少年野球界の課題解決の糸口に? 栃木・横川中央学童野球部が実践する“選手主導” 野球人口減少が続く中、少年野球の指導者には技術を教えるだけでなく、保護者との適切な対話や選手への配慮も求められている。ある意味、労力の大…
少年野球界の課題解決の糸口に? 栃木・横川中央学童野球部が実践する“選手主導”
野球人口減少が続く中、少年野球の指導者には技術を教えるだけでなく、保護者との適切な対話や選手への配慮も求められている。ある意味、労力の大きい“指導者受難の時代”ともいえるが、その中でどう適切に対処し、未来ある子どもたちを育てていくか。栃木県宇都宮市で活動する小学生学童野球チーム「横川中央学童野球部」の取り組みから、現代の少年野球指導の可能性を探っていく。
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縮小傾向が続く少年野球界。指導者は人間性やモラルが問われ、コミュニケーション力や学ぶ姿勢が強く求められてきている。また一方で、保護者からの理不尽な要求やクレームに、悩まされる指導者が増えているのも実情のようだ。
「ウチの子はなぜ、試合で使ってもらえないのですか? 出られないなら、やめさせます」
わが子を想うがゆえか、保護者からの一方的な通告。かつて、余るほど選手がいた時代なら、そのまま放置もできただろう。
しかし、近年の学童野球界において1学年で9人そろうチームは少数派で、大半は選手を増やすのに躍起。学区制など、旧来からの“シバリ”が残る地方部になるほど、その傾向は強まる。現場へ取材に出てみると、少子化と保護者の問題行動との狭間で、苦慮する指導者に出会うことが珍しくない。
「ウチも保護者からのクレームがゼロではありません。でも、試合のメンバーのことで何か言われることはほぼありません」
こう語るのは、栃木県の宇都宮市で活動する横川中央学童野球部の堀野誠監督だ。大きな効力を発揮しているのは、10試合から3か月単位で各家庭に配布している個人成績一覧表だという。
全員が年間で最低50打席…個人成績共有で“一枚岩のベストメンバー”が組める
その中身は打撃部門で23項目。チームとして積極的な打撃をテーマにしており、三振は「見逃し」と「空振り」に振り分けている。投手部門はそれ以上の項目があり、NPB公式サイトの年度別個人成績より多い。また、体力を測定できる公共施設も定期利用しており、スプリント力や跳躍力など11項目のランキング表もチームで共有しているという。
「表の入力も集計もすべて私がやっています。手間暇はかかりますが、メリットは計り知れません。私自身も主観(選手評価)とのギャップに気付いたり、意外な長所を見出せたり。データという裏付けもあるので、勝ちにいく大会では自信を持ってオーダーを組めるし、異論も出ませんね」
こう語る堀野監督の情熱とは、グラウンドで発揮するだけのものではないようだ。さらに感心するのは、全選手が年間で少なくとも50打席は立てるように、配慮をしていること。
「5・6年生のチームと、4年生以下のチームとで、合わせて年間120試合くらいは消化します。そのうち、夏の全国大会につながる予選など重要な大会とその前の10試合はベスト布陣を探っていきますが、あとは土日の練習試合2試合の中で、個々にどんどんチャンスを与えていきます」
“なんでできねぇんだよ!”と怒鳴るのは「指導力不足のアピールと同じ」
活動する宇都宮市は古くから野球熱が高く、現在も40チーム以上が活動する激戦区だ。夏の「小学生の甲子園」(全日本学童大会マクドナルド・トーナメント)は、1981年の第1回大会3位の姿川第一クラブをはじめ、10チーム近くが出場実績を持つ。横川中央は2019年に同大会初出場を果たしている。
「当時はまだ7イニング制でしたけど、子どもたちには『7回が終わって1点多く取れていればいいんだよ』と。そういうスタンスは変わりませんし、指示待ちの選手や集団はつくりたくないですね。自分から考えて動く習慣がある選手は、たとえば守備の一歩目でも速さが違うと思います」
小・中・高に社会人軟式まで、地元の栃木でプレーした堀野監督が、学童チームの指揮官になったのは11年前。学生時代に経験した、徹底的な管理野球への反発もあり、当初から選手主体の野球を志しているという。
「今でも試合中に『教えただろ、なんでできねぇんだよ!』と怒鳴る指導者がよくいますけど、私にはありえません。『自分はちゃんと教えられていない!』とアピールしているようなものですから。その代わり、子どもに『10』のことを言ったら『9』は伝わってほしいと思っているので、使う言葉や言うタイミング、表情や態度にも気をつけています」
学区制の“シバリ”が解け…先駆的な指導者の下に選手が自ずと集まる時代へ
活動は火・木・金の放課後と土日。時には非効率的とわかっていても、練習のグループ分けや順番、ルールまで選手たちに任せることも。取材日には全員がノーミスで終わるまで続く、ダイヤモンドでのボール回しもあったが、途中での仕切り直しも含めて指揮官は遠巻きに眺めているだけ。そして結局、終えられなかった選手たちを集めて、次のメニューの前にこういう声かけをしていた。
「なんで終わらないのか、みんなも考えてみてください。送球してくる相手や投げる先の相手を声で呼ぶのは難しくない。がんばることは誰でもできることで、それでちょっとずつ、うまくなっていくんでしょ? ボール回しの前のキャッチボールを、ちゃんとやっておくことも大切だよね」
母体の市立横川中央小は、児童が約450人の中規模校。チームには6年生5人を含めて24人が在籍している。市内の40チーム強の多くに漏れず、学校名をそのまま冠しており、人数的にギリギリの活動を強いられている。学区制の“シバリ”が解けるのも時間の問題かもしれず、いずれこういう先駆的な指導者の下に選手が自ずと集まることになると思われる。
〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。JSPO公認コーチ3。(大久保克哉 / Katsuya Okubo)