結果は悔しい。いくら8連覇中の王者が相手とはいえ、3-70のスコアを笑顔で受け入れるわけにはいかない。 ただ、手応えがあったのも事実だ。秋廣秀一ヘッドコーチは勝者の組織力、精度の高さ、パワーに敬意を表しながらも、「点差ほどの実力差はなかっ…

 結果は悔しい。いくら8連覇中の王者が相手とはいえ、3-70のスコアを笑顔で受け入れるわけにはいかない。
 ただ、手応えがあったのも事実だ。秋廣秀一ヘッドコーチは勝者の組織力、精度の高さ、パワーに敬意を表しながらも、「点差ほどの実力差はなかったと思う」と言った。

 9月30日に秩父宮ラグビー場でおこなわれた関東大学対抗戦Aの帝京大×日体大。この試合に日体大は3-70と大敗を喫したが、PGで先制点を挙げて前半15分までリードし、前半は3-28のスコアだった。
 全員がよくタックルし、攻めてもSO石田一貴主将、FB中野剛通を中心とした鋭いアタックで何度も攻め込み、トライラインまで迫ることも少なくなかった。

 そんな80分を「楽しかった」と振り返ったのが2年生のLO中川真生哉(まおや)だ。
「ミスが出て(トライを)取り切れず、最後は日体のリズムを出せなくなりました。低いタックルやダブルタックルを全員でやったけど、まだまだかなわなかった。でも、個人的には最近の試合の中でいちばん楽しい試合でした。低いタックルを決められたシーンもあったし、みんなで敵陣に攻め込んだこともあった」
 191㎝の体躯ながら低く体を当て、真紅のジャージーをドミネートした。よく走った。ルーキーイヤーからピッチに立っている。いまラグビーか面白い。チームの成長を実感している。

 玉川学園中学部で仲間に誘われるままラグビー部に入った中川は、同高等部でもラグビーを続け、NZ経由で日体大に入学した。
 高校時代は2年生時に個性派揃いだった先輩たちの存在もあり、花園の東京都予選でベスト4に入った。ただ、そのとき以外は常に15人ぎりぎりの部員数で、合同チームとして大会に出場したこともある。そんな環境だったから、もともとは大学でラグビーを続ける気はなかった。

 気持ちに変化が出たのは、みるみるうちに身長が伸びたのも理由のひとつだ。190㎝になって、意欲も沸いてきた。当初は、歯科医の父の姿を追って歯学部に進学するつもりでいた。実際、鶴見大学歯学部に合格もした。
「でも、迷っている自分を見て、両親が『ラグビーをやってもいいんだぞ』と言ってくれたんです」
 大学の入試期は終わっていたから、翌春に入学することを決め、高校卒業と同時にNZ・ウェリントンに渡り、現地のタワ(TAWA)クラブでプレーをする。
「その時期にトップリーグの選手たちが現地に留学していて、そこでいろんな話を聞くうちに、また刺激を受けたんです」

 秋に帰国し、日体大のAO入試を受けた。そして、翌春までオープン参加という形でチームとともに時間を過ごし、晴れて2016年春に1年生となる。
「強いチームに入り、凄い選手たちの中でその歴史の中のひとりになるより、チームを強くしたい、自分も一緒に強くなりたい。そういうチームに入りたいと思い、日体大に決めたんです」
 昨季は夏合宿終盤に怪我をして序盤を棒に振ったが、シーズン途中から最後までピッチに立った。大学入学後に体重は20㎏以上増えた(80㎏→103㎏)。

 2年生ながら、日体大ラグビー部で足かけ3シーズン目を迎えているから、チームの変化がよく分かる。自分自身も高校時代はCTBやFL。LOはまだ2季目だから、同ポジションの面白さをどんどん吸収中だ。
「2年前は、試合途中にチームが諦めてしまうようなところがあったように感じていたんです。でも、去年ぐらいからそれがなくなってきた。(今シーズンの開幕戦の)早稲田戦も負けましたが、最後まで粘れました。今日もある程度戦えたし、(今季ここまでの)この2試合は、意味のあるものだったと思うんです」

 大きなサイズながら、それを感じさせぬ身のこなしを見せ、よく走る南アフリカ代表LO、エベン・エツベスか好きだ。
 自分もビッグパワーを武器にするけれど、大柄な体を感じさせぬ低さ、器用さ、走力のあるプレーヤーになって、大学でチームを引き上げた後は、トップリーガー、そしてジャパンの一員になる夢を持っている。
「そうなれば嬉しいですが、まだまだ。それは分かっています」
 この日、ピッチに立った両チームの選手の中でもっとも大きかった。はやく、誰よりも存在感を感じさせる男になりたい。