早稲田大・花田勝彦監督インタビュー(後編)早稲田大は最終10区で國学院大にかわされ、総合4位でフィニッシュ photo by Kishimoto Tsutomu>>前編(総合4位と健闘した早稲田大・花田勝彦監督が明かす「3強崩し」の戦略 「…

早稲田大・花田勝彦監督インタビュー(後編)


早稲田大は最終10区で國学院大にかわされ、総合4位でフィニッシュ

 photo by Kishimoto Tsutomu

>>前編(総合4位と健闘した早稲田大・花田勝彦監督が明かす「3強崩し」の戦略 「往路は想定した順位のなかで一番いい位置で終えられた」)はこちら

 第101回箱根駅伝、「3強崩し」を目標に掲げていた早稲田大は往路を3位で終えた。青山学院大には前を行かれたものの、駒澤大、國學院大には先着。それも、相手の誤算に乗じたわけではなく、自分たちの想定通りの走りで凌駕しての3位だ。勢いそのまま、復路も順調なスタートを切ったが、最終的な結果は國學院大と10秒差の総合4位。果たして、早稲田大の復路では何が起きていたのか。花田勝彦監督に振り返ってもらった。

【復路は私の判断が甘かったのかな】

――復路スタートの6区は、初めて山を下る山﨑一吹選手(2年)でした。区間5位のすばらしい走りを見せましたが、かなり下りの練習をしてきたのですか。

「下りに関しては、夏前ぐらいから草野(洸正)(4年)が始めていて、11月に入って和田(悠都)(4年)と山﨑も始めた感じですね。その中で調子のいい選手を起用するというスタンスでいました。当日、山﨑に何かあっても草野がいるし、そういう体制が出来ていたので心理的に落ち着いて6区のスタートを迎えられました」

――それは前回の6区でブレーキがあったことも影響していますか。

「そうですね。前回は6区で区間20位と流れが悪くなったので、今回は悪くても1時間00分は切りたいと思っていました。山﨑については1時間00分を切るくらいのタイムで区間10位前後かなと予想していたのですが、それ以上のタイム(58分45秒)で区間5位とすばらしい走りをしてくれました。復路でいいスタートが切れたので、7区、8区、9区の4年生が自分の走りをして、10区で好調の菅野(雄太)(4年)につなげれば、3位をキープできるチャンスがあるかもしれないと思っていました」

――その3位をキープできなかったという結果から考えると、復路は監督の計算通りにはいかなかったということですか。

「私の判断が甘かったのかなと思います。7区、8区、9区には正直、不安がありました。7区の伊藤(大志)(4年)は全日本の後、なかなか調子が上がってこなかったんです。8区の伊福(陽太)(4年)は調子に波があったので、箱根本番へのピーキングが心配でした。9区の石塚(陽士)(4年)は出雲、全日本で使わなかったのですが、トラックで徐々に調子を上げてきたんです。ただ、ハーフの(距離に対応する)スタミナで不安があって......。

 一方で宮岡(凜太)(3年)がしっかりと練習できていましたし、来年を考えて吉倉(ナヤブ直希)(1年)を起用するという手もあったので、かなり迷いました。でも、最後の最後に来て(4年生の)3人とも調子を上げてきたので、外す理由がなくなった。また、4年生がこのチームを作ってきたので、その4年生の力に賭けてみようということで3人を起用しました」

――7区の伊藤選手はキャプテンでもあり、チームの中心でした。

「伊藤は全日本の後、キャプテンとしてチームのことに気を配って、気疲れしていたところもあったので、『自分のことに集中しなさい』と伝えました。最後、本番4日前ぐらいに調子が上がってきて、これなら走れるというところまで戻してきたんです。厳しい走りになりましたが(区間11位)、よく粘ってくれたと思います」

