“過去最高の大会”と称された2012年ロンドン大会に次ぐチケット販売数を誇り、華々しく開催されたパリ2024パラリンピック。4大会ぶりに自力出場を果たした車いすバスケットボール女子日本代表は準々決勝で敗れ、目標のメダル獲得には至らなかった。…

“過去最高の大会”と称された2012年ロンドン大会に次ぐチケット販売数を誇り、華々しく開催されたパリ2024パラリンピック。4大会ぶりに自力出場を果たした車いすバスケットボール女子日本代表は準々決勝で敗れ、目標のメダル獲得には至らなかった。それでもスペインとの最終戦はまさに3年間の集大成の一戦となり、初勝利をおさめて有終の美を飾った。1勝5敗、最終順位は7位という戦績は、決して納得のいくものではなかった。それでもパラリンピックという舞台でしか得ることのできない収穫があった。

最高の形で“有終の美”を飾ったスペイン戦

予選リーグは3戦全敗でグループBの最下位となった日本は、準々決勝でグループAを全勝で1位通過した中国と対戦した。2023年の世界選手権や昨年1月のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)で敗れはしたものの、大きな手応えをつかんでいた日本は、2013年以来の勝利を目指して試合に臨んだ。

しかし、1Qで6-22と大差をつけられ、出鼻をくじかれた。序盤こそ日本のディフェンスが機能し、試合開始約2分間は中国に得点を許さなかったが、オフェンスでは思うようにボールを運ぶことができなかった。結局、先にオフェンスでもリズムを取り戻した中国に主導権を握られたことで、日本は苦しくなってしまった。


2Q以降は主力のラインナップを温存した中国に対し、日本は猛追した。2Qから4Qの30分間は、44-40と中国のスコアを上回った。それでも50-62と2ケタ差で敗れ、1Qでの攻防が勝敗を決定づけた形となった。

メダルの可能性がなくなった日本は、一つでも上の順位を狙うべく、5-8位決定戦でイギリスと対戦した。前半は攻防にわたって互角に渡り合った日本は、30-29で試合を折り返した。

だが、3Qで両チームの明暗が分かれた。勝敗の肝とされる3Q序盤、イギリスに5連続得点を奪われて逆転を許し、9点差とあっという間に引き離されたのだ。日本も5点差に何度もまで詰め寄るなど追い上げを図ったものの、最後のファウルゲームで逆転を狙って放った3ポイントシュートがすべてリングに嫌われた。そのため逆にさらに引き離され、55-67で敗れた。

ここまで5連敗と苦境に立たされた日本だったが、気持ちは切れてはいなかった。「未勝利で終わるわけにはいかない」と奮起して臨んだ最後の7、8位決定戦は立ち上がりから主導権を握った。

相手は、ヨーロッパ3位のスペイン。5カ月前の4月、大阪で行われた最終予選では19点差で敗れていた。そのスペインに対し、1Qで20-13とリードすると、最後まで一度も逆転を許すことなく、72-55で快勝。パリの地で貴重な1勝を挙げ、有終の美を飾った。

勝利をおさめただけでなく、内容的にもこの3年間で最高と言っても過言ではなかった。課題としてきたオフェンスで、チームのフィールドゴール成功率は51%を誇った。一方、スペインのターンオーバーが19を数えたことからも、日本のディフェンスがいかに機能していたかがわかる。日本は3年間積み重ねてきたものをすべてコート上で出し切り、まさに集大成としたのだ。

確実にパワーアップした日本の個の力

結果的につかんだ勝利はわずか1勝に過ぎない。しかし、これまでにはなかった強さが今大会の日本にはあった。それはどの試合も、必ずチームを救う“エース”が代わる代わるに出現したことだった。得点力を持つ選手層に厚みがあったことで、チームが総崩れすることは決してなかった。

その筆頭が、ベンチスタートの土田真由美(4.0)だ。初戦から調子の良さを見せていた土田は、大会を通して最も安定していた。6試合中5試合を終えた時点でのFG成功率はチームトップの49%を誇った。

