◇アジアン&豪州ツアー共催◇ニュージーランドオープン by Sky Sport 最終日(2日)◇ミルブルックリゾート(…

ニュージーランドオープンは2025年で104回目の開催だった

◇アジアン&豪州ツアー共催◇ニュージーランドオープン by Sky Sport 最終日(2日)◇ミルブルックリゾート(ニュージーランド)◇6961yd(パー71)

「撮影はやめてください!」。空港スタッフが声を張り上げる。注意は日常的なものらしい。いい年をした大人たちが、一斉に怒られた。航空機からタラップを歩くや否や、乗客は目の前に広がる風景に圧倒される。大空を割る稜線と、四方から迫り来るような山裾と。そこが保安上の撮影禁止エリアと知る前に、誰もが思わずスマホをかざさずにはいられなかった。

21人の日本勢が出場した「ニュージーランドオープン」は1907年に始まった同国のナショナルオープン。歴史は「日本オープン」(1927年)よりも、「マスターズ」(1934年)よりも長い。この伝統の大会を2014年からホストするのは、南島の南部クイーンズタウンの近郊にあるミルブルックリゾート。日本人オーナーが手掛ける5つ星施設である。

ミルブルックリゾートは四方を山々に囲まれている

株式会社Too(東京都港区)の前会長、石井栄一氏がクイーンズタウンを訪れたのは3代目社長を務めていた1987年のこと。ハーバードビジネススクール時代の友人に「日本で365日、ガムシャラに働くだけではなく、だまされたと思って一度行くといい」と誘われたのがきっかけだった。戦前、渋谷の画材店としてスタートし、今ではあらゆるデザイン・クリエイティブ製品を扱う総合商社を率いた前会長はそれまで、「質実剛健」をモットーに手腕を振るった。バブル期に盛んだったリゾート開発には目もくれずにいたが、この地に降り立つなり「感動した。人生をかけて実現したいものを感じ取った」と思い立ったという。

ニュージーランドの当時の人口は330万人に満たず(現在は520万人超)、経済的に大きなリターンは期待できなかった。それでも「この空港に来た100人のうち1人が私の思いに共感してくれれば、構想は実現するはずだ」と人々の安息地づくりに情熱を燃やした。同じ頃、地元の優れたデベロッパー集団が計画を練っていたこともあり、出資を決断。1993年のオープンまでには運命的な出会いがあった。

ミルブルックリゾートをリードする株式会社Tooホールディングスの石井剛太社長

昔から避暑地、スキーエリアとして栄えたクイーンズタウンはいまや「ニュージーランドの軽井沢」と称される。栄一氏の息子で、現在同社などを率いる石井剛太社長は2005年にリゾートのマネージングディレクターを引き継ぎ、3年間常駐。「経営はES(従業員満足)、思考、行動の順番が大事。数字が追い付くのは最後で、最初に求めると自立した組織は生まれない」という理念を醸成し、経営を軌道に乗せた。

経済格差がいっそう進行する昨今、ニュージーランドでも新興のゴルフエステートがいくつか生まれている。往々にして、経営基盤が安定する世界のビリオネア向けの少人数会員制クラブが多い中、ミルブルックは一般ゲストにも広く門戸を開いたままだ。

36ホールのゴルフ場を中心にスパやテニスコート、160室以上の客室を完備。これまで5つ星の評価に始まるあらゆる賞に輝き、2021年にはリゾートで働く人材をたたえる、クイーンズタウンの「エンプロイヤー・オブ・ザ・イヤー」を獲得した。石井社長はリゾートの売りである自然、施設といったハードではなく、ソフト面を高く評価されたことが「何よりもうれしく、自信になった」と話す。

ニュージーランドの先住民マオリに伝わる神聖な石

近隣コースとの共同開催期を含め、今年でちょうど10回目。ニュージーランドオープンをホストすることは、リゾートのホスピタリティマインドの体現の象徴でもある。「このゴルフトーナメントは5スターホテルの経営の“下”ではなく上にある。グリーンキーパーが最たるもので、働くメンバーの『ナショナルオープンを開催したい』という思いが強いんです」とスタッフの内発的な動機が心強い。一大イベントにして来場者は入場無料。「感謝の言葉をいただくと、人は謙虚になる」と金銭的な利益には変えられない価値を感じてやまない。

ニュージーランドには約400のゴルフ場がある。総数では2100以上を持つ日本(米国に次ぎ世界で2番目)の5分の1ではあるが、人口比にするとスコットランドに続いて2番目に多い、“ゴルフ天国”のひとつだ。

英国の文化が根強い同国でゴルフは「もともと、(多額の)お金を払ってするスポーツではなかった」と石井社長は言う。過去にローカルコースでプレーした際、不愛想なフロントの女性に200ドル近い料金を請求され「なんだ、高いじゃないか。聞いていた話と違う…」と、しぶしぶ支払いを済ませたところ、年間会員のステッカーを渡された。現地在住の人に言わせると、グリーンキーパーがひとりしかおらずフェアウェイの芝刈りは“羊任せ”というゴルフ場、芝を守るべくグリーンの周りだけ羊除けの柵を設けたコースもあるとか。

そんな牧歌的かつ日常的なゴルフシーンを持つ地域とは、たとえ高級コースであっても共生の姿勢が欠かせない。「ここは確かに法律上は石井家のものですけど、ニュージーランドの人々に『ビューティフルプレース!』と言っていただくと、すごく違和感があるんですね。『いや、あなたたちの土地だから』って(笑)」

気球が平和的な雰囲気を高める

ニュージーランドと言えば、何はともあれ「オールブラックス」である。国民は代表選手に対し、ラグビーの実力と同等以上に高い人間性を求める。「名声に中身が伴わない選手、少しでも偉そうな態度を取るような選手がいた場合、その座から引きずり下ろそうとさえする。ある意味で、残酷で怖い。ニュージーランドの人々は本当に“フラット”」。それは現地の人々と付き合う上で大切なキーワードだ。

大会は昨年、幡地隆寛が優勝。ことしは比嘉一貴が2位で終え、知名度に優れた石川遼も初参戦した。石井社長は日本勢の活躍が喜ばしい半面、プロアマ形式の定着こそが大会の価値を揺るぎないものにしていると考える。「開幕前のパーティでは5年連続で参加されたアマチュアの方を表彰しています。インドネシアや中国、アメリカ、イギリス…と各国から来ていただいている」

最終日の表彰式。左から3番目が石井剛太氏

最終日、表彰式は先住民族マオリの伝統的な儀式で始まった。優勝したライアン・ピーク(オーストラリア)の隣に座った同氏は「シンパシー(sympathy)よりもエンパシー(empathy)が大切。シンパシーは価値観が同じ人たちで共感し合うから排他的にもなりがち。エンパシーは宗教も主張も違う人の価値観を認めること」と共生におけるポイントを説いた。

「ゴルフとクイーンズタウンの力が、世界をつなげる一助になればと思うんです。ゴルフにはその力があるはず。だって、ゴルフのルールは世界共通なんですから」

(ニュージーランド・アロータウン/桂川洋一)