WBAスーパーフェザー級挑戦者決定戦が大みそか、東京・大田区総合体育館で行われ、同級9位にランクされる期待のホープ・堤駿斗(志成)が同14位レネ・アルバラード(ニカラグア)に8回1分55秒TKO勝ち。世界タイトル挑戦に大きく近づいた。【映…

 WBAスーパーフェザー級挑戦者決定戦が大みそか、東京・大田区総合体育館で行われ、同級9位にランクされる期待のホープ・堤駿斗(志成)が同14位レネ・アルバラード(ニカラグア)に8回1分55秒TKO勝ち。世界タイトル挑戦に大きく近づいた。

【映像】強打を畳みかけ、衝撃TKO

 キャリア6戦目のスーパーホープが大舞台で本領を発揮した。対するは峠を越えたとはいえ、48戦のキャリアを誇る元世界王者。数々の強豪と手を合わせてきた曲者を相手に、堤本人が「自分自身、合格点を上げてもいいのかな」と胸を張った完勝劇をまずは振り返ってみよう。

 堤はスタートから滑らかなポジショニングと多彩なジャブでアルバラードを翻弄した。攻めるところは攻め、引くところは引く。ゲームメイクも巧みで、2回が終わるころには、早くも試合の興味は「堤がタフな元王者を倒すことができるのか」という一点に絞られた。

 5回、堤は「一番練習してきた」という得意の左フックを決めてアルバラードをグラつかせる。すぐに畳みかけたが、ここはある程度のところで自重する。その理由が私たちをうならせた。

「ここはまだフィニッシュしなくていいと思った。アルバラード選手はタフ。ここですべてを使ってしまうと、後半にもたついて判定決着になってしまう。もう一度必ずチャンスがくるからそれを焦らずに待つ。9回、最終の10回になると相手が耐えると思ったので、その前にチャンスが来たら決めようという気持ちだった」

 初めてのスーパーフェザー級、初めての世界タイトル挑戦者決定戦というのに、この冷静さはどこからくるのだろう。事実、5回のピンチをしのいだアルバラードはここから粘って元王者のプライドを見せた。優勢をキープする堤は辛抱強く多彩なパンチでダメージを与え続け、チャンスが訪れるのを待った。頭の中では敬愛する同門の大先輩、井岡一翔のアドバイスが鳴り響いていた。

「欲を出したら駿斗のボクシングが消えてしまう。一番は削って、削っていくこと。そうすれば自ずとチャンスが訪れる、流れでKOできる。練習のときからそう言われていました」

 迎えた8回、堤が再び左フックを決めると、さすがのアルバラードもロープを背負って立ち続けるのがやっと。堤が力強くラッシュをかけると、レフェリーがアルバラードを救って試合は終了した。7回までのスコアはフルマークで堤。完敗のアルバラードは「彼はスピードがあり、パンチが多彩だった。世界チャンピオンになれる素質は十分にあると思う」と勝者を称えた。

 堤はさまざま思いを背負い、この日のリングに上がった。アマ13冠という肩書きを引っ下げ、鳴り物入りでプロデビューしたのが22年4月のこと。ところが5戦目、前回4月の試合で、新型コロナウイルスに感染して減量に失敗、計量に失格してしまう。試合には勝利したものの、ボクシングファン、関係者の信頼を失ったとして「この8カ月は何度もボクシングを辞めようと思った」という日々を送った。

 自らの進退を考える上で、いろいろな人と会話を重ね、自問自答を繰り返した。中でも元世界4階級制覇王者、井岡の影響は大きかった。井岡は7月、フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)とのスーパーフライ級2団体統一戦に、渾身のファイトを演じながら敗れてしまう。そして一敗地にまみれた元王者は35歳にして「はい上がる」と力強く宣言。堤は大先輩が再びリングに向かう姿を目の当たりにし、「オレもここで辞めて逃げちゃダメだ」と強く感じたという。

 さらに今回は、当初メインイベントに予定されていた井岡とマルティネスのダイレクトリマッチが、マルティネスのインフルエンザ感染により前日に中止になるという緊急事態が発生した。急きょメインイベンターを託された堤は、プレッシャーを感じるのではなく、逆にモチベーションを高めた。試合を決めた場面を振り返り、「(この日の興行は)判定続きだったので、自分が倒してすっきり興行を締めたかった」との答えが心憎い。既にメインイベンターとしての自覚は十分だった。

 これで世界タイトルマッチに王手をかけた堤だが、WBAスーパーフェザー級の現状は不少し複雑だ。王者のラモント・ローチ(アメリカ)は3月、1階級上のWBA王者、ジャーボンタ・デービス(同)に挑戦する。まずはこの結果次第で今後の動きが変わってくる。さらには暫定王者も存在するため、堤がすぐに世界挑戦できる状況にはない。

 世界挑戦の先行きは不透明ながら、完全復活をアピールした25歳の表情はどこまでも明るい。「この階級で一つひとつ強い選手とやって、見ている人たちが納得できるような試合をしたい」。大きな試練を乗り越え、一回りも二回りもたくましくなった堤の2025年がますます楽しみになってきた。