巨額のマネーが動くサッカー界。だが、どんな大金にも、心を動かされない選手がいる。サッカージャーナリスト大住良之は、サッ…

 巨額のマネーが動くサッカー界。だが、どんな大金にも、心を動かされない選手がいる。サッカージャーナリスト大住良之は、サッカー日本代表・三笘薫の「決断」にエールを送る。

■無尽蔵の「補強資金」で引き抜きに

 国際サッカー連盟(FIFA)が最近、発表した統計によれば、2024年中に行われた「国際移籍」は、男女プロアマ合わせて7万8742人に及び、移籍金の総額は85億9000アメリカドル(約1兆3744億円)にも達したという。そして、この総額の40パーセントが、2000人に満たないトップクラスの選手の移籍で占められている。2000万アメリカドル(約30億円)以上の移籍も珍しいことではなくなっている。

 欧州のトップクラブ、なかでもイングランドのプレミアリーグとスペインの2大クラブ(レアル・マドリードバルセロナ)など少数のクラブは、年間1000億円クラスの収益を挙げ、その地位を維持するために、さらにスター選手を買い集めている。

 そこに国家戦略でサッカーに力を入れようとしているサウジアラビアのクラブがからみ、移籍金を急騰させたのが2023年のことだった。平均観客数が1万人にも満たないリーグのいくつかのクラブが、実質的に国家の援助でいわば無尽蔵の「補強資金」を手にし、欧州のトップリーグで活躍するスター選手を引き抜きにかかったのだ。

 この動きは2022年の年末に、クリスティアーノ・ロナウドポルトガル)のアルナスルとの契約(年俸約290億円)で世界に衝撃を与え、2023年には欧州のクラブから50人近くがサウジアラビアに移籍した。その結果、2023年の世界の移籍総額はこれまでで最高の96億6000万アメリカドル(約1兆5456億円)にもなった。サウジアラビアの「爆買い」が一段落した2024年の86億9000万アメリカドルはそれに及ばないが、それでも2番目の多さだ。

■テレビマネーは「安定期」に入った

 欧州のクラブの収益増を牽引してきた「テレビマネー(放映権料)」は「安定期に入りつつある」―。「Football Money League」というレポートを毎年発行している世界最大の会計事務所「デロイト」は、2025年版のレポートでそう説明している。平たく言えば、これ以上の放映権料の増額は望みにくいということだ。そのため、レアル・マドリードを筆頭とした「トップ10」のクラブの収益増は、主として「コマーシャル」面の増加によっているという。スポンサー収入と、グッズなどの小売り収入である。

「デロイト」によれば、サッカークラブの収入は大きく分けて3つの柱からなる。第1は入場料収入を中心とした「マッチデー」、第2は「放映権」、そして第3が「コマーシャル」。以前はトップ10でも放映権収入が40%を超えるクラブが大半だった。収益が11位~20位のクラブでは今もその構造は変わらないが、トップ10では「コマーシャル」の増加が顕著だという。

 レアル・マドリードは2023/24シーズンに前年比125%の約10億5000万ユーロ(約1680億円)という世界のサッカークラブ史上最高の収益を計上した。ホームのサンチャゴ・ベルナベウ・スタジアムの大改装で新しいVIPシートをつくり、キャパシティも増えたことで「マッチデー」の収入を前年の倍以上の2億4800万ユーロ(約396億3000万円)に伸ばし、グッズ売り上げの伸びによって「コマーシャル」も前年比120%の4億8200万ユーロ(約771億2000万円)へと伸ばしたという。マーケティングの「世界戦略」が実を結び始めているということだろう。

■中東のオイルマネーは「規制外」

 前述した「三笘の市場価格4500万ユーロ」は、こうしたクラブの通常の収益のなかでまかなわれるべきもので、日本のサッカー市場と比較すると、信じがたい金額に見えるかもしれないし、欧州の移籍市場が10年前と比較すると急カーブで高騰しているとはいえ、それぞれのクラブの収益に見合ったものとなっているはずだ。それを逸脱すれば、欧州サッカー連盟から「ファイナンシャル・フェアプレー」のルールに反するものとして処罰を受ける。

 しかし、サウジアラビアのクラブはその規制外にあり、しかも資金はクラブの収益に無関係に実質上国庫(=オイルマネー)から支出される。「市場価格」を大きく上回る移籍金に魅せられて欧州のクラブがスターを手放し、また高い年俸にひかれてたくさんのスター選手がサウジアラビアのクラブに移籍した。活躍している選手もたくさんいる。しかし、砂漠の国という過酷な環境と、代表選手への道が遠ざかることを懸念している選手も少なくない。(3)に続く。

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