■“注釈付き”の怪物 2019年のドラフト1位、ザイオン・ウィリアムソン(ニューオーリンズ・ペリカンズ)は、NBA参戦前から「…
■“注釈付き”の怪物
2019年のドラフト1位、ザイオン・ウィリアムソン(ニューオーリンズ・ペリカンズ)は、NBA参戦前から「レブロン・ジェームズ以来の怪物」と称されていた。秘めたポテンシャルと運動能力は底知れず、この男がリングに向かってアタックすれば、止められる選手はリーグに存在しないだろう。
しかし、天は二物を与えない。ザイオンはデビュー以来、毎シーズンのようにケガに悩まされており、今なおその才能を持て余している。その理由のひとつには体重管理があるとされており、現在もハムストリングの負傷で戦線を離脱している。
とある球団のゼネラルマネージャーは言う。「プレーしている時の彼は支配者です」と。しかし、その賛辞には「でも、彼が最後にプレーしたのはいつでしょうか?」という続きがあり、コンディションの懸念からザイオンの評価は二分している。
■「NBAで最高」とも言われる複雑な契約
ザイオンはその一貫性のなさから、ペリカンズと非常に稀有な契約を結んでいる。5年1億9720万ドル(309億6100万円)という莫大な現行契約は、同選手が2022-23シーズンまたは2023-24シーズンに22試合以上を欠場した場合、最後の3年間を保証しないという内容で、ザイオンは2022-23シーズンに53試合を欠場したため、今シーズンも契約が保証されていない。ただ、全6回の体重計量をクリアし、一定の出場試合数に到達すると、部分的にサラリーが保証される仕組みに。一例として、計量はサラリー全体の20パーセントを保証するものであり、仮にザイオンがこれをクリアすれば、来シーズンは780万ドル(約12億2500万円)の契約金が保証される。
これは一貫性のないスター選手と球団の双方にとって理にかなった契約であり、イースタンカンファレンスの某幹部は「NBAで最高の契約のひとつ」とし、この契約を高く評価した。しかし、この歩合制のような契約はあくまで“保証”であり、基準に達しなくてもザイオンの年俸が減るわけではないことを強調しておきたい。言い換えると、ペリカンズはロスターに背番号1を置き続ける限りサラリーキャップが軽減されることはなく、こうした複雑な状況がフロントの頭を悩ませているのだ。
『ESPN』は、岐路にあるペリカンズとザイオンの関係性を掘り下げている。ペリカンズは、ブランドン・イングラムをはじめとする主力のトレードを敢行し、再建に踏み切ると噂されている。そのリストにはザイオンも含まれているが、ペリカンズにはリーグ屈指の才能を手放すリスク、他球団には一貫性のない選手をロスターに加えるリスクが伴い、交渉が簡単に成立するものではないことは容易に予想がつく。
■ザイオン獲得のメリットは?
なぜ、ここ数週間でザイオンのトレードが取り沙汰されているかというと、1月8日(現地時間7日)を境に同選手の今シーズンの契約金3620万ドル(約56億8000万円)が完全保証へと移行するからだろう。ペリカンズにはデューク大学出身の重戦車をウェイブ(解雇)するという選択肢も手にしているが、フリーエージェントにとって魅力的ではないことを球団が認知していることから、サラリーキャップの解放よりも有益なトレードによってロスターの改善を試みようとしているという。
イースタンカンファレンスの幹部の一人は、ザイオンのトレード価値を「現在のNBAにおいて最も答えるのが難しい質問」としている。この幹部は同選手に大金を払う球団はないとしながらも、健康であればフランチャイズを代表する、またはそれに近いレベルの選手であると考えている。しかし、NBAはスター選手なくして頂点には辿り着けないリーグ。同幹部はザイオンにある種の“ギャンブル性”があることを認識しながらも、大胆な選択肢に大きな魅力を感じている。
「最高レベルで勝利をつかみ取るためには、彼のように、健康ならあれだけのプレーができる選手が必要なのです。もし私が決断を下す立場なら、愚かなことをしてでも彼を獲得するかもしれません」
ザイオンの獲得には、いくらかのメリットもある。それは契約が無保証であることから、スーパースターをトライアルで獲得できるという点だ。『ESPN』が複数人の幹部相手に実施したアンケートでは、ザイオンはトレード市場でいくらか注目を集める存在であり、その中の1人は「リスクはあるが、リスクを負うチームもあるだろう」とコメントしている。
関心を示すのは、優勝のためにもう1人のスター選手を必要としている球団か、再建の新たなピースを探している球団か。ザイオンの代理人は今冬の移籍が急務でないとしているが、この未完の大器の行く末に大きな注目が集まっているのは事実だろう。
文=Meiji