夢を与えられたらいいな。 そう思うのは、自分もいろんな人に夢に導かれる道を歩んできたからだ。 10月1日に秩父宮ラグビー場でおこなわれた慶大×成蹊大。61-7というスコアで勝利を手にしたのは慶大だったが、成蹊大も、攻守に粘りを見せた後半に…

 夢を与えられたらいいな。
 そう思うのは、自分もいろんな人に夢に導かれる道を歩んできたからだ。
 10月1日に秩父宮ラグビー場でおこなわれた慶大×成蹊大。61-7というスコアで勝利を手にしたのは慶大だったが、成蹊大も、攻守に粘りを見せた後半に手応えを得た試合だった。
 後半30分にはトライも挙げた。そのとき、インゴールにボールを置いたのが4年生の石井智亮(ともあき)だった。182㎝、120㎏のビッグサイズを誇るPRが「夢を与えられたら」と言うのは、大学卒業後は近鉄ライナーズでトップリーガーとなる予定だからだ。

 成蹊大OBのトップリーグプレーヤーは、NTTコムのHO三浦嶺、WTB大芝優泰、キヤノンのWTB/FB藤本健友、NTTドコモの三浦豪とすでに4人いるから、同大学の後輩たちにとっては5人目の憧れの人となる。石井自身、ともにプレーをしていた大芝はもちろん、たまに練習や試合に足を運んでくれる先輩トップリーガーから、わくわくするような話を聞いたり、アドバイスをもらい、夢を膨らませてきた。
「直接話を聞くことで、自分に何が足りないのかも分かったし、トップリーグへの思いが大きくなっていきました」
 そんな日々を過ごしていたから、昨季のプレーを評価されて声をかけてもらったときには夢心地だった。近鉄の練習に加わってみて採用決定。学生生活ラストイヤーを高いモチベーションで過ごしている。

 神奈川県立生田高校でラグビーを始めた。中学時代はサッカーをやっていたが、大柄な体を見逃さなかった瀬尾一幸先生に声をかけられたのが入部のきっかけとなった。
 そして先生は、やがてこう言うようになって、夢を見させてくれた。
「トップリーグの選手になろうよ」
 そんな言葉をかけてくれなかったら、大志を抱くことはなかっただろう。

 3年生が引退すれば人数不足に陥り、合同チームとして大会に参加することもあった。新入生が入部してくれたなら、やっと単独チームでエントリー可能となるような状況の同校だったが、OBの中にひとりのトップリーガーがいる。キヤノンでプレーするLO湯澤奨平だ。こちらは成城大学を経て、トップチームに加わった。
「高校時代にOB戦に来られて、飛び抜けたプレーをされていたのを覚えています」
 石井にとって、少年時代の憧れだった。先生の囁きとともに、この人も自分に夢を見させてくれたひとりだ。

 そんな道を歩んできたから、石井自身も「生田や成蹊の後輩たちに夢を与えられたらいいですね」と思うのだ。
 普通の県立高校で楕円球に出会い、大学1、2年時は対抗戦Bが戦いの場で、学生主体のチームにいた自分でも、強く思い続けたらトップリーグでやれることになった。そのことを知って、「自分も」と思う人がひとりでも多く出てきてくれたら、と思う。

 慶大との試合前、ふたつの個人的目標を決めて戦いに臨んだ。スクラムをしっかり組む。そして、自らトライを決めることだった。
 試合後に振り返った。
「そのうちのひとつは実現できましたが、前半はスクラムがうまくいかなかった。成蹊大のグラウンドは人工芝なので、天然芝への対応がうまくいかなかった。次の試合からはしっかり対応していきたいですね」
 この日は3番で先発し、後半は左PRに入った。
「後半は対応もできたし、押せたスクラムもありましたが、慶応の低さに戸惑ったところもあった。そのあたりは見習っていきたいと思います」
 前半は防御を破られることが多かったチームは、後半になってタックルの低さを意識したら止められた。個人的にも、チームとしても、強豪との戦いの中で得た体感を一つひとつ次戦に生かしたい。

 チームは今季の目標を2勝としている。対抗戦Aの6位までに入り、Bリーグとの入替戦を回避するための最低条件だ。
 最前列で仲間、後輩を牽引する男は、4年生として、スクラムの要として、絶対にそれを成し遂げたい。
「下級生の時は対抗戦Bでした。その後Aで戦ってみて、得られるものがまったく違うな、と感じました。だから、後輩たちを何としてもここに残してあげたいんです
 仲間とのつながりの強さをそのままパワーにできる、このチームが好きだ。
 夢を実現させる力を育んでくれた仲間、後輩たちに恩返しをして卒業する。