基本的には飛距離と方向はトレードオフの関係。飛距離を優先するとある程度方向が犠牲になるし、方向を優先すると飛距離を犠牲にせざるを得ない。とはいえ、飛距離と方向は可能な限り両立させたいもの。そのためには、桑木志帆のスイングを参考にしてみると良…

基本的には飛距離と方向はトレードオフの関係。飛距離を優先するとある程度方向が犠牲になるし、方向を優先すると飛距離を犠牲にせざるを得ない。とはいえ、飛距離と方向は可能な限り両立させたいもの。そのためには、桑木志帆のスイングを参考にしてみると良いかもしれない。

桑木は昨季、初優勝を含めて3勝。最終戦の国内メジャーであるツアー選手権も制し、メルセデスランキングは6位に入った。米ツアー挑戦が期待されるまでに成長した桑木の武器は、飛距離が出てフェアウェイキープ率が高いドライバーショット。

飛んで曲がらないショットを繰り出すスイングのポイントを探ってみたい。

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■トータルドライビング1位

まずは、桑木のドライバーショットのスタッツを見てみる。

ドライビングディスタンスが、249.42ヤードで17位。フェアウェイキープ率が、71.0543%で19位。トータルドライビング「36(※)」は2位佐久間朱莉に4ポイント差をつけて1位となった。

このドライバーショットの精度の高さは昨季からのものではない。

メルセデスランキング51位だったルーキーイヤーの22年もトータルドライビングは1位だった。未勝利ながらメルセデスランキング10位に入った23年も、トータルドライビングが12位と、高い水準のドライバーショットを披露していた。

過去のデータに見る桑木のドライバーショットの精度の高さは、日本トップレベルと言える。

※ドライビングディスタンス順位とフェアウェイキープ率順位を合算した値。36より良いトータルドライビングの値を出したのは、20-21シーズンの西郷真央ただ一人(トータルドライビング:33)。

■桑木の4つのスイングの特徴

桑木のスイングの特徴を4つ挙げる。

1つ目はレイドオフのトップオブスイングだ。桑木の、飛球線後方側からのトップオブスイングのシャフトの向きを見ると、飛球線よりも左を向くレイドオフになっている。飛距離が出る選手は飛球線よりも右を向くシャフトクロスが多いが、シャフトクロスは、ヘッド軌道やフェースの向きが不安定になりやすく、方向が犠牲になりやすい。

桑木はレイドオフにすることで、方向の安定感を確保している。

2つ目は、切り返しの手とクラブの時間差だ。バックスイングからダウンスイングへの切り返しで、手が降りてきてから時間差でヘッドが降り始めている。一般的に言われている‟タメ”が強く、‟クラブが体に巻き付く”切り返しになっているのだ。

手とクラブの時間差が大きいほど、シャフトのしなりを生かす手首の動きをしやすくなるため、インパクト時のヘッドスピードを上げやすくなる。

3つ目は、インパクト時の手の低さ。切り返しで手とクラブの時間差を大きくしようとすると、ダウンスイングで手が浮きやすくなる。‟振り遅れ”の状態だ。こうなると、インパクトでスムーズにヘッドを走らせたり、再現性高くフェースをスクエアにしてインパクトすることができない。

切り返しでの時間差を、ふところ(手と体の間の空間)の広さを保ちながら作ることで、手の浮きを抑えた振り遅れのないインパクトが可能になるが、その動きを桑木は実現させている。

また、ダウンスイングで肩甲骨が過度に挙上せず、首が長い状態を保てていることも、インパクト時の手の低さにつながっている。

4つ目は、ベタ足インパクトだ。フォロースルーの後半まで右足かかとを上げずにスイングしているが、これも、切り返しでの手とクラブの時間差を生かしたインパクト時のヘッドの加速につながる。

手とクラブに時間差が生まれ、そのまま手が加速し続けてしまうと、ヘッドは加速しない上にフェースが開いたインパクトになってしまう。手がインパクト前に減速すれば、シャフトのしなりが生かされてヘッドが加速する。右足かかとを上げずにねばることは、軸ブレを抑える効果に期待でき、その‟手の減速”の再現性を高めることにつながる。

ちなみに、ダウンスイングからインパクトで右足かかとをねばる動きは、日米の女子ツアーで韓国旋風が巻き起こっていた時代にフォーカスされていた動き。国をあげての強化プロジェクトの一つのメソッドが‟ベタ足インパクト”である。

■メルセデスランキング 米ツアー挑戦組除くと2番手

「切り返しでの手とクラブの時間差」「インパクト時の手の減速」が高いレベルで融合した時、効率よく飛距離を出しやすくなる。そして、「レイドオフのトップ」「インパクト時の手の低さ」が加わることで、再現性高くインパクトでフェースの向きをスクエアにしやすくなり、方向を安定させやすくなる。

これらを実現させている桑木は、昨季のメルセデス・ランキング6位だが、1位の竹田麗央、2位の山下美夢有、3位の岩井明愛、5位の岩井千怜は、来季から米ツアーに主戦場を移す。

ということは、日本ツアーを主戦場にする選手の中ではランキング2番手、という位置付けで今季戦うことになる。

自身よりも若い選手の躍進も予想されるが、桑木は日本ツアーをリードしていく存在。

今季も、桑木の飛ぶ要素と曲がらない要素をミックスさせたスイングと、そのスイングから繰り出されるドライバーショットに注目だ。

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著者プロフィール

野洲明●ゴルフ活動家

各種スポーツメディアに寄稿、ゴルフ情報サイトも運営する。より深くプロゴルフを楽しむためのデータを活用した記事、多くのゴルファーを見てきた経験や科学的根拠をもとにした論理的なハウツー系記事などを中心に執筆。ゴルフリテラシーを高める情報を発信している。ラジオドラマ脚本執筆歴もあり。