顔に残るのはニキビ痕だろうか。仲間たちと談笑する際には、屈託のない笑顔が広がるところも見られるようになった。渡邉伶音(れおん)が非常に若い「これからの」バスケットボール選手であることは隠しようがない。 だが、彼が漂わせる無邪気さというベー…

 顔に残るのはニキビ痕だろうか。仲間たちと談笑する際には、屈託のない笑顔が広がるところも見られるようになった。渡邉伶音(れおん)が非常に若い「これからの」バスケットボール選手であることは隠しようがない。

 だが、彼が漂わせる無邪気さというベールを取り払い、その特別な素質を十全に解き放つ時、どこまでの選手になっていくのか──その期待は大きい。

「僕は渡邉が好きですよ。彼は面白い選手です」

 2月上旬に行なわれた「ディベロップメントキャンプ」(日本代表入りが期待される若手育成目的の合宿)には、18歳の渡邉も加わった。合宿取材の際、日本代表を率いるトム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)は渡邉についてこのように述べている。


渡邉伶音の代表デビューが待ち遠しい

 photo by Kaz Nagatsuka

 渡邉は昨年11月、FIBAアジアカップ予選ウインドウ2で日本代表メンバー入りを果たした。その時もホーバスHCは、渡邉について「ロサンゼルスオリンピックを目指せる」とも話しており、「面白い選手」という言葉がお世辞ではないこともうかがい知れる。

 身長は18歳にして、すでに206cm。体重は97kg。この体躯を日本国内で求めることは、そうそうできない。また、サイズを持っているだけでなく、渡邉にはスキルもある。昨年末のウインターカップで福岡大学附属大濠(おおほり)高校を頂点に導くなど、世代屈指の逸材が注目を集めるのは必然だ。

 男子日本代表は現在、アジアカップ予選ウインドウ3(2月20日・中国戦、2月23日・モンゴル戦。いずれもアウェー)の直前合宿に入った。2月12日にはメディア向けに練習が公開され、体育館のなかに足を踏み入れると2面あるコートの4つのリングで選手たちが3Pのシューティングに取り組んでいた。

 詰めかけたメディアは、渡邉の姿を追う。長距離シュートのうまさは大濠高時代から評判が高く、昨年12月のウインターカップ決勝戦では4本の3Pを沈めて優勝を決めた。

【参考にしているNBA選手は?】

 渡邉の特徴は、シュート成功率の高さだけではない。パスをもらってから腕を大きく下げることなく、すぐにシュート体制に入ることができる。相手にとっては非常にディフェンスしづらい。

 描くシュートの弧の高さは、彼のセンスによるところもあるだろう。だが、確立されたそのスタイルは、多くの時間を練習に費やしてきたことの証でもある(フォロースルー後に手が内側に返るのも珍しい)。秀でたシュートばかりが語られがちだが、渡邉はボールハンドリングもよく、パスの技術もある。オールラウンダーだ。

 アウトサイドからの攻撃を主とするホーバスジャパンでは、ビッグマンでも外角にポジションを取ることが多い。よって代表での渡邉は、PFの一角を担う。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 その一方で、今年1月から特別指定選手として加入しているB2・アルティーリ千葉では、高校時代から取り組むSFでの出場が主となっている。2月2日の神戸ストークス戦で挙げたリーグ初得点は、コーナー寄りの場所から素早いキャッチ・アンド・シュートによる3Pだった。

 子どもの頃の憧れはダーク・ノヴィツキー(元ダラス・マーベリックス)。213cmの長身ながら卓越した3Pやフェイダウェイシュートで活躍したドイツ出身のスーパースターだ。先日のディベロップメントキャンプでは、参考にする選手としてノヴィツキーと同じドイツ出身のフランツ・バグナー(オーランド・マジック)の名を挙げていた。

「バグナー選手は208cmあるんですけど、3番(SF)も4番(PF)もできるし、あるいは5番(C)も少しできるような選手。NBAでもすごく活躍していますし、そういったプレーが将来の理想形として参考にしている部分は大きいです」

 一方で、代表活動やBリーグでのプレーを経て、身近に参考となる選手も多いという。そのなかのひとりが、2023年のFIBAワールドカップや2024年のパリオリンピックで主力として大車輪の働きを見せたジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)だ。

