プレミアリーグ日本人選手 前半戦評価 後編英国大手一般紙『ガーディアン』で活躍しているジョン・ブルーウィン記者が、プレミアリーグで奮闘する日本人選手を評価。後編では鎌田大地、遠藤航、菅原由勢の前半戦を総括してもらった。前編「三笘薫、冨安健洋…

プレミアリーグ日本人選手 前半戦評価 後編

英国大手一般紙『ガーディアン』で活躍しているジョン・ブルーウィン記者が、プレミアリーグで奮闘する日本人選手を評価。後編では鎌田大地、遠藤航、菅原由勢の前半戦を総括してもらった。

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出場時間の少ない遠藤航を英国人記者はどう見ているか

 photo by Getty Images

【前半戦は苦戦の連続】

鎌田大地(28歳)/クリスタル・パレス(前半戦順位:15位) 
プレミアリーグ前半戦評価:D(AからEの5段階)

 フランクフルト時代に共にヨーロッパリーグを制したオリバー・グラスナー監督に請われ、鎌田大地は昨夏にロンドンへ移ってきた。ラツィオとの契約を終えてフリーで加入したこともあり、推定週給10万5000ポンド(約2000万円)の契約を結び、クラブで最高のサラリーを受け取っている。初めてプレミアリーグに挑戦するにあたり、鎌田には夢のような環境が整っていた。

「クラブのプロジェクトは、自分にもすごく合っていると思います」と鎌田はクラブ公式の最初のインタビューで語っている。「クリスタル・パレスで新しい歴史を築いていけたらいい。それがここに来た一番の理由です」。

 ところが、前半戦は苦戦の連続だった。グラスナー監督は昨季後半戦に途中就任し、チームを一時的に復調させたが、相手の研究が進んだこともあり、それがシーズンを跨いで続くことはなかった。開幕から2連敗し、3つの引き分けと3連敗を経て、初白星を手にしたのは、第9節ホームでのトッテナム戦(1-0)。その試合で最終盤に投入されただけの鎌田は、バイエルンへ去ったマイケル・オリーセの代役として期待されていたが、ポジションも定まらず、リーグ戦ではいまだに得点もアシストも記録していない。

 グラスナー監督が採用する3-4-3のシステムで、フランクフルト時代の鎌田はセカンドストライカーとセントラルMFのポジションを兼務していた。新天地ではまずオリーセの後釜として前めで起用されたが、結果的に同じく新加入のイスマイル・サールのほうが適していることが判明。

 一方の中盤には、昨季にブレイクした20歳のアダム・ウォートンが負傷離脱したものの、ジェフェルソン・レルマとシェイク・ドゥクレ、さらにはウィル・ヒューズとの定位置争いで分が悪くなった。

 指揮官から信頼されて先発していた序盤戦で結果を残せなかったのだから、致し方ない。やはり初めてのプレミアリーグでは、スピードやフィジカルの適応が困難なのだろうか。

 また、鎌田は第11節のフラム戦で後半にケニー・テテを激しく削り、即座にレッドカードを提示された。スパイクの裏を見せてイーブンボールに飛び込んだ姿は、うまくいかないシーズンに溜め込んでいたフラストレーションの発露と捉えられても、仕方あるまい。

 その後の4試合を経て、復帰戦となったブライトン戦には途中から出場して、3-1の勝利に貢献。しかし翌17節のホームでのアーセナル戦には先発したものの、1-5の大敗を喫した。以降の3試合は終盤に投入されただけだ。

 一部のクリスタル・パレスのファンは、予算規模の小さいクラブが活躍できない新戦力に、巨額のサラリー(年収およそ10億7000万円)を払っていることを懸念し始めている。グラスナー監督はまだ鎌田を信じているはずだが、少しずつ調子を上向かせているチームに足並みを合わせられなければ、放出候補の一番手にもなりかねない。

【今では重要な戦力のひとり】

遠藤航(31歳)/リバプール(前半戦順位:1位) 
プレミアリーグ前半戦評価:C(AからEの5段階)

 昨季のパフォーマンスにより、遠藤航はリバプールのファンのカルトヒーローとなった。エネルギッシュなハードワーカーはユルゲン・クロップ前監督のチームにフィットしていたが、今季からチームの指揮を執るようになったアルネ・スロット新監督の信頼は、まだ掴めていない。

