでなく、久保建英のようなオリンピック世代の選手でも招集できないケースがあった。
U-20代表でも同じようなことが増えるだろう。
そういう状況をどう考えるべきなのか?
「それでも世界大会が大事」と考えて、国内組だけであっても代表活動を増やして戦術的に固めて大会に臨むのか、それとも世界大会を重視するのは止めて、若い世代がJリーグやヨーロッパでの育つことに期待するのか……。
とにかく、今回のようにチーム作りが不十分なまま臨んでいたら、いずれアジアカップで敗れて世界大会出場権を逃がすときが必ず来るだろう。
■圧倒的な強さ「フル代表」との違い
森保一監督率いるフル代表は、アジアでは圧倒的な強さを見せており、3月20日のバーレーン戦に勝利すれば、早くもワールドカップ出場が決まる。
森保監督が前回ワールドカップから一貫してチームを作ってきた結果として、チームとしての完成度が高く、戦術的なバリエーションが豊富なこともあるが、アジアを圧倒できるのは、日本選手の個人能力と経験が他のアジア諸国を圧しているからだ。なにしろ、大半の選手がヨーロッパでプレーしており、各国リーグの強豪クラブでレギュラーを張っている選手も多い。今では、日本選手がUEFAチャンピオンズリーグでゴールを決めることなどは、珍しくなくなっているのだ。
プレミアリーグやラ・リーガ、リーグアンでゴラッソを決めている選手たちがアジアの相手に優位に立つのは当然のことだ。
育成年代で育ってきた選手たちが、アジアで最も競技力が高いJリーグという場で鍛えられ、ヨーロッパのクラブでさらに高いレベルのプレーを経験して成長する……。それによって、日本のフル代表はアジアでは圧倒的な強さを手に入れた。
だが、年代別代表の選手たちは、まだJリーグやヨーロッパで成長する前段階にある。彼らは、いわば「素材」なのだ。
アジア各国にも高いレベルのテクニックを持っていたり、驚異的なフィジカル能力を持つ選手は必ずいる。そういう相手に対して、経験の浅い「素材」である20歳ほどの選手たちが対戦するのだ。年代別の大会では、日本の地位はフル代表のように絶対のものではない。