「見つけられちゃったか」 2024年11月中旬から沖縄で約1カ月間開催されたジャパンウィンターリーグ(JWL)のリーグ戦最終日、楽天から派遣された左腕投手の剛球に目を奪われ、同球団を担当する放送関係者に連絡すると、冒頭の言葉が返ってきた。「…

「見つけられちゃったか」

 2024年11月中旬から沖縄で約1カ月間開催されたジャパンウィンターリーグ(JWL)のリーグ戦最終日、楽天から派遣された左腕投手の剛球に目を奪われ、同球団を担当する放送関係者に連絡すると、冒頭の言葉が返ってきた。

「ポテンシャル、すげーと聞いてる。トミージョンをやったから、まだマジ投球見た事ないのよ!」(原文ママ)


昨年末に沖縄で開催されたジャパンウィンターリーグに参加した楽天の泰勝利

 photo by Nakajima Daisuke

【プロ3年間で一軍登板なし】

 この快速左腕の名は、泰勝利(たい・かつとし)。神村学園高(鹿児島)時代に最速150キロを計測し、2021年ドラフト4位で入団。プロ入り3年間で一軍では未登板、二軍でも2試合しか投げていない。

 その理由について、泰自身が説明する。

「トミー・ジョン手術明けで、2024年シーズン後半にギリギリで実戦復帰できました。試合で球数を投げられていないので、ウィンターリーグに参加して、そのままキャンプインまで投げていこうと考えています」

 入団1年目は球団の方針で体づくりにあて、2年目の春季キャンプで投げ込みをした際に左ヒジを痛めた。球数を重ねるなかで左ヒジに張りを感じていたものの、過去にメスを入れたことはなく、「危ない痛みなのかもわからなかった」ので投げ続けた。そうして実戦で登板すると、ボールがキャッチャーミットのはるか上に発射された際、左ヒジの靭帯がブチっと切れた。

「焦りはありましたけど、手術できる時間があるなら、と。ここで我慢して高卒4、5年目で手術するとなったら、立場的にもどうなのかっていうのもあったので。それなら若いうちに手術をして、そこから結果を求めてもいいかなと思いました。結果、その判断でよかったとなるようにしたいですね」

【投球フォームを変えた理由】

 筆者が沖縄で泰のポテンシャルに目を留めることができたのは、運に恵まれたからだった。

 JWLのリーグ最終戦、5回から二番手でマウンドに上がった泰はエラーと2本の安打で一死満塁のピンチを背負う。そこから2者連続三振で切り抜けた際、思わず目を見張ったのがストレートの球筋だった。泰が振り返る。

「今日はファウルを取りたい球が前に飛ばされて、ヒットも2本打たれました。その後はファウルを取るとか考えず、とりあえず腕を振って真っすぐで押していくという感じでいって、チェンジアップなどで三振も取れました。後半にかけてよくなり、特に最後の2人はよかったですね」

 筆者はベンチ脇から写真を撮影していて、その後バックネット裏に移動し、泰の投球に目を凝らした。それがたまたま最後の2人で、本人の納得いく球を見逃さずに済んだ。

 裏を返せば、不安定さを抱えているということだ。実戦復帰して間もないことに加え、投球フォームを見直してまだ日が浅い。

「リリースを下げ気味にしました。以前は上半身でガッといって、無理やり投げていたので。安定的に投げられるようにちょっとリリースを下げて、テイクバックも少しコンパクトにしました」

 スリークォーターより少し低い角度から、糸を引くような速球を投げていく。それが、筆者が目を奪われたストレートの球筋だった。

 身長172センチと上背はないが、上半身はがっしりしている。リハビリ中、トレーニングに打ち込んだ成果だろう。

 対話をしていて感じたのは、泰のクレバーさだった。まだ実績のない若手選手で、彼ほど理路整然と自分のことを語れる選手は決して多くないだけに、印象に残った。

 なぜ、自分は左ヒジの靭帯断裂に至ったのだろうか。泰が投球フォームを変えることに決めたのは、そう考えたからだった。

「150キロくらいしか出ていなかったので、それで切れるっていうことはフォームが絶対悪いので。160キロとか、スピードがすごいっていうわけではなかったので、フォームが悪いだろうなと思って改善しようと思いました」

 投手を始めて以来、初めての大きな故障だった。当然、長いリハビリも初めてになる。マウンドに戻るまで、試行錯誤の連続だった。

「投げながらフォームを探していきました。そのなかでリハビリの痛みなのか、投げ方が悪くて痛いのかが本当に紙一重というか、わからなかったです。手術をしたのも、こんなに投げなかった期間が長いのも初めてでしたし......。実戦復帰するまで、特にテイクバックは悩みました」

 高卒2年目でのトミー・ジョン手術はまさかのアクシデントだったが、あとになって振り返れば、あの出来事が転機になったと思えるようにしたい。それが今、泰の原動力のひとつだ。

【理想の投手は松井裕樹と鈴木翔天】

 メスを入れて長期離脱となったにもかかわらず、育成契約からの再出発を打診されるわけではなく、支配下登録のまま復帰を目指したのも球団の期待の表れと言えるだろう。

「真っすぐは自信あります」

 理想の投手は楽天入団1年目のオフに自主トレを一緒に行なった松井裕樹(パドレス)と、同じ左腕の先輩である鈴木翔天(そら)だ。

「2人とも真っすぐのコントロールはアバウトでも空振りを取れるので、そこはやっぱりすごいなと思います。ともにスピードがあって、なかなか打たれない」

 沖縄のJWLではトヨタ自動車の左腕投手で、2025年秋のドラフト候補にも挙げられる池村健太郎から多くを学んだ。

「僕にないものをたくさん持っているピッチャーだと思って、一緒に練習していろいろ聞いたり、教えてもらったりしました。僕にないものというのはコントロールもそうですし、負けないピッチャーだなと。僕はフォアボールを出して打たれて自滅みたいなイメージが多いけど、池村さんはフォアボールを出して打たれても結局ゼロで帰ってくるピッチャーなので、やっぱりすごいなと。社会人は一発勝負で負けられないので、そこの強さは感じました」

 明確なビジョンを持ち、どの道を進めば自分の強みをより増大できるかと見極められる思考力も泰の長所だろう。球団からは中継ぎとして期待され、自分でもショートイニングのほうが持ち味を発揮しやすいと考えている。

「キャンプスタートは一軍か二軍かわからないですけど、一軍昇格を目指してやります。そのままシーズンが始まって、二軍には戻らないぐらいの感じで初登板を終えて、一軍に定着したいです」

 松井裕樹と同じくらいの背丈から、引けを取らないような速球を投げ込んでいく。長身の鈴木翔天とは少しタイプが違うだけに、ブルペンに加われば左腕二枚看板になれる可能性も十分にある。

 まだまだベールに包まれた快速左腕は2025年、楽天を上位に導く一枚になるかもしれない。