1月26日、石川県かほく市。SVリーグ、男子オールスターゲームは、昨年1月の能登半島地震のチャリティーマッチでもあり、人気投票や推薦で選ばれた選手たちは「何かを伝えたい」と必死な様子だった。どうにかボールを拾い、果敢につなぎ、思いを込めて…
1月26日、石川県かほく市。SVリーグ、男子オールスターゲームは、昨年1月の能登半島地震のチャリティーマッチでもあり、人気投票や推薦で選ばれた選手たちは「何かを伝えたい」と必死な様子だった。どうにかボールを拾い、果敢につなぎ、思いを込めて打ち込んだ。
地震で被災した人々は、1年以上が経過した今も2万人がまだ自宅に戻れていないという。
「『頑張れ』とか、気軽に言えない」
「短くまとめられない」
「伝える語彙力がない」
多くの選手がそう前置きしながら、言葉ではなく体を使ってメッセージにしていた。
「僕たちの試合で、ひとりでも笑顔になってくれたら嬉しいです。笑顔のきっかけになれたら」
SVリーグ初のオールスター戦、男子はTEAM TOMOとTEAM MASAに分かれて行なわれた。TEAM TOMOのキャプテンを務め、女性から人気の高いリベロ、小川智大(ジェイテクトSTINGS愛知)は言葉を選びながら、朴訥な口調でこう続けた。
「(試合前に子どもたちのバレー教室を行ない)子どもたちがスポーツをする姿は好きなので。自分は指導とかはできないですが、"一緒にバレーを楽しむ"ということができました。子どもたちはみんな純粋で、無邪気にボールを追いかける姿に、"バレーを楽しむ"ということを、むしろ自分たちがあらためて教えられたような気分です」
小川は、他の選手の気持ちも代弁していた。募金活動で集まった義援金やバレーボールが被災地に送られた。
SVリーグ男子オールスター戦の前にバレー教室で子どもたちに指導する西田有志 photo by Kyodo news
超満員の会場で、彼らは何を見せたのか。
〈バレーボールを楽しむ〉
コートの上での躍動は、雄弁にそれを表現していた。その風景は、まるでSVリーグのスーパースターたちが綴った手紙のようだった。
オランダ代表オポジットのニミル・アブデルアジズ(ウルフドッグス名古屋)は2枚、3枚のブロックを打ち抜くなど、「世界」を感じさせた。MVPを受賞したアメリカ代表アウトサイドヒッター、トリー・デファルコ(ジェイテクト)はブロックに、スパイクにスケール感満載。SVリーグの外国人選手のレベルの高さを示していた。
【楽しさを演出し続けた髙橋藍】
一方、パリ五輪代表ミドルブロッカー、山内晶大(大阪ブルテオン)もクイックやサーブでクオリティの高さを見せた。同じく代表のオポジット、西田有志(ブルテオン)は強烈に左腕を振り抜いて、ブロックアウトのボールは高く跳ね上がった。世界有数のリベロ、山本智大(ブルテオン)は、観客席に飛び込みながらボールを追い、「拾う」意地に歓声が巻き起こった。さらに192cmの長身セッター、永露元稀(ブルテオン)も空の王者の如きセットアップを披露した。
彼らブルテオンの選手たちは、首位に立つ強さを顕示したと言える。コートに立った選手は、それぞれの持ち味を披露していたが、コートに立てなかった選手たちも、傍観者にはならなかった。
「盛り上げたいな、とは思っていました。ただ、おふさげが過ぎるとケガするし、そういうのは避けたいな、と。精一杯、ああいう形でやりました」
そう振り返った髙橋健太郎(ジェイテクト)は、試合には欠場するも、審判台に立ってレッドカードを連発するなどして、観客を笑わせた。
また、髙橋藍(サントリーサンバーズ大阪)も大事を取る形で出場は取りやめた、昨シーズンからのケガを押してのプレーで、再発防止のためにも休養が必要だった。しかし、彼を目当てにしていたファンも少なくなく、会場に登場して"できる限りのサービス"を心がけていた。
「髙橋藍のタオルやボールを持っている方、手をあげてください!」
コートからスタンドを見上げた髙橋がマイクで呼びかけると、いっせいにボールやタオルが掲げられた。
「最高です!」
その光景を目にした髙橋は満足げに叫び、盛り上がりを煽った。メディアでの露出が最も多いバレー選手だけに、他の選手たちよりも手慣れていた。
「明るい未来をつなげていきたい」
髙橋はそう言って、最後は「インスタグラマー」と自らを称し、エクストラな楽しさを演出し続けた。
もっとも、髙橋の真骨頂はコートでのプレーにある。人並外れた運動神経とセンスで、タイミングをずらすスパイクはワールドクラス、インナーに急角度で打ち込む一撃やバックアタックも代名詞。そしてレシーブも堅牢で安定感があり、トスもフェイクセットのようなトリッキーさも合わせ持ち、いわゆる最高のオールラウンダーだ。
彼らがしのぎを削るリーグ戦は、来週から再開する。王者サントリーは現在2位で、激しくブルテオンを追う。名古屋、ジェイテクト、東京グレートベアーズなどにも十分、逆転のチャンスはある。どこも初代王者を狙うが、チャンピオンシップも含めると長丁場が続く。
はたして、男子バレーはこの活気を梃子(てこ)に、野球やサッカーと人気で肩を並べられるのか。その一歩を占う正念場だ。
「シーズンはタフな戦いになってくると思うので、そのために準備をします。疲労、ケガも増えてくると思うから、しっかりとケアをして。常に改善させながら、その先に優勝があるように......」
再開に向け、西田の誓いの言葉だ。