サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マ…
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「忌避」され、「邪道」と言われ、使われなくなった「キック」…。
■ボールの「中心」でなければならない
そもそも「トーキック(あるいは『トウキック』)は、足首を固め、シューズのつま先部分でボールをとらえるキックである。足のくるぶしを中心とした面でとらえるインサイドキックや、伸ばした甲の部分でとらえるインステップキックと比較すると、ボールに当たる足の面積は極めて小さい。「面」ではなく「点」で打つキックと言ってもいい。
しかもその点は、「ボールの中心」でなければならない。中心を蹴ればボールに強い力が加わり、遠くへ飛ばすことができる。水たまりやどろんこになったピッチでこのキックを使おうとする選手が多いのはそのためだ。だが通常のピッチでは、インサイドキックやインステップキックなどと比較すると精度が著しく落ちるため、最近では、ボールを強く蹴るためにこのキックを使おうという選手はほとんど見ない。
ラグビーでも、大昔は「ゴールキック」をトーキックで蹴っていた。しかし、数十年前頃からサッカーで言う「インフロント」、ラグビーでは「インサイド」と呼ばれるキックが使われるようになった。正確さを求めた結果だろう。
すなわち、「トーキック」は忘れられたキックと言ってよい。サッカーでも、「基本から外れたもの」「邪道」として忌避され、タブー視さえされてきた。
■バレリーナの「トーシューズ」
まったくの余談をふたつ。バレリーナは「トーシューズ」を履く。クラシックバレーではつま先立ちでポーズをとったり回転するのだが、そのために不可欠なシューズである。つま先の部分が平たく、固くなっているのだが、いくら特別なシューズを履いたからといって、常人には真似られない芸当だ。一度このシューズを履いて「トーキック」をしてみたいものだが…。
余談その2。ネットで「toe kick」を検索すると、思いがけない画像が出てくる。家庭のキッチンの写真である。古い辞書には出ていないが、最近のキッチンボードの最下部は、4~5センチ引っ込んでいる。これを「toe-kicks」と言うらしい。日本語では「蹴込み」というのだそうだ。立ち仕事をするとき、足先が少し内側にはいることで姿勢がずっと楽になる。「人間工学」のきめの細かさに感心する。
閑話休題。「トー」とは英語で「toe」と書き、正確な発音は「トオ」ではなく、「トウ」である。「トゥー」と表記する人もいるが、このカタカナを読むと「two」のようになってしまう。「トウキック」がいちばん英語の発音に近いのだが、最近の日本語では「go」を「ゴー」「soda」を「ソーダ」そしてサッカーでも「goal」を「ゴール」と表記するように、「オウ」の音を「音引き」で表記するのが通例になっているので、この記事では「トーキック」とする。
■日本人に多い「エジプト型」
「トーキック」のイメージがあるからか、私たちは「toe」を「つま先」と思っている。それは間違いではないのだが、本来、「toe」は「足の指」、すなわち「趾」を指す言葉だった。手の指は「finger」だが、足の指は「toe」というわけである。
手の指の形状にはあまり個人差はなく、いちばん先まで出ているのは大半の人が「中指」だが、足は人によってずいぶん違う。手でいう親指(正確に言うと「母趾」あるいは「第1趾」)が先に出る人と、手でいう人さし指(第2趾)が先に出る人がいる。前者を「エジプト型」、後者を「ギリシャ型」と言うらしい。日本人は「エジプト型」が多く、「ギリシャ型」は20~25%だという。
ちなみに、第1趾から第3趾までがほぼ揃ってる人もいて、それは「スクエア型」と呼ばれている。日本人の5~10%がこの形だそうだ。バレリーナには向いていそうだ。
「toe」とは、本来、第1趾から第5趾(手でいう小指)までの、それぞれを示す言葉だった。しかし、人類が靴を履くようになると、これらはまったく見えなくなるので、「toe」がシューズの先端部を指すようになったのである。サッカーシューズを履けば、エジプト型、ギリシャ型に関係なく、「トーキック」は足指ではなくシューズのつま先で蹴ることになる。