これぞレッドブル──という「きらめき」と「眩しさ」にあふれていた。 レッドブル傘下となったJ2リーグのRB大宮アルディージャが、1月9日にキックオフイベントを開催した。新加入選手やスタッフのお披露目がメインでも、新体制会見といったお決まり…
これぞレッドブル──という「きらめき」と「眩しさ」にあふれていた。
レッドブル傘下となったJ2リーグのRB大宮アルディージャが、1月9日にキックオフイベントを開催した。新加入選手やスタッフのお披露目がメインでも、新体制会見といったお決まりのタイトルにはしない。モータースポーツやアクションスポーツの大会、ゲーミングや音楽のイベントも手掛ける「レッドブルならではの演出」が詰まっていたからだ。
数千万円の予算を割いて開催されたキックオフイベンド
photo by Ⓒ2024 RB OMIYA Inc.
ネオンの光が空間を彩り、DJが空気を操る雰囲気は、さながらクラブのようだ。実に数千万円とされる予算も含めてJリーグのクラブでは前例のない規格で、「必要なもの」には投資を惜しまないレッドブルらしい華やかさに彩られていた。
だからといって、レッドブルはトップチームの強化に巨額の資金を、それもいきなり投入するようなことはしない。株式を取得して経営権を握っても、NTT関東から積み上げてきたクラブの歴史をリセットするとか、未来を自分たちの色だけで染めるようなことは考えていないのである。「外資参入=乗っ取り」といった乱暴な図式は当てはまらない。
親会社となる『レッドブルゲーエムベーハー(以下レッドブル)』のオリバー・ミンツラフCEO(最高経営責任者)は、「これまで歩んできた道を継続しながら、さらに広げていく。それは、一夜にしてはならないものです。一歩ずつ進んでいく」と話す。グループ内の全世界のスポーツチーム運営部門を統括する彼は、「大宮アルディージャというチームの一部になれたことを、とてもうれしく思っています」と笑顔で説明する。
レッドブルサッカー(RBS)のマリオ・ゴメスTD(テクニカルダイレクター)も、「1年から1年半の時間をかけていろいろと協議をしながら、大宮アルディージャというクラブに大きなポテンシャルを見ました」と語る。この元ドイツ代表FWも、拙速な変化は望まない。
「そのポテンシャルに私たちのナレッジを加えて、さらに発展させていきたい。J1にしっかり根づいていくようにしたいが、それは一夜にしてはなりません。何かを急に変えるのではなく、ステップ・バイ・ステップで、しっかりとチームを発展させていきたい。そのために、クラブの関係者と信頼関係を深めるのが大切です」
【強力なレッドブルのネットワーク】
9日のキックオフイベントで発表されたファーストユニフォームには、両肩、パンツ、ストッキングにアルディージャのクラブカラーだったオレンジが明確に採用されている。GKのファーストユニフォームは、オレンジが前面に押し出されたデザインだ。レッドブルお馴染みのロゴが胸に入るものの、大宮アルディージャとしての歴史が尊重されたと言えるだろう。
昨年夏の株式譲渡後、レッドブルの関係者はたびたび来日してきた。レッドブルはRB大宮の関係者の欧州訪問も打診しており、昨年12月に原博実代表取締役兼フットボール本部長、長澤徹監督とスタッフ数人がオーストリアとドイツを訪れている(原本部長は1月1日付で代表取締役社長に就任)。同時期にフロントスタッフもドイツへ赴き、チケット、マーチャンダイズ、営業を担当する現地スタッフらとミーティングを重ねた。
RBライプツィヒのヨハン・プレンゲCBOと原博実社長
photo by Totsuka Kei
原社長は「一緒にやっていこうという姿勢が、いろいろなところに見えるんです」と声を弾ませる。ドイツ滞在中にはブンデスリーガ1部のRBライプツィヒのホームゲームが行なわれ、原社長らは前日練習の見学を許可された。
「普通は見ることができないもので、そういうところに彼らの気持ちが表われていると思うんです。お互いを知って一緒にやっていこう、一緒に強くしていこう、と。上から目線で言われたことは、一度もないですね」
RBSのネットワーク入りしたことで、RB大宮はどのような利益を享受できるのだろうか。RBライプツィヒのヨハン・プレンゲCBO(最高ブランディング責任者)に聞くと、「いいところはホントにたくさんありますよ」と前のめりに語る。
「ピッチ内においては、RBライプツィヒもブラジルのレッドブル・ブラガンチーノも、ニューヨーク・レッドブルズも、共通のフィロソフィーのもとで選手を育成し、勝利へ向かっています。ピッチ外へ目を移せば、スカウトのシステム、メディカルの体制、アカデミーの施設......スポンサーの獲得などについても、私たちの経験やネットワークが、よりよいものを作る助けになると思います」
