ブライトンでの刺激的な日々を送る清家。(C)Getty Images30歳を目前に環境を変えた最大の理由は? 昨年9月2…

ブライトンでの刺激的な日々を送る清家。(C)Getty Images

30歳を目前に環境を変えた最大の理由は?

 昨年9月21日、エバートンとの開幕戦でイングランドデビューを飾った清家貴子は、海外リーグ初戦でいきなりのハットトリックを達成。同リーグのデビュー戦で3得点をマークした選手は彼女が初。文字どおり鮮烈インパクトを残した。

 そんな28歳の点取り屋は、先月24日に行われたインタビューにおいて、「すごく良いスタートが切れた」と振り返った一方で、デビューからの約5か月間は自身が思い描いていたパフォーマンスが出せずに、「継続していくことの難しさを感じている」とも明かした。

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 2023-24シーズンに浦和レッズレディースに所属した清家はWEリーグで最優秀選手と得点王に輝いた。同リーグ記録となる10試合連続得点をマークするなど、キャリア最高の1年を送り、満を持しての海外移籍でもあった。

 30歳を目前にしての決断。環境を変えた最大の理由は、サッカー選手としてさらなる高みを目指したからである。

「本当に1試合、1試合、課題が出て、その中でやっぱり味方も相手も全然今までとは違う環境の中でプレーをしていて、修正することの難しさはすごい感じています。でも、その中で、もがきながら成長できてるのかなと思います」

 持ち前のアジリティー、スピードは通用していると実感できている。だが同時に、イングランド特有のフィジカル重視のサッカーに苦しめられ、「特にボールへの執着心がすごい」と目を丸くする。

「(イングランドへ来るまではリーグの)みんなめちゃくちゃ速いと思っていたんですけど、実際にはそれほどではなくて、十分戦えると思いました。ただパワー面ですごい強いのと、(身体が)大きくない選手でも球際の部分で戦ってくる。抜かれても最後まで諦めず、ボールに食らいついてくるのは、結構ギャップでしたね」

 いかにも英国的なサッカーに、「日本とは全然違います。味方に対して頼もしいなって思う部分も感じますし、相手に対して汚いなって部分もよくあります」と笑う清家。彼女が海外への意識を強めた要因の一つには、代表で味わった悔しさもあった。

 一昨年のワールドカップ(W杯)に続いて、昨夏のパリ五輪でもなでしこジャパンに選出された清家だったが、どちらの大会でも思い通りの力を発揮しきれず……。WEリーグでの無双ぶりとは裏腹に、ひとたび代表の濃紺のシャツを身につけると輝きを失った。

「やっぱりオリンピック、W杯と悔しい思いをしたので、 そこにかける思いは、本当にここ1~2年でかなり強くなっている」

 タフな環境に身を投じて自身を磨きたい――。その覚悟が彼女を成長させた。

「もちろん日本でやるメリットもありますけど、今までの自分は日本代表の時の国際大会で、年に数回しか海外の相手とプレーすることがなかった。(今は)その中で常にプレーできているのは、スピード感だったり、フィジカル面だったり、タイミングだったりと、本当に慣れてきてるというか、戦えるようになるんじゃないかなと思います」

 無論、彼女が見据えるのは、なでしこジャパンでの成功だ。

「日本代表として 世界で勝ちたい、世界一になりたいっていう思いは、年々強くなってきていると思います。そこに自分自身中心として入っていけるように頑張りたいなと思ってます」

 昨年12月、日本女子代表の新監督にデンマーク出身のニルス・ニールセン氏が就任した。そして今月20日からは、アメリカでシービリーブスカップが開催され、新生なでしこジャパンも新体制下で始動。27年のW杯ブラジル大会、そして28年のロサンゼルス五輪に向けた戦いが本格化していく。

 当然、清家もポジションが確約されているわけではない。ゆえにニールセン監督体制下でのアピールに本人は燃えている。

「本当に今までになかったような監督なので、自分自身本当に楽しみ。まずはそこに選考されるように、これからもメンバーに入り続けられるように、イングランドでしっかり活躍して、自分自身の価値を高め続けていくことが今は大切だと思います」

日本選手12人が活躍するイングランド。多くの選手たちが活躍を求める理由を清家は冷静に分析してくれた。(C)Getty Images

「女子は女子なりの魅力があると思います」

 代表で生き残るために最大のアピールポイントとして挙げるのが、自身もストロングポイントと認識している「“個”での打開力」である。

「自分の強みでもありますし、こっちに来てなかなか、WEリーグでプレーしてた時とは違う難しさはあります。だけど、その中で、その部分をさらに磨いていくことは、自分自身の今の課題で高めたい部分。そこに取り組んでいきたい」

「流れを変えられるというか、『チームとして行くぞ』という攻撃のスイッチが入るような、 そんな選手になりたいと思います。やっぱり得点・アシストっていう結果の部分を自分が求め続ければ、チームとしても良い結果になってくんじゃないかなと思ってます」

 最後に筆者は、今後の日本女子サッカーに関連する2つの質問を清家にぶつけてみた。

 まず、近年のイングランドリーグに日本選手が大幅に増加したこと。マンチェスター・シティーに所属する5人を筆頭に、現在は合計12人がイングランドの1部リーグでプレーしているが、清家の回答は非常にシンプルだった。

 イングランドが技術面とフィジカル面で秀でたリーグと分析する清家は、「今は世界のトップなんじゃないかなと思います」と指摘。その上で「その中でプレーし続けることが自分自身のレベルアップに繋がる。そして日本女子サッカーの将来にも繋がる。そういう部分を考えている選手が多い」と教えてくれた。

 もう一点は、金銭面での男女格差だ。

 先月、アメリカ代表DFナオミ・ギルマが名門チェルシーに移籍した。その際に支払われた移籍金は90万ポンドで、女子選手の移籍金が初めて100万ドルを超えた。男子のトップクラスの選手の移籍金が2億ポンド以上を記録することがあるなかで、あまりにも遅すぎるのではないかと感じるが、この男女格差は一般的に騒がれているものの、プレーをしている選手たちは実際にはどのように見ているのだろうか。

 清家は「プレーのダイナミックさとか、もちろん伝統とかもあったり、男女の差があるのは集客数を見ても、ある程度仕方のないことだなとは自分は思ってますね」と冷静に話す。ただ、一方で彼女はこうも続けてくれた。

「でも、女子は女子なりの魅力があると思いますし、イングランドでも(観客が)2~3万集まったりすることがちょいちょいある。やっぱり女子サッカーなりの魅力はあると思いますし、自分たちのプレーを高めることがそういう格差の縮小に繋がるんじゃないかと思います」

 いま、欧州のトップリーグでプレーする清家の奮闘は間違いなく、日本女子サッカーの未来に繋がる。だからこそ、2025年の彼女自身の活躍に期待をし、女子サッカー界の発展に貢献してもらいたいと願わずにいられない。

[取材・文:松澤浩三 Text by Kozo Matsuzawa]

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