ラミレス戦を終え、ベルトを手に取材に応じるエスピノサ。写真:杉浦大介グロリアスロードの途上にいるメキシカン これほど長身とリーチの長さを誇り、ボクシングの才能も持った選手が“モンスター”と戦ったらどうなるのだろう――。WBO世界フェザー級王…

ラミレス戦を終え、ベルトを手に取材に応じるエスピノサ。写真:杉浦大介

グロリアスロードの途上にいるメキシカン

 これほど長身とリーチの長さを誇り、ボクシングの才能も持った選手が“モンスター”と戦ったらどうなるのだろう――。WBO世界フェザー級王者ラファエル・エスピノサ(メキシコ)の戦いをリングサイドで観ながら、そう考えずにはいられなかった。

【動画】軽い一打でダウン…名手ラミレスを破ったエスピノサのTKOシーン

 アリゾナ州フェニックスで12月7日に行われた同王座での2度目の防衛戦。エスピノサは、前王者ロベイシ・ラミレス(キューバ)に7回に右ストレートを決めてTKO勝ちを収めた。昨年12月の対戦では互いにダウンを応酬しあった年間最高試合レベルの激闘の末、エスピノサが判定勝ちで王座奪取。今回はパンチを浴びたラミレスが右目の不調を訴えての棄権(ラミレスはバッティングがあったとも訴え、のちに眼窩底骨折と伝えられた)という形ながら、王者がはっきりとした差を見せつけたと言っていい。

 リオ五輪金メダリストであり、“シャクール・スティーブンソン(米国)に最後の負けを味合わせた男”としても知られるラミレスに2連勝を飾った意味は大きい。

「キャリアの序盤から、私は常に“レジェンドになりたい”と言ってきた。メキシコの偉大なボクサーでありたい。誰とでも戦うよ。私はいい試合をする選手だとみんなにわかって欲しい」

 そう語ったエスピノサはこれで26戦全勝22KO。身長185センチ、リーチ188センチというフェザー級では破格のサイズに加え、技術、パワー、好戦的な姿勢を備えた強いチャンピオンである。コーナーでサポートする帝拳ジムの田中繊大トレーナーによると、「家族に恵まれ、性格がよく、見た目もいい。歌が上手く、楽器も弾けて、サッカーもプロ級という漫画みたいなボクサー」だという。

 このまま勝ち続ければ、“カネロ”ことサウル・アルバレス(メキシコ)に次ぐ人気王者として確立されていきそうだ。本人が望む“レジェンド”になれるかはまだわからないが、グロリアスロードの途上にいるのは間違いないのだろう。

 ここ最近のボクシング界において、バンタム〜フェザー級の強豪ボクサーはほぼ例外なく井上尚弥(大橋)との対戦を希望し、それを公言するのが恒例になった。プロモーターや動画配信サービスの努力により、日本は軽量級選手にも華やかなステージを提供してくれるマーケットとして確立された印象がある。日本での“モンスター”との対戦に色気を見せているのはもちろんエスピノサも同じだ。

「パウンド・フォー・パウンド最高級のボクサーとの対戦は私の目標の1つであり、夢でもある。もちろん井上と戦いたい。今の私は目の前の試合だけに集中しているが、将来的にはもちろん問題ない」

多くのライバルたちから対戦を突きつけられる井上。そんな偉才とエスピノサのマッチアップは現実的に考えられるのか。(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

ほぼ唯一欠けている“モノ”とは

 井上が1階級を上げてエスピノサに挑戦するとしたら、ボクシングファンなら見逃せないマッチアップである。スピード、クイックネス、守備力で上回る井上が優位に思えるが、身長差20センチ、リーチの差17センチがある強豪との戦いは一筋縄ではいかないかもしれない。

「フットワークが素晴らしいし、強打の持ち主でもある。しかも階級を上げながら勝ち続けているのだから、私も彼をリスペクトしている。本当にすごいボクサーだ」

 エスピノサ自身は、そう“モンスター”へのリスペクトを述べていたが、井上もこの甘いマスクの同世代王者には一定の敬意を払うのではないか。井上対エスピノサ戦は米西海岸で開催されたとしても、ビッグイベント感の漂うステージになるはずだ。

 ただ、現実的に考えると、エスピノサ対井上戦の実現はかなり難しそうではある。井上は1月24日のサム・グッドマン(豪州)との指名戦後も、スーパーバンタム級であと3戦はこなす可能性がある。そのうちの1戦が、現在バンタム級で戦う中谷潤人(MT)との日本人スーパーファイトになり得る。井上が122パウンドにそれくらいの期間止まるのであれば、上記通り、フェザー級としては並外れた体格を誇るエスピノサはもうスーパーフェザー級に上げているだろう。

 井上のプロモーターを務める米興行大手『Top Rank』もプランを練っている。エスピノサ対ラミレス戦と同日のメインイベントでは、3階級制覇王者で現在はWBO世界スーパーフェザー級タイトルを保持するエマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)がオスカル・ラミレス(メキシコ)に圧倒的なKO勝ち。ボブ・アラムが率いる老舗プロモーションは、このナバレッテとエスピノサを対戦させる青写真を描いているという。

「(ナバレッテ対エスピノサ戦は)巨大なメキシカン・ファイトになる」

 アラムの言葉通り、メキシコ人同士の王者対決はあまりにも理に叶うマッチメイクである。その試合が具体化すれば、1階級上げたエスピノサがナバレッテの持つスーパーフェザー級王座に挑む形が濃厚。そうなれば、その試合の結果がどうあれ、エスピノサはもうフェザー級には降りて来ない公算が強い。

 ボクサーとして考え得るすべてを持った“パーフェクトボクサー”の井上に、ほぼ唯一欠けているのは興行力の高いメキシコ人のライバルだった。

 マニー・パッキャオ(フィリピン)にとってのファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)、マルコ・アントニオ・バレラ(メキシコ)、エリック・モラレス(メキシコ)のような存在。それに近い宿敵になるにはルイス・ネリ(メキシコ)は実力、規律が足りず、来春に対戦が噂されるアラン・ピカソ(メキシコ)も実績不足に思える。実力、上昇中の人気を持ったエスピノサは難敵になり得る数少ない素材ではあったが、シンプルに階級とタイミングが合わなそうな情勢だ。

 まずは、スケールの大きさを感じさせるエスピノサがどこまで勝ち続けるかが楽しみではある。それと同時に、“モンスター”の宿命のライバルを模索する旅路はまだまだ続いていく。かつてのノニト・ドネア(フィリピン)はおそらくそれにあたり、近未来には中谷が強敵になる可能性がある。ただ、現時点ではメキシカンの宿敵に、ついに出会えぬままキャリア終盤を迎える可能性は高そうではある。

[取材・文:杉浦大介]

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