 とはいえ、完全に道が閉ざされたわけではない。今シーズンのプレミアリーグではまだ一度も先発していないが、4つのコンペティション――プレミアリーグ、チャンピオンズリーグ、FAカップ、リーグカップ――を戦うチームには、遠藤が必要になる時が来るはずだ。

 2024年の最終戦となった第19節ウェストハム戦では、今季最長の出場時間となる33分(+アディショナルタイム)を記録。試合後にスロット監督は遠藤について、次のように語っている。

「短い時間の出場を嫌がる選手はいるものだが、彼はこちらの要求を受け入れ、チームのために働いてくれる」

 また12月18日に行なわれたサウサンプトンとのリーグカップ準々決勝では、センターバックとして先発し、クラブが選ぶマン・オブ・ザ・マッチに輝いている。汎用性の高さを示し、自らの可能性を広げるとともに、指揮官にも有用なオプションをもたらした。

 振り返れば、今季序盤戦でスロット監督が遠藤を起用しないことから、ドイツへの移籍が囁かれていたが、おそらくその線は消えたはずだ。この冬のマーケットでも動きはないと予想する。

 なぜなら指揮官はこの半年の間に、遠藤の練習での姿勢や、短時間でもピッチで任務を遂行する姿に感銘を受け、今では重要な戦力のひとりとして考えているようだから。

「試合数が多いチームは、11人だけで戦うことはできません」と遠藤は昨年9月に語っている。「いずれ、自分の出番が来るはず。フィジカルコンディションは問題ないし、充実したトレーニングができている。この年齢で経験も積んでいるので、試合勘も問題ない」

 少ない時間でもピッチに立てば、その言葉どおりのプレーをする。国内のライバル、フラムが熱視線を送っているとも報じられているが、リバプールに留まり、自身の役割を全うし続ければ、その先には大きなタイトルが待っているかもしれない。

【明るい性格とスキルでファンのお気に入りに】

菅原由勢(24歳)/サウサンプトン(前半戦順位:20位) 
プレミアリーグ前半戦評価:C(AからEの5段階)

 サウサンプトンは実に困難なシーズンを送っている。開幕からひとつの引き分けを挟んで8連敗し、第10節のホームでのエバートン戦でなんとか初白星(1-0の勝利)を掴んだものの、その後も状況は好転せず、12月にラッセル・マーティン監督が解任された。長らく最下位に沈んでいるチームの降格は不可避だろう。

 そんな厳しいクラブでも、菅原由勢は持ち前の明るい性格とフットボールスキルで、ファンのお気に入りになった。マーティン前監督もこの日本代表サイドバックに好感を抱いており、在任中の10月にこう話している。

「彼はすばらしい人間性をもって、異なる文化と環境にすんなり順応している。特に最初の2カ月ほどは、家族がまだ来ていなかったが、問題はなさそうだった。今は家族と一緒なので、笑顔が増えている。いずれにせよ、ユキはよく笑うけどね」

 昨季のチャンピオンシップで、ショートパスを主体としたポゼッションスタイルを築いたチームに問題なく適応できたのは、知性と技術の賜物だろう。開幕から先発を飾り、第3節ブレントフォード戦では初得点を記録――逆足のアウトサイドを巧みに合わせた美しいハーフボレーだった。第8節レスター戦で負傷し、次節のマンチェスター・シティ戦を欠場したが、翌10節のエバートン戦では途中出場から決勝点をアシストしている。

 菅原は英語も堪能で、地元レポーターとよく話しており、新監督のイヴァン・ユリッチの指導や哲学について、こんなふうに明かしている。

「新監督はよりアグレッシブな攻撃を好みます。前監督はボールを奪ったら、キープすることを第一義としていたけど、今は違います。練習でも、ボールを奪った後にバックパスすると、『ノー! 前方のパスコースを探し、相手ゴールに近づくんだ!』と叱られます」

 その高いスキルを考慮すれば、前監督のスタイルのほうが合っていたかもしれないが、適応能力も備える彼なら今のチームにも居場所を見つけるのではないか。後半戦の活躍次第では、別のクラブから声がかかり、個人的にプレミアリーグに残留できるかもしれない。

(井川洋一●翻訳 translation by Igawa Yoichi)

ジョン・ブルーウィン 
John Brewin/1976年生まれ。英国マンチェスター出身のスポーツジャーナリスト。『ESPN』のシニアエディターを経て、現在は主に『ガーディアン』で健筆を揮う。同紙のポッドキャスト『フットボールウィークリー』やラジオ『トークスポート』にも頻繁に出演している。