開幕に向けて、各クラブが活動を開始したJリーグ。監督交代や新戦力など、各チームに動きがある中、サッカージャーナリスト後藤健生が注目するのは、J2のRB大宮アルディージャだ。日本のクラブ史上初となる「試み」がなされた大宮は今後、どのような「…

 開幕に向けて、各クラブが活動を開始したJリーグ。監督交代や新戦力など、各チームに動きがある中、サッカージャーナリスト後藤健生が注目するのは、J2のRB大宮アルディージャだ。日本のクラブ史上初となる「試み」がなされた大宮は今後、どのような「進化」を遂げるのか? 日本サッカー界、ひいては日本スポーツ界の「黒船」となりうる話題チームの「動向」!

■その「資金力」を使っての大変革は…

 もっとも、その資金力を使って一気に大変革を起こそうというわけではなさそうだ。

 たとえば、サポーターにとっては、オレンジのクラブカラーやクラブ名が変更されるのではないかという怖れもあったようだが、クラブ名は「レッドブル」を表す「RB」が頭について「RBアルディージャ」となり、エンブレムが変更されただけで、チームカラーは現在のオレンジを維持することになったし、J3リーグでチームを優勝させてJ2昇格に導いた長澤徹監督も留任。選手の入れ替えも通常程度のものだった。

 レッドブル側は日本側の事情も調査、分析しながら、長い時間をかけてゆっくりクラブを変革していく方針なのだろう。

 従って、われわれもレッドブル参入の功罪を、長い目で見ていく必要がある。

 1993年に発足したJリーグは当初は10クラブでスタートしたが、今ではJ1からJ3まで60クラブが加盟する大きな組織にまで発展した。

 そして、競技力も上がった。

 現在では、数十人の日本人選手がヨーロッパのクラブで活躍しており、各国のトップクラブで欠くことのできない戦力となっている選手が何人もいる。そして、ヨーロッパでの経験によって選手個々の能力が上がり、今では日本代表はアジアでは抜きん出た存在となっている。

■5大リーグには遠く及ばない「競技力」

 こうした状況が実現したのは、Jリーグ・クラブの育成組織が優秀な若手を育てているからであり、Jリーグの競技力が上がっているからにほかならない。Jリーグの競技レベルが高いからこそ、今ではJ1リーグで活躍できる選手ならヨーロッパに渡ってもすぐに通用するようになったのだ(しかも、日本人選手は監督の指示に忠実にプレーするし、移籍金が比較的、安くてすむのでヨーロッパのクラブにとっては“お買い得”でもある)。

 もちろん、Jリーグの競技力はイングランドやスペイン、ドイツなどのいわゆる「5大リーグ」には遠く及ばない。

 当然のことだ。「5大リーグ」のクラブは豊富な財政力を使って、日本を含めて世界中から代表クラスの選手をかき集めて編成されているのだ。それに対して、日本のクラブはせっかく育てた優秀な日本人選手を次々と引き抜かれてしまっているし、欧州や南米の代表クラスの選手と契約することは難しい。

 これは、代表選手のほとんどをイングランドのクラブに引き抜かれてしまって空洞化を起こしているベルギー・リーグと同じ現象。つまり、「輸出国」の悲哀である。

■有料テレビの「キラーコンテンツ化」で…

 Jリーグが発足した当時の状況は、まったく違っていた。

 今では信じられないことだが、1990年代のはじめ、日本は「世界第二の経済大国」であり、将来は世界最強の経済大国になるとさえ言われ、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」なる本がベストセラーとなっていた。

 創設当時のJリーグの各クラブのバックには、その「世界第二の経済大国」を牽引する巨大企業がついていたので、Jリーグ・クラブはヨーロッパのクラブに匹敵する財政力があったのだ。そのため、ブラジルやアルゼンチンの現役代表選手たちが何人もJリーグでプレーしていた。

 ヨーロッパのクラブの経営規模も、現在に比べたら小さなものだった。

 クラブのオーナーが個人的財産で運営したり、オーナー企業がスポンサーになる程度のクラブが多かったのだ。

 第2次世界大戦後ずっと独裁体制化にあって、西側諸国から経済制裁を受けていたスペインやポルトガルは経済発展から取り残され、貧しいままだった。その間、レアル・マドリードバルセロナのような強豪サッカー・クラブは、西側のクラブに選手を放出することによって貴重な外貨(米ドル)を手にすることができたので、クラブ自体が国内の大企業より裕福な状態すらあった。

 そんなクラブが相手なら、トヨタや日産、三菱といった大企業が後ろ盾になったJリーグ・クラブは互角に勝負することができたのだ。

 だが、その後、ヨーロッパではサッカーが有料テレビのキラーコンテンツとなることで、莫大な放映権料が流入することになる。そして、サッカーがビッグビジネス化すると、中東や東ヨーロッパで天然資源を牛耳っている大富豪やアメリカの投資ファンドなどから巨額の投資を受けるようになって、欧州のクラブはさらに裕福になっていった。(3)に続く。

いま一番読まれている記事を読む