【18歳当時の渡邊雄太と比べてみると...】

 ホーキンソンは208cmのビッグマンながら3Pに秀でており、2対2の場面でスクリーナーとなったあと、外に広がって外角シュートを打つ「ピック・アンド・ポップ」を武器とする。渡邉もこの動きが得意で、29歳のホーキンソンも彼のことを「18歳ごろの自分自身を見ているようだ」と評している。

 ただ、ホーキンソンの動きに近いところはあるものの、渡邉のポテンシャルを見ていると、もうひとりの日本代表選手の顔を思い浮かべる。渡邊雄太(千葉ジェッツ)のような存在になれるのではないかと。

 身長と体重は、渡邊雄太とほぼ一緒。渡邊雄太も大きな体躯を持ちながら、アメリカの大学やNBAでの経験を経て、またそこで生き残るための術(すべ)として、ドリブルや3Pなどアウトサイドの選手としてのスキルを徹底的に磨いてきた。

 30歳の渡邊雄太と比べると、当然ながら高校生の渡邉伶音はまだ線が細い。ホーバスHCは世界と伍するためにフィジカルの強さを選手に求めるが、そこは渡邉も認める今後の課題だ。

 もっとも、ホーバスHCは渡邉のフィジカルを「弱い」とは感じていない。ただ、試合では単なる体の強さだけでなく、相手選手への体の当て方やタイミングなどが勝敗を分ける。そこは渡邉が「向上しなければならない」というフットワークとも関係してくるだろう。

 渡邉伶音と渡邊雄太の体躯はほぼ同じと書いたが、高校3年生時の後者は身長197cmに対して体重は90kgもなかった。少なくともこの年齢時の比較では、渡邉伶音のほうが大きい。

 また、渡邊雄太はNBAで40%という高いシーズン3P成功率を記録しているが、彼が本格的に3Pを打つようになったのはアメリカへ渡ってから。渡邉伶音の3Pの技量は、渡邊雄太の18歳ごろよりも確実に高い。

 現時点では渡邉伶音のほうが、18歳時の渡邊雄太より素材を生かしていると言えるのではないだろうか。あとはその素材という「芽」を将来、どこまで大きな「花」として咲かせられるか。そこが肝要だ。

 渡邊雄太はアメリカへ渡ってたくましさを増し、もともと持っていた向上心や意識の高さで技量を上げていった。現在フィジカルやフットワークを課題としている渡邉伶音に、そういった「気持ちの質」がどこまで備わっているのか、これから見ていきたい。

【日本バスケが爆発的によくなる可能性】

 将来を期待される「これからの」若きバスケットボール選手は、渡邉伶音以外にも注目が集まっている。ジェイコブス晶(SG・SF/20歳/ハワイ大)、山ノ内勇登(PF /21歳/ネバダ大)、川島悠翔(PF/19歳/シアトル大)といった、ビッグマンながらアウトサイドの技量向上に取り組む若い才能が台頭してきた。

 2027年のワールドカップや2028年ロサンゼルスオリンピックに向けて、彼らとのポジション争いは今後さらに激しくなるだろう。その競争も、また見どころである。

「伶音や晶らが経験を積んでいけば、日本のバスケットボールは爆発的によくなるはずさ。それくらい彼らはすばらしいし、まだ若いということもいいことだ」

 パリオリンピックに出場したビッグマン、26歳の渡邉飛勇(信州ブレイブウォリアーズ)はこのようにネクスト世代を語った。

 昨年11月に行なわれたアジアカップ予選ウインドウ2のグアム戦で、渡邉伶音は登録メンバーに選ばれたものの出場はなかった。ただ、日本代表は今年8月のアジアカップの出場権を確保していることもあり、今回のウインドウ3でA代表デビューを果たす可能性は高い。

 パリオリンピックで日本代表は、ある程度まで戦えるところを示したものの、結果は3戦全敗。依然として世界の強豪と大きな差があることを露呈した。2027年のワールドカップ、2028年のロサンゼルスオリンピックで勝利を手にするためには、新たな才能の出現が必須である。

 18歳の渡邉伶音がそのひとりであることは、明らかだ。