バウアー(中央)がふたたび加わる今季のDeNA。その助っ人投手陣の顔ぶれは充実している。(C)産経新聞社苦しい台所事情で「穴」を埋めた助っ人投手たち 2024年の横浜DeNAベイスターズは、レギュラーシーズン3位からの下剋上を果たし、26年…
バウアー(中央)がふたたび加わる今季のDeNA。その助っ人投手陣の顔ぶれは充実している。(C)産経新聞社
苦しい台所事情で「穴」を埋めた助っ人投手たち
2024年の横浜DeNAベイスターズは、レギュラーシーズン3位からの下剋上を果たし、26年ぶりの日本一の座に登り詰めた。
そんなチームにあって、打撃陣は打率(.256)、得点(522)とリーグトップの成績をマーク。期待通りの成績を収めた。一方で投手陣は、チーム防御率(3.08)がリーグ5位に沈み、数字上では“打高投低”が顕著に現れた。
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先発投手陣は駒不足が目立った。東克樹が13勝4敗、防御率2.16で、投球回数も183回と文句の付けようのないエースの働きを見せたが、その他の日本人ピッチャーに目を向けると、大貫晋一が15試合で88と1/3イニング、石田裕太郎が12試合で59イニング、濱口遥大が11試合で52と2/3イニング、石田健大が6試合で32イニング、吉野光樹が7試合で31と1/3イニング、平良拳太郎が4試合で29と2/3イニングと、寂しい数字が並んだ。怪我や不調、経験不足まで要因は様々だが、いずれも年間通してローテーションを守れなかった現実が浮き彫りとなった。
また、中継ぎにも誤算があった。前半に台頭した徳山壮磨と中川虎大に次いで、JB・ウェンデルケンやロングリリーフもこなせる上茶谷大河がインプレー中の怪我で離脱。先発陣ほどではないものの、当初のプランニングからは外れるケースに見舞われた。
そんな苦しい台所事情で「穴」を埋める活躍を見せたのが、24年から加入した助っ人外国人たちだった。先発ではアンドレ・ジャクソンとアンソニー・ケイ、中継ぎではローワン・ウィックが大車輪の活躍を見せ、課題を補填した。
ジャクソン(25試合に先発し143イニング、8勝7敗、防御率2.90)、アンソニー・ケイ(24試合に先発し136-2/3イニング、6勝9敗、防御率3.42)は共に先発ローテーションを維持。ウィックも43試合で45イニング、11ホールドポイントとブルペンを支えた。
無論、彼らも開幕当初から期待通りの結果を残していたわけではない。
ジャクソンは交流戦が始まるまでは2勝3敗、防御率5.29で、与四死球も投球回数34で22と制球難を露呈。ケイも初登板からの6試合までは1勝4敗、防御率4.24と苦しみ、マウンド上で苛立ちを露わにするシーンも散見された。ウィックも開幕2試合で防御率13.50と結果を残せず、すぐさまファーム行きとなった。
ただ、夏場にかけて彼らは“変貌”した。ジャクソンは交流戦後に防御率2.09、与四死球も90と1/3イニングで29と改善。ケイも5月は4試合で防御率2.00、6月は3試合で同1.00と劇的に良化。さらにポストシーズンでは、ファーストステージ初戦で負傷したエース東の穴を埋める双璧としてチームに貢献。ジャクソンは2勝1敗、防御率2.49、21-⅔イニングで奪三振27。ケイは2勝無敗、防御率0.55、16-1/3イニングで奪三振16と日本一達成のカギとなった。
5月末に再登録されたウィックは、オールスター以降に35試合に登板する鉄腕ぶりを発揮。防御率も2.39と安定し、胸突き八丁の夏場のブルペンを救った。
小杉コーチ(中央)を中心として築いてきたDeNAのメソッドによってウィック(左)やジャクソン(右)も大きく改善された。写真:萩原孝弘
「潰せる課題を、まず潰す」作業とは
シーズンに入ってから、揃って日本野球への適応を見せた新外国人トリオ。思えば2年前、鮮烈デビューを果たしながら、その後に滅多打ちにあったトレバー・バウアーもV字回復していた。
助っ人投手が良化していくカギは、球団を挙げて取り組んでいる“メソッド”だ。その取り組みの一端を小杉陽太一軍ピッチングコーチが明かしてくれた。
「彼らにもアメリカでやってきたやり方があるから、1回それでやってみさせます。1回、自分でそれを体験しないと、そこに目を向けない選手もいる。すぐ色々トライしてくれる選手もいますけど、その辺は性格も見極めながらですね」
まずは個々のキャラクターに合わせ、プライドを尊重しつつ見守る。それでも「大体、失敗する未来が、ちょっとわかるんです」という小杉コーチはこう続ける。
「ウチにはいい設備もあるし、動作解析もバイオメカニストの人もいる。さらにデータサイエンティストの人も仮説検証してくれるので、大体予測したものって、やっぱりその通りに起こるんですよ」
蓄積されたデータを元に“ネガティブな未来”は予想される。それを織り込んだうえで実際に失敗した事象を検証し、相互の理解を深めた後に「潰せる課題を、まず潰す」作業に移行する。
一例として、小杉コーチはジャクソンとの取り組みを明かす。
「ジャクソンも最初は苦しんだのですが、『去年もバウアーにこういう資料を見せて、こういう風に日本の野球にアジャストしてったんだよ』って言ったら、すごく前向きにトライしてくれた」
細部も徹底的に分析する。そんな選手とのやり取りの中で「覚えた方がいい変化球や、スライダーをもう少しこの位置にまで持っていけると、かなり変わってくるよねとか、パフォーマンスの部分もなんとなくわかる」という。小杉コーチは、「悪くなってるポイントも大体わかる。そこからこれ潰せばここの指標はもっと良くなると言う感じでやっています」と課題の解消とブラッシュアップに繋げている。
今もブラッシュアップの日々は続いている。ウィックに対して小杉コーチは、さらなる成長のために現在進行系で取り組みを続けている。
「基本的にリリーバーはフォークボールとかチェンジアップとか、空振りを取れるボールは絶対にマスト。ウィックには去年から、『フォークを覚えたら絶対君のキャリア変わる。格段に変わるよ』って言ってます。そうすると、彼もニヤッとして喜んでくれるんです。それからハイスピードカメラで見たりとか、色々試行錯誤して、今やっとこう、フォークがすごくいい質のボールになってきてるんですよ。あとは実際に試していく段階ですね」
最新機器を用いて弾き出した数値や可視化されたデータに、“異国からの挑戦者”に対するリスペクトをもって築き上げる信頼の形。DeNAの助っ人投手たちの成功には、表舞台には見えない球団の叡智が凝縮されていた。
[取材・文/萩原孝弘]
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