【長澤監督が語ったふたつの約束】
レッドブルからRB大宮へ、すでに人材も派遣されている。株式譲渡に関わってきたフィリップ・ヴンダーリッヒ氏がコマーシャルダイレクター(CD)としてスタッフ入りしているのだ。
フィリップCDは9日のイベントで、原社長、山本佳津スポーツダイレクターとともに登壇し、「レッドブルが持つグローバルネットワークを届けていきたい。今日は夢の始まりです」と高らかに宣言した。
RB大宮が、RBSのネットワークから利益を得るだけではない。RBライプツィヒも学びを得たいと考えている。
プレンゲCBOが続ける。
「日本のサッカーはドイツ・ブンデスリーガにとどまらず、世界的に評価されていると思います。それがどうやって生まれているのか。選手の育成もそうですし、サッカーを形作る意味で日本の文化をしっかりと学びたいと思っています。
日本人の規律のすばらしさ、尊敬を持っていろいろなことに取り組む姿勢、礼儀。全身全霊をかけてハードワークをしながら取り組む。そういったものを学べるチャンスだと思っています」
マリオ・ゴメスTDによれば、RBSのクラブは「攻守にアグレッシブであること、インテンシティが高いこと、高い集中力をもってハードワークすること、観ている人たちを熱狂させる」とのフィロソフィーを共有している。現代サッカーのトレンドを、しっかりとキャッチアップしているのだ。
プレーモデルが確立されていることを、原社長も評価する。
「監督がこういう選手が好きだから、といったように属人化したものではなく、一貫したフィロソフィーに基づいて、どういう指導者にチームを任せて、どういう選手を集めたらいいのかがはっきりしている。それをグループ内で一緒に協力して、ブレずにやっていけたら面白いと思います」
キックオフイベントでマイクを握った長澤監督は、「ふたつ約束したいと思います」と話した。就任2年目の指揮官は、チームがグループ入りする前からRBライプツィヒのサッカーに刺激を受けてきた。
「ひとつは、第1節から最終節の第38節まで、すべてのゲーム、襲いかかります。もうひとつは、信じるに値するチームを最終的に作ります」
【世代有望株DFもRB大宮を選んだ】
クラブはJ1昇格をターゲットとする。「簡単ではないと思いますが、J1昇格を目指して戦っていきたい」と、原社長は明言した。
昨シーズンは期限付き移籍だったFW杉本健勇とMF泉柊椰が、完全移籍に切り替わった。昨シーズン10得点7アシストの元日本代表と、6得点6アシストの24歳のドリブラーは、引き続き攻撃の中核を担っていくだろう。U-19日本代表で主将を務める、アカデミー出身にして世代有望株のCB市原吏音(りおん)も、複数の選択肢のなかからRB大宮を選んだ。
即戦力も獲得している。J1の京都サンガから実績十分のFW豊川雄太、J2の横浜FCからCBガブリエウとMFカプリーニが加わった。30歳の日本人アタッカーはゴール前で勝負強さを発揮し、横浜FCからやってきたブラジル人コンビはJ1昇格の経験をチームに落とし込んでいくのだろう。
CBとして守備を統率するであろうガブリエウは、「クラブとしてのプロジェクト、どこへ挑んでいくんだというところに魅力を感じました」と言葉に力をこめた。「どこへ」とは短期的にはJ1昇格を指し、中長期的にはJ1定着からJ1での優勝争い、さらにはアジア進出を意味するはずだ。
「そのために必要なメンバーが集まっていると感じます。自分たちが勝者になるためにどれだけできるのか、突き詰めてやっていける選手が揃っている」
ド派手なキックオフイベントについて聞かれると、「今まで見たことのない、言葉にならないようなすばらしいものでした」と笑みをこぼした。「これだけのことをやってもらったのだから、自分たちは結果で示していかなければいけない」と、すぐに表情を引き締めるのも忘れない。
横浜FCで背番号10を背負ったカプリーニも、「レッドブルのような大きな資本のクラブでプレーできるのは光栄でしかない。それから、大宮というクラブが日本においてどういうものを示しているのかもわかっていました。このチームに貢献できる、このチームでやりたいなと思ったんです」と、率直な思いを明かした。彼もまた、キックオフイベントに大きな刺激を受けた。
「ガブリエウとも話したのですが、クラブは本気だなと感じました。間違いなく今年はやれるな、と思っています」
レッドブルのグローバルネットワークに加わったことで、RB大宮は大いなる野心を抱き、バイタリティに満ちあふれている。ファミリー感が前面に出ていたこれまでとは、明らかに異なる空気がチームを包んでいる。前向きなエネルギーがはっきりと、ストレートに押し出されているのだ。
「翼をさずける」とのレッドブルのキーワードは、すでにチームの細部にまで行き渡っている。