土田が唯一調子を上げることができなかったスペインとの最終戦では、自身過去最高という73%の高確率で2ポイントシュートを決めたのが、キャプテン北田千尋(4.5)だ。4月の最終予選では全4試合でトップスコアラーとなりチームをけん引した北田は、パリの地でもそのシュート力を遺憾なく発揮。なかでもスペイン戦では、貴重な1勝を呼び込む活躍だった。


北田が、フリースロー1本のみにとどまり、FG成功率は競技人生初の0%と絶不調に陥ったイギリスとの5-8位決定戦で、本領を発揮したのは副キャプテン萩野真世(1.5)だった。

萩野もまた“0%”の悔しさを味わっていた。初戦のオランダ戦、そして準々決勝の中国戦だ。その萩野が、ついにベールを脱いだかのようにシュートを炸裂したのが、イギリス戦だった。前半を100%でシュートを決めた萩野は、最終的には71%とし、今大会初めて2ケタ得点をマークした。


試合後、萩野は北田に対して「明日はやってくれると思います」とコメント。前述のスペイン戦での北田の活躍は、この期待にしっかりと応えたものだった。

そして、さまざまな部門でランキング入りし、マルチな才能で魅了し続けたのが、網本麻里(4.5)だ。6試合中5試合で2ケタ得点を挙げ、通算89得点は個人ランキングで堂々の8位。全6試合のFG成功率46.3%は7位。さらにリバウンド数では3位タイ、スチール数では4位タイとなった。

一方、柳本あまね(2.5)は試合を重ねるたびに調子を上げていき、第3戦以降は4試合連続で2ケタ得点をマーク。全チームの中で最も多く得意の3ポイントシュートを打ち、成功本数6はランキングでトップタイに輝いた。

パリでの戦いをロスへの糧に

またチームで見ると、大会を通して高い数字を誇ったのがフリースローで、通算成功率58.6%は、カナダに次ぐ2位だった。さらに日本が世界を凌ぐ数字を残したのが、3ポイントシュートだ。通算のアテンプト数71と、成功本数13はいずれもトップ。特にアテンプト数は2位カナダの41を大きく上回る数字だった。

だが、、成功率となると18.3%で5位にまで下がる。どのチームよりも3ポイントシュートへの意識は高く、実際に打つチャンスは作れているだけに、今後は成功率をどう上げていくかが課題となる。未だ女子では3ポイントシュートを完全に強みにできているチームがないだけに、この部門で日本が世界をリードできれば、大きなチャンスが生まれるはずだ。

パリでつかんだ勝ち星は、わずか1勝にとどまったものの、世界最高峰の舞台で強豪国と戦った経験は何物にも代え難く、そこでしか得られなかった収穫は多くあったに違いない。その証拠に、最終戦後のコメントではすでにロスへの気持ちを語る選手が多かった。

「パラリンピックは本当に特別な舞台で、メダルへの手応えも感じた。ここまできたらメダルを手にするまではやめられません」と北田。財満いずみ(1.0)は「世界で戦えるという感覚を得られた」と言い、柳本も「大会を通してメダルが見えた試合ばかりだったので、ロスでは絶対にいけると思っています」と自信を口にした。

一方、今大会初出場を果たし、プレータイムがわずかだった若手も、「今の自分よりもレベルアップする」(江口侑里/2.5)、「4年後は大事な試合で出るような選手になりたい」(小島瑠莉/2.5)、「次は経験のためにではなく実力で出られるようにしたい」(西村葵/1.5)などと語り、4年後は成長した姿を見せることを誓った。

3年前、3大会ぶりにパラリンピックの舞台にカムバックし、今大会は4大会ぶりに自力で切符をつかみ取った女子日本代表。世界の頂を目指す彼女たちの戦いは、ここからが正念場だ。ロスに向けて、新たな挑戦が始まる。