聴覚に障がいを持つアスリートが競い合う「デフリンピック」。その陸上でトップクラスの成績を誇る佐々木琢磨選手は、どのような…
聴覚に障がいを持つアスリートが競い合う「デフリンピック」。その陸上でトップクラスの成績を誇る佐々木琢磨選手は、どのようなトレーニングと食事でパフォーマンスを磨いているのでしょうか? 競技力向上のための具体的なメニューや、食事のこだわり、そして勝つために大切にしている考え方について、佐々木選手にお話を伺いました。
佐々木選手のトレーニングルーティンが知りたい!
──トレーニング日はどんな練習を行っていますか? とくに重点を置いているトレーニングはどのようなものでしょうか。また 1 週間のトレーニングスケジュールを教えてください。
佐々木選手:
1週間のトレーニングは週に2日オフで、3日間練習→1日休み→2日間練習→1日休みというサイクルトレーニングです。試合が近い日は加速力というスピード練がとくに大事です。
また、体幹のバランスを確認するためにマーカーやハードルを使って走りの動きを改善させるなどのトレーニングも取り組んでいます。
私は走り込みが苦手なので、冬季練ではとくに多めの本数で体力の向上に努力しています。
次:大きな試合前に心身を整えるために実践していること
試合前のコンディショニング、どうやって整える?
──大きな試合前に心身を整えるために実践していることを教えてください。
佐々木選手:
私は大きれば大きいほど力を発揮できるタイプで、とくにデフ大会はどんなコンディションでもいいタイムを出すことが多いです。
デフというプライドがあるからかもしれない。そのための心身の整えとしては基本的に日頃からの練習で、世界一になって決勝の舞台に立つことをイメージしながら、1本1本に集中することを心かげています。
たとえば120mを3本走る場合、1本目は予選、2本目は準決勝、3本目は決勝というイメージです。
3本目になると身体は疲労してきますが、皆さんと同じ条件なので、冷静にレースの内容を確認してイメージしつつ「勝つのは俺だ」を心に燃やさせます。

佐々木選手から提供
佐々木選手が行っている疲労回復術
──練習後や試合後に、疲労を早く回復させるために取り入れている方法やケアはありますか? また怪我を防ぐために意識していること、取り入れていることを教えてください。
佐々木選手:
練習後に15分ぐらいジョグをしたり、筋肉をほぐすストレッチや電気マッサージなどをしたりしています。
できるだけ家でゆっくり休むためにも早めに家へ帰り、睡眠時間を8~9時間ぐらいに取るように心がけていますね。
食事管理は「栄養バランスを整え、大会前のお酒は断つ」
──普段の食事でとくに気をつけているポイントを教えてください。
佐々木選手:
私はお酒が大好きなのですが、大事な試合があるときは大体1か月前からお酒を絶っています。100mで世界一になったデフリンピックのときは半年前から(断酒)。それぐらい本気で世界一になろうという決意でした。
食事面は栄養バランスよく取るようにしています。
次:メンタルを整える習慣は「毎日の挨拶」
プレッシャーはむしろパワー。メンタルを整える習慣は「毎日の挨拶」
──プレッシャーへの対処法、 モチベーション維持のコツなど、 メンタルを安定させるためにどんなことを行っていますか?
佐々木選手:
プレッシャーが大きれば大きいほどパワーも湧いてくる性格なので、今まではほとんどがプレッシャーのある大会でベストを更新することが多いです。
メンタルを安定させるには日々の生活が大事だと思います。誰かに会ったら、自分ら挨拶するように積極的に行動をとっています。
自分から挨拶するというのは感謝の意味でもあり、感謝の量が大きければ大きいほどパワーも湧いてくるという経験があるので、そういう意識をしています。
「目でのスタートランプを意識」デフアスリートならではの工夫
──聴覚に関するハンデを乗り越えるため、トレーニングや試合中に工夫していることがあれば教えてください。
佐々木選手:
100mの場合はスタート方法が2つあって、音でのスタートピストルと、目でのスタートランプがあります。試合を始める前に、本番に向けてレース内容や作戦を練習します。その内容を本番へ活かすのにスタートが最重要です。
ピストルは雑音があって、走りというよりも音にかなり集中しないといけない。失敗したら、今まで確認した内容が白紙になってしまいます。それでは強くなれない。
しかし、スタートランプなら目で見て、光に反応するだけなのでレース内容を確認しやすく、課題が見つかりやすくなります。100mは10秒間しかなく、あっという間に終わるのでもっとも重要です。
「コンディショニング管理も実力のうち」他アスリートからの学びとは
──他のアスリートから取り入れたトレーニングや考え方があれば教えてください。
佐々木選手:
トップアスリートとの差は加速力だと思います。加速という音の中に“良い・悪い”があって、それを判断するのは難しい。コーチの協力が必要です。
基本的に、練習でコーチと一緒に考えて修正を繰り返すことが多いですが、他アスリートから参考にさせていただいたところは、イタリアの陸上競技選手で東京2020オリンピック・100m金メダリストのマルセル・ジェイコブス選手です。
走るときの体感の安定さがあって、コンディションが悪くてもいいタイムをキープすることが多いです。食事面や生活面がしっかり管理されているところも、非常に参考にしています。
また、オリンピック年は覚醒した走りが2回も見られたので、体調管理も実力の一つだと感激しました。
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プロフィール
佐々木琢磨(ささき・たくま)1993年生まれ、青森県出身。内耳性難聴発症。盛岡聴覚支援学校高等部3年時に、全国ろう学校陸上競技大会の100m、200m、400mリレーで三冠を達成。22年にブラジルで開かれたデフリンピックの男子100mでは金メダルを獲得。支援がなく、現在は仙台大学の職員として勤務しながら活動を行なっている。25年11月に行われるデフリンピックにて100m、200m、400mリレーで金メダルを獲得し3冠王になることと、世界新記録を樹立することを目標としている。
<Edit:編集部/Photo:佐々木選手より提供>