65盗塁&OPS1.036をマークした1990年のヘンダーソン 去る12月20日(日本時間21日)、MLB史上最高の1番打者と言われるリッキー・ヘンダーソン氏がこの世を去った。1958年のクリスマス生まれで、66歳の誕生日は迎えられなかった…

65盗塁&OPS1.036をマークした1990年のヘンダーソン

 去る12月20日(日本時間21日)、MLB史上最高の1番打者と言われるリッキー・ヘンダーソン氏がこの世を去った。1958年のクリスマス生まれで、66歳の誕生日は迎えられなかった。話す際には主語を「I」ではなく「Rickey」とするのがクセだった。

 通算1406盗塁はMLB歴代最多。NPB最多の福本豊氏が1065、MLB通算2位のルー・ブロック氏が938だから、圧倒的である。他方で通算297本塁打と、当時としてはパワーのある1番打者だった。

 全盛期は自身唯一のMVPを獲得した1990年だろう。打率.325、28本塁打、65盗塁でアスレチックスのリーグ3連覇に貢献した。同年のヘンダーソンのOPSは1.016で、キャリア唯一のOPS1.000超え。同年はMLB全体でも1.000超えは彼だけである。2024年にMVPに輝いた大谷翔平投手(ドジャース)は59盗塁をマークし、OPSは1.036だった。

 2024年は1番打者として90試合に出場した大谷が、34年前の最強の1番打者と同じく、リーグ唯一のOPS1.000超えでMVP獲得となったのは感慨深い。本塁打数こそ大谷には及ばないが、走力と長打力でチームの優勝に貢献した点も似ている。

 圧倒的な盗塁数にパワーを兼ね備えた打撃。ヘンダーソンが史上最高の1番打者と呼ばれた理由はまだある。彼は44歳までMLBで現役を続けたが、打撃が衰えた晩年も活躍できた理由は選球眼にあった。通算打率.279に対し通算出塁率は.401。打率と出塁率の差が.122もある。

 参考までに、現代を代表する1番打者であるムーキー・ベッツ内野手(ドジャース)は、2024年終了時点で通算打率.294、通算出塁率は.373(差は.079)。同様に上記のブロックは.293、.343(差は.050)。ヘンダーソンと同時代に1番打者として活躍したティム・レインズ(通算808盗塁)は.294、.385(差は.091)。1990〜2000年代の代表的な1番打者であるケニー・ロフトン(通算622盗塁)は.299、.372(差は.073)だ。

 日本を代表する打者であるイチロー氏は、四球が比較的少ないタイプであり、MLBでは.311、.355(差は.044)、NPBでは.353、.421(差は.068)。青木宣親氏は、MLBで.285、.350(差は.065)、NPBで.313、.392(差は.079)だった。

 最近のMLBでは大谷のように長打力のある1番打者も増えているが、かつては1番打者といえば非力で脚が速いタイプが多かった。打席数も多い上、パワーヒッターのような敬遠も少ないため、1番打者の出塁率はイメージほど高くはなかった。ヘンダーソンは30歳以降、打率と出塁率の差が.100を下回ることはなく、打率が.240を超えなくなった41歳以降もそれは変わらなかった。独特のクラウチングスタイルから眼光鋭くボールを見極める姿が、懐かしく思い出される。(伊村弘真 / Hiromasa Imura)