浦和レッズが沖縄キャンプをスタートして1週間が経過した。失点を減らす守備の構築はできるが、得点を奪うための攻撃面に物足…
浦和レッズが沖縄キャンプをスタートして1週間が経過した。失点を減らす守備の構築はできるが、得点を奪うための攻撃面に物足りなさがあるというのが、マチェイ・スコルジャ監督に定着しているイメージだろう。
現在は前からボールを奪いに行き、全体を高く押し上げながらボールを動かして、連動性で崩すスタイルを推し進めている。
そんな中で悲願のリーグ優勝、そして6月に参加する拡大版のクラブワールドカップに向けて、大きく前に踏み出す意欲が見られるキャンプとなっている。その象徴的な存在が、ボランチを担う渡邊凌磨だ。
1月20日に行われた東京ヴェルディとの練習試合は、同じJ1で戦うライバルを相手に自分たちが取り組んできた戦い方がどれだけ通用するのか、改善するべき点を確認するには格好のチャンスだった。
スコルジャ監督は”第一次・マチェイ浦和”とも言える2023年シーズンから「ボランチに8番を二枚並べる形が理想」と語ってきたが、その年はACLファイナルで”アジア最強”の呼び声高いアル・ヒラルを破り、アジア王者になるという大目標があり、さらに年間60試合という過酷な戦いを強いられた中で、なかなか攻撃的なサッカーにシフトできなかった。
■渡邊凌磨のボランチは必然の選択
昨年はペア=マティアス・ヘグモ前監督から交代で再任し、終盤戦を任される形となったが、残留争いに向き合う中で、守備の整備が最優先となった。
そうした流れで、良く悪くもスコルジャ監督が率いる浦和には「守備的なサッカー」というイメージがすっかり染み付いてしまったが、いよいよ真の”スコルジャ浦和”を示すべく、前に踏み出すシーズンとなりそうだ。その浦和にあって、非凡な攻撃センスと抜群の運動量を併せ持つ渡邊のボランチ起用というのはある意味、必然の選択と言えるかもしれない。
ヘグモ監督の指揮下でスタートした昨シーズンは、慣れない左サイドバックでポジションを獲得し、そこからボランチ、サイドハーフで使われる試合もあったが、スコルジャ監督に交替したシーズン後半、特に終盤戦は”10番”と呼ばれるトップ下に定着。得点力不足が叫ばれる中でも、獅子奮迅の働きで6得点5アシストを記録した。
そうした個人の活躍と同時に、人一倍の責任感をピッチ内外で出して、チームを引っ張ろうという姿勢が目に付く選手でもあり、昨年夏に酒井宏樹、岩尾憲、アレクサンダー・ショルツ、伊藤敦樹と言ったリーダー格が抜けた浦和にあって、リーダーシップの面でも大きな期待を背負う一人だ。そんな渡邊が新シーズンに向けて、ボランチでほぼ固定されているのには戦術的な意味、さらにはチームワークとしての意味もありそうだ。
■グスタフソンとの関係性は
「戦術的な部分は僕は大事だと思うし、監督はそういうことを言うと思うけど、やっぱり僕はそういう部分じゃなくて、戦えたりとか、90分みんなで戦い合うチーム力、そう言うところが今年は必要になってくると思う。ピッチに立つ11人だけじゃなくて、ここにいる30人で戦うことがすごく大事だと感じたから。そこを一人残らずみんなで押し上げていければ」
そう語る渡邊は練習のゲームでも率先して声を出し、周りを動かして、合間には周囲の選手とコミュニケーションを取ったり、スコルジャ監督やコーチングスタッフと確認する。渡邊はボールを動かしながら、幅広く動いてバランスを取り、タイミングを見て前に飛び出していく。そうした渡邊の動きに生かされる形で、ボランチのもう一人の主力であるサミュエル・グスタフソンが持ち前の展開力を発揮して、長短のボールを蹴り分ける。昨年からグスタフソンのパスは浦和でも際立っていたが、彼が良い形でボールを持てるかどうかはどこか偶発的なところがあった。
しかし、キャンプから取り組むビルドアップ、そして渡邊との関係において、全体でボールを動かしながら、グスタフソンを明確な攻撃のスイッチ役として生かし、それを渡邊が柔軟にサポートする関係ができつつある。もちろん、昨年からの継続路線で、守備のベースが高いヴェルディに対して、つなぎに苦しむシーンも見られたが、取り組んでいることから逃げずに続ける姿勢が見られたことはポジティブなことだ。
戦術というのはチームで作り、磨いていくものだが、やはり軸になる選手は必要だ。現在の浦和では間違いなく、それが渡邊であり、その存在によってグスタフソンというスペシャルな個性がより生かされる。”ダブル8番”ではあるが、その中で渡邊がバランサー、グスタフソンがトリガーという大枠の分担があることで、周りの選手も共有しやすいだろう。もちろんボランチには新加入の松本泰志、そして怪我により、現在は全体練習から離れている安居海渡や柴戸海と言った選手もいるが、シーズン開幕戦に向けて、渡邊とグスタフソンがボランチのファーストセットになって行きそうだ。
(取材・文/河治良幸)
(後編へ続く)