多くの猛者たちをリングに沈めてきた井上。その強打に秘められた強さの秘訣とは?(C)TakamotoTOKUHARA/CoCoKARAnext「スキルが高い者同士だからこそ分かるんだ」「いやぁ……なんというか、本当…
多くの猛者たちをリングに沈めてきた井上。その強打に秘められた強さの秘訣とは?(C)TakamotoTOKUHARA/CoCoKARAnext
「スキルが高い者同士だからこそ分かるんだ」
「いやぁ……なんというか、本当に説明するのは難しいけど、間違いなく『破壊的』という言葉がふさわしいよ」
これは2020年11月に、当時バンタム級2団体統一王者だった井上尚弥(大橋)と「ボクシングの聖地」とも言われるラスベガスで対峙した、元WBO世界バンタム級王者のジェイソン・モロニー(豪州)の言葉だ。現地時間1月6日にフィリピンのYouTubeチャンネル『WINTER TV』で、言葉を選びながら回想した。
【動画】モロニーが病院送りとなった「見えない」一撃 井上尚弥の衝撃KOをチェック
世界が「モンスター」と恐れる日本人の持つ凄みをモロニーは、こうも評している。
「イノウエの強さは単純なパワーだけじゃない。彼は総合的に優れたファイターなんだ。スピードやフットワーク、距離感の支配とか冗談抜きにすべてが一流だ。とても頭も良いボクサーでもあるしね。ただただパワーだけで他との差をつけているわけじゃない。もちろん別次元のパワーは持っている。
けど、爆発的なスピードとのバランスが絶妙なんだ。試合序盤に何度かもらった時は、正直に言って『これなら大丈夫だ。受けてきたようなパンチだな』ぐらいに思っていた。でも、僕がダウンさせられたあの2発はとにかく速すぎて、全く見えなかった。『見えないパンチ』って本当にダメージを受けるんだ」
モロニーが「見えない」と繰り返したパンチは確かに衝撃的だった。
6回に左フックを炸裂させてモロニーから最初のダウンを奪った井上は、続く7回にカウンターの右ストレートを炸裂。渾身の一撃をこめかみ付近に打ち込まれた豪戦士は、膝から力なく崩れ落ちた。直後に病院送りになった事実からもダメージの深さは容易に想像ができた。
全く見えなかった――。井上との戦いを終え、同じような感想を漏らしたファイターはモロニーだけではない。23年7月の対戦でTKO負けを喫していたスティーブン・フルトン(米国)は、昨年11月に出演した米ポッドキャスト番組『Cigar Talk』内で、「イノウエの技術は本当に高かった」と称賛。その上で独自の「モンスター評」を展開していた。
「スキルが高い者同士だからこそ分かるんだ。お互いに強者だからこそ分かる強さってあるんだよ。イノウエの『見えるパンチ』に関しては、受けても何とかなるレベルではあった。さほど距離を取らなくてもブロックで対応できたんだ。ただ、俺が倒されたパンチはハッキリ言って見えなかった。それがイノウエの強さなんだ。PFP1位に納得かって? 当たり前だ」
「パワーだけじゃない」パンチが持つ“異質さ”
視野で捉えられるパンチであれば、磨き上げたブロックやステップワークで対応できる。しかし、ほんのわずかな隙を突いて打ち込まれる強打は、どれだけ対策を練ろうとも打開されてしまう。“世界の頂点”に立った2人の元王者が、言い回しこそ違えど、全く同じ見解を示しているのは興味深い。
ちなみに井上の敵なしの強さを体感したモロニーは、「パワーだけじゃない」とするパンチが持つ“異質さ”も強調している。
「イノウエのパンチには『これで倒してやる』という意思が込められているんだ。受けたらそれが分かるんだよ。彼は自分のパンチに絶対の自信を持っているからこそ、『一発をもらっても、打ち込んでやる』という覚悟を持っていられるんだ。それが戦っていると伝わってくる」
いまや日本ボクシング史でも不世出と言うべき存在となった井上。その才覚は、敗者となった元世界王者たちが言うように「異次元」である。
来る1月24日には、IBF&WBO世界スーパーバンタム級1位のサム・グッドマン(豪州)との4団体防衛戦を控えている。ここでも数多の名手をリングに沈めた井上の「見えないパンチ」が猛威を振るうか。間近に迫るゴングの瞬間が待ちきれない。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
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