「毎日が新しいことばかりで、初めての一人暮らしは慣れるのが大変でした。最初は自分の思いどおりにいかないことが多かったのですが、…
「毎日が新しいことばかりで、初めての一人暮らしは慣れるのが大変でした。最初は自分の思いどおりにいかないことが多かったのですが、今ではこの生活が当たり前になって、それがすごく楽しいです」
TOKYO DIMEに所属する髙桑利加は高校3年次の2023年6月、自分らしいバスケットボールをプレーしたいという思いから全国大会常連の名門校を中退。地元の富山県から単身で上京すると、3人制バスケットボールチームでキャリアを再開した。当初は予定していなかった高卒資格を取得するため、アスリートコースの特別奨学生として通信制高校のN高等学校に進学。「すごくいい選択だと思っていて、今後の幅が広がったと思っています」。選手としてプレーするのはもちろん、DIMEスクールのコーチ、クラブオフィシャルサプライヤーのKDDIウェブコミュニケーションズが運営するシェアラウンジでアルバイトをしながら順調に単位を取得し、今春に卒業予定だという。
通信制高校には様々なバックグラウンドを持つ生徒が集う。「いろいろな人生を送ってきた仲間ばかり」だといい、「自分が経験できないような話を聞けて、自分のためになったというか、『そういうこともあるんだな』と知る機会にもなりました。友だちとのLINEグループができたほどです」と充実の日々を送り、4泊5日で行われた沖縄県でのスクーリング(※対面形式で、高校卒業資格取得のために必要な授業)もこなした。
方向性の違いなどを理由にドロップアウトしてしまう部活生もいるだろう。髙桑は自身と同じ境遇にある学生へアドバイスを送った。
「まずは行動するのが一番です。もうできないかなと思うより、行動したら何かがついてくると思います。迷うなら行動に移すこと。そこだけが自分の居場所ではないと思うので、自分に合った場所、自分が生きる道もあるということを知ってもらいたいです」
クラブのオーナーを務める岡田優介(香川ファイブアローズ)は「仕事、学業、バスケのすべてを並立させた本人の頑張りを褒めてあげたいです」と彼女の取り組みを評価し、「クラブとして、彼女のような選手をサポートできたのは意義のあることです。こういった選手が世の中にいるという、社会的なメッセージにもなると思います。この巡り合いに感謝しています」とコメント。Bリーグのユースチームなど部活以外の受け皿が整備されている男子と異なり、「女子は選択肢が少ない状況です。学校を辞めてしまったり、部活でうまくいかなかったりした時、選択肢の一つとしてユースのことを知ってほしいです。違ったキャリアを歩めると思います」とも話した。高校の部活を引退後、ユースチームに加入した長岡葉友さんは「私はもともと3x3に興味を持っていて、プレーしたいと思っていました」と明かし、「(髙桑選手のことを)尊敬しています。両立していてすごいなと感じました」と憧れの先輩について口にした。
思い描いていたキャリアではないかもしれない。それでも、自分だけの道を切り開き、「もう一度バスケットボールの楽しさに気づかせてくれたチーム」で夢を追いかけ続ける。次なる目標は5人制への“復帰”。3人制を通じて当たり負けしない体を作り、アウトサイドシュートや1対1のスキルに磨きをかけた。8月には富山県成年女子の一員として国体予選に出場。「3人制をプレーしつつ、5人制のチャンスがあればどんどんチャレンジしていきたいと思っています。将来的にはWリーグ、日本代表に絡んでいきたいです」と高みを目指す。
2025年は9月に20歳と節目の1年だ。これまでの感謝の思いとともに、新年の抱負を語った。
「今の自分がいるのは、関わってくれた皆さまのおかげです。感謝を伝えるためにはプレーで恩返ししなければいけないと思っています。一つひとつのルーズボールやリバウンドにこだわって、応援される選手になりたいです。今はお姉さん方に助けてもらってばかりですけど、現状に満足せずもっともっと成長して、このチームで日本一になりたいです」
取材・文=酒井伸