10年以上に及ぶシリアの内戦が終結を迎えた。かつて、サッカージャーナリストの後藤健生は、ワールドカップ予選観戦のために現地を訪れたことがある。その際、親切にしてくれた人々は、どうしているのか? サッカーを通じて生まれた縁と新生シリアの今後…

 10年以上に及ぶシリアの内戦が終結を迎えた。かつて、サッカージャーナリストの後藤健生は、ワールドカップ予選観戦のために現地を訪れたことがある。その際、親切にしてくれた人々は、どうしているのか? サッカーを通じて生まれた縁と新生シリアの今後に思いを馳せる。  

■「最初の人間」が住んでいた山

 ホテルの敷地を出て前を見ると、大きなハゲ山が見えた。ほとんど草木が生えておらず、白っぽい岩山だった。

 日本では、山にたくさんの木が生えていて、緑が濃いのが普通ですが、多くの国では、山というのは草木が生えていない場所なのです(色つきの地図で平野部が緑、山は茶色になっているのは、そのためだという説もあります)。

 ホテルの従業員が教えてくれました。

「見ねぇ、あれがカシオン山だよ」

 そう言われても、日本人にはピンときませんよね。

 カシオン山は、キリスト教やイスラム教で神によって造られた「最初の人間」とされるアダムが住んでいたところで、イエスも一時はここに滞在していたそうです。また、カインが弟のアベルを殺した「世界で最初の殺人事件」が起こったのも、この山だと言われているのです。

 つまり、ここは旧約聖書の舞台なのです。

■首都ダマスカスの「ホテル」に宿泊

 以上の話は大筋でユダヤ教、キリスト教、イスラム教に共通しています。

 3つの宗教は、唯一の神(ヤハウェ、アッラー)の存在を認める一神教。兄弟のような宗教ともいえます。3宗教のうち最後に生まれたイスラム教ではアダムも、アブラハムも、モーゼも、イエスもすべて神から人間に向けて遣わされた預言者であり、イスラム教の始祖であるムハンマドが最後の(そして、最終の)預言者ということになっています。

 しかし、一神教のいずれの信者でもない僕としては、「あれがカシオン山だ」と言われても、「ふう~ん」と言うしかありませんでした。

 シリアの首都ダマスカス市内の「ティシュリーン・ホテル」でのことでした。

 初めてシリアを訪れたのは、1997年のアメリカ・ワールドカップ予選のときでした。シリアとイランが属している1次予選を観戦に行ったのです。

 ビザを取るための招聘状をもらうためにシリア・サッカー協会に連絡したら、「ティシュリーン・ホテル」に泊まるようにという案内が来たので、それに従ったのです。

■シリアの将軍が自ら「お出迎え」

 近くには「ティシュリーン・スタジアム」があり、協会もその中にあったのです。そして、このホテルにはシリア代表チームも宿泊していました。

 当時のシリア協会の会長はファルーク・ブーゾでした。アジア・サッカー連盟の審判委員会のボス的な存在で、豊富な人脈を持ち、軍人だったので「ジェネラル・ブーゾ」(ブーゾ将軍)と親しまれていました。

 ホテルにチェックインして、しばらくしたら、そのジェネラル・ブーゾが自ら訪ねてきて、「何か問題があったら、すぐに言ってください」と声をかけてくれました。

 そして、シリア対イラン戦の後には協会主催のレセプションにも招待され(主審を務めた岡田正義氏もいました)、また、ダマスカス・ラウンドが終わって、次の試合地であるイランのテヘランまで行くために空港に移動する際には、シリア代表のバスに便乗させてくれました。

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