――8区の伊福選手は、調子の波をうまく本番に合わせられたのですか。

「伊福に関してはレース当日、アップしている時に胸が痛いと言っていると連絡が来たんです。3年時も全日本でアンカーだったんですけど、レース後、脱水症状で医務室に運ばれたこともあったので、走り出してゴールするまでの1時間くらいはずっと心配しました。実際の走りもなかなかピッチが上がらなかったのですが(区間11位)、中央大や城西大など他校もあまり良くなかったので、その展開に助けられて、悪いなりに順位をひとつ上げられた感じでした」

【青学大との10分差をどう縮めるか】

――9区は戦前、キーマンのひとりに挙げていた石塚選手でしたが、区間15位と苦戦しました。

「なんとか箱根に間に合わせてくれたのですが、9区は23.0㎞と距離が長いので事前にプランを話し合いました。後半が勝負なので、前半はブレーキをかけないようにしながらも、ある程度は流れに乗っていきつつ、余裕を持っていこうと送り出したのですが、最初の3㎞でペースが上がらない感じで、5㎞から10㎞はかなりペースダウンしてしまいました」

――8区がスタートする時、4位の國学院大には1分29秒の差をつけていましたが、9区が終わる鶴見中継所では1秒差まで詰められました。

「國學院大は復路に強いメンバーを残していましたが、それでもアンカーにタスキが渡った時点で30秒くらい差をつけられていれば、3位は狙えると思っていました。そういう意味では石塚のペースが上がらずに予想よりも早く追いつかれてしまったのは残念でした」

――10区は3年連続となる菅野選手。前回大会は区間5位で、今回は調子も良かったと聞いています。最後は國学院大に突き放されてしまいましたが、区間5位の安定した走りでした。

「私が(2022年に)監督に就任した時、チームは故障者ばかりで数人しか練習できない状態だったのですが、菅野はその練習ができていた数少ない選手のひとり。持ちタイムは速くありませんでしたが、期待をしていた選手です。今回、調子が良く、『チャンスがあれば区間賞を狙う』という話をしていたので、『思い切って狙ってもいいんじゃないかな』と話をしていました。

 國學院大の吉田蔵之介選手(2年)と並走し、15㎞まで菅野がレースを作っていましたが、相手がかなり強いので、この勝負は勝てればラッキーと思っていました。結果的に負けましたが、たたき上げの選手が優勝を目指すチーム(國學院大)に対して積極的なレースをできたというのは、彼にとってもチームにとって大きな財産になったと思います」

――10時間50分57秒、総合4位という結果について、あらためてどう受け止めていますか。

「タイム的には10時間50分台をクリアラインの目標にしていたので、そこはしっかりクリアできて良かったですし、チームの力としても、出雲は60%、全日本は80%くらいで、今回の箱根では90%以上を出せ、成長を感じました。ただ、上を見ると青山学院大との差は10分近くあります。これを逆転するには、ひとり1分縮めていかなければなりません(苦笑)。とはいえ、これは昨年までだと夢物語だったんですけど、今はそれが不可能ではないというチームになってきたので、そのくらいやって他大学を驚かせたいですね」

――青山学院大に迫るためにすべきことは見えていますか。

「想定タイムで走るのは大事なことなのですが、ハイペースになった時、恐れずにそれに乗っかっていくような走りができないといけないので、そういう選手を作っていかないといけない。もともと10000mで27分台(の記録を持つ選手)が5人以上は必要だなと思っていましたが、同様にリミッターを外して走れる選手も作っていかないといけません。

 あと、ウチは先頭を走った経験がない。先頭で走るのは非常に有利なんですけど、ウチの選手は前を走ることでプレッシャーを感じて、戸惑ってしまう傾向にあります。そこも来年の箱根までには変えていきたいと思います」

