サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「忌避」され、「邪道」と言われ、使われなくなった「キック」…。

■日韓W杯「最も輝かしい」個人プレー

 2002年ワールドカップ日韓大会で私が見た最も輝かしい個人プレーは、準決勝のトルコ戦でブラジルFWロナウドが決めたゴールだった。

 0-0で迎えた後半4分、左サイドでボールを受けたロナウドは、内側から当たりにくる相手を少し外に逃げながらかわすと、即座にゴールへのコースに入り、加速してペナルティーエリアに左角あたりから侵入する。そこにトルコの赤いユニフォームが群がる。左右を間近から挟まれ、前にも1人の選手。それをかわせたとしても、もう1人の選手がカバーに入っている。

 だがその瞬間、ロナウドの右足からボールが放たれ、「強烈」なシュートではなかったが、低く正確にトルコ・ゴールの右隅をついた。そして何よりも、シュートのタイミングが誰にも予測のつかないものだった。トルコGKリュシュテュ・レチベルが懸命に跳んだが、左手の指先にかすかに触れるのが精いっぱい。ボールは右ゴールポストの根もとに当たってゴールに吸い込まれ、これが決勝点となった。

 どんな優秀なストライカーでも、ロナウドが追い込まれた状況では、もう一歩やや右に持ち出して目の前の選手をかわし、左足で踏み込んで右足を振り抜き、ゴールを狙うだろう。だがロナウドは、3人に囲まれて走りながら右足を小さく振り、その「つま先」でキックした。トルコの選手たちもGKリュシュテュも、まったくこのプレーを予測できず、意表を突かれた形だった。

■驚嘆した「ブラジル怪物」の超絶テク

 ロナウドというと、若いファンはクリスティアーノポルトガル代表)のことしか思い思い浮かばないかもしれない。だがブラジルのロナウドは、クリスティアーノに勝るとも劣らない天才選手だった。フルネームはロナウド・ルイス・ナザーリオ・デ・リマ、1976年9月22日ブラジル・リオデジャネイロ生まれのこのストライカーは、1990年代後半から10年間、間違いなく世界最高のサッカー選手であり、「怪物」と呼ばれた。

 16歳でプロ契約し、17歳でブラジル代表にデビュー。1994年のワールドカップ・アメリカ大会には、1958年のペレ以来となる「17歳でのワールドカップ・ブラジル代表」となったが、出場機会を得られず、21歳で迎えた1998年フランス大会でブラジル代表のエースとして活躍した。決勝戦の朝に原因不明の体調不良に襲われたが、ザガロ監督は試合直前に先発選手を入れ替えて彼を強引にピッチに送り出した。だがロナウドのプレーは本来の姿には遠く、ブラジルは優勝を逃した。

 しかし2002年のワールドカップ日韓大会では決勝戦まで8ゴールを挙げる活躍を見せ、ブラジルを5回目の優勝に導いた。2006年ドイツ大会でも3ゴールを記録、ワールドカップで通算15得点を記録して当時の最多記録をつくった。

 その「怪物」が2002年大会のトルコ戦でとっさに見せたのが、「トーキック」でのゴールだった。3人に囲まれながら繰り出した「超絶テクニック」に、私は驚嘆した。

■育成期に「教えられていない」キック

「トーキック」は不思議な技術である。

 サッカーのキックにはいくつもの種類があるが、アクロバチックあるいはトリッキーなキックを除けば、インサイドキック、インステップキック、インフロントキック、アウトサイドキックなどに分類されている。なかでも正確なパスができるインサイドキックと、強いボールを蹴ることができるインステップキックは「2大花形キック」といってよい。

 とりわけインサイドキックは、現代のサッカーではプレーの90%以上がこのキックで行われると言われており、育成期だけでなく、プロレベルになっても必ず毎日の練習のなかに採り入れられる重要なキックだ。強く正確なインサイドキックと、キックと同じ足の部位を使ってのボールコントロールは、現代サッカーの最も重要な技術と言っても過言ではない。

 だが「トーキック」は? 私の知る限り、この技術が育成期に組織的に教えられているとは思えない。まったく軽視されているのである。

 目の前に落ちているボールを蹴れと言われたら、初心者は必ずこのキックをする。だが、少しでもサッカーのトレーニングを受けた人なら、インサイドやインステップ、あるいはインフロントで蹴るだろう。どこに飛んでいくかわからない「トーキック」は、「邪道」とさえ思われているフシがあるのである。

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