【青学大の原監督に初めて言われたこと】

――監督が取り組んできた意識改革は、これまで順調に進んできていますか。

「選手には自分で考え、自分で判断して戦える力を身につけてほしいと思って指導していますが、簡単ではないですね。練習中、よく選手から『設定タイムは?』と聞かれますが、それは監督が決めるものではなく、自分がどういう選手になりたいのかというところから逆算して自分で決めるべきなんです。(箱根のレース中も)本来なら運営管理車からいろいろ声掛けすべきなのかもしれないですけど、私は選手が自分で判断して走ってほしいと思うのであれこれ言いません。レース中、一番アドバイスをしない監督だと思います。

 早稲田から世界で戦う選手が出てほしいと思っていますが、五輪や世界陸上で運営管理車はないので、自分で考え、判断して勝負していかないといけない。それが学生に浸透し、考えて走れる選手が10人揃うと、より強いチームになれると思っています」

――意識も含めて、今後は個の成長をより促していくイメージでしょうか。

「私たちが大学生の頃は、『早稲田のエース=(イコール)学生のエース』だったので、そういう選手が出てくると、駅伝でもおのずと結果がついてきます。今は駒澤大や青山学院大のエースが学生のトップなので、優勝争いに参加できていると思うんです。早稲田が優勝争いをするためには、個人の成長が必要になってきます。

 例えば夏合宿からはチーム全体で駅伝に向けて練習をやっていく形は変わりませんが、それ以外のところでは、一昨年のようにエース格の選手を海外遠征や合宿などに行かせて、いろいろな経験を積ませたりしたいと考えています。その手始めとして、この2月には第2弾となる駅伝強化のためのクラウドファンディングを予定しています。前回も多くの方にご支援をしていただきましたが、応援してくださる方々の期待に応えられるようなチーム作りをしていきたいですね」

――次のシーズンはダブル山口(智規、竣平)、山の名探偵(工藤)がいて、さらに強力なルーキーが入ってくるので楽しみですね。

「山口智規は、ちょうど私が指揮を執り始めた年に入学した世代で、今春に新入生が入ってくると、4学年すべて、私がイチから指導した部員たちが揃うことになります。また、主要区間の2区の候補がいて、山(5区、6区)も揃っていますし、そういう意味では優勝するチャンスがあるんじゃないかなと思っています。

 そこにルーキーの鈴木琉胤君(八千代松陰、昨年12月の全校高校駅伝・1区区間賞)が入ってくるわけですが、彼は渡辺康幸(住友電工監督)レベル、ひょっとしたらそれ以上の力がある選手だと思っていますし、佐々木哲君(佐久長聖、同・3区区間賞)も非常に能力が高い。私が指導してきて意思統一できている3学年とともにチームがまとまっていければ非常に楽しみですね」

――青山学院大の背中をとらえられそうでしょうか。

「早稲田を指導して3年目で、初めて原(晋)さん(青山学院大監督)に『早稲田は来年強いね』と言われたのですが、ようやく意識してもらえるところに来たなと思います。周囲にも『やっぱり早稲田、来たな』と思わせるレースが今回できました。今年はチームの力を出し切っても3位から5位ぐらいだったのですが、次のシーズンでは少なくとも力を出し切ったら優勝争いができる、勝てるよねっていうチームにしたいです。(OBの)瀬古(利彦)さんにも『山(に計算できる選手)がいるうちに勝たないとな』と言われています(笑)」

■Profile

花田勝彦/はなだかつひこ

1971年生まれ、滋賀県出身。彦根東高校を経て早稲田大学へ入学。3年時には箱根駅伝で総合優勝、4区区間賞(区間新)。1994年にエスビー食品陸上部へ進み、1996年アトランタ五輪で10000m、1997年アテネ世界陸上でマラソン、2000年シドニー五輪で5000m・10000m日本代表。2004年に引退後は上武大学駅伝部の監督に就任、同大学を2008年箱根駅伝初出場に導き、以来8年連続で本選出場。2016年GMOインターネットグループ陸上部監督に就任。2022年6月より早稲田大学競走部駅伝監督に就任。