第77回全日本バレーボール高等学校選手権大会(春高)が1月5日(日)に東京体育館(東京都渋谷区)で開幕する。春高東京都代表決定戦では3位決定戦で本戦の出場権を獲得した共栄学園高。その大一番で初スタメンに抜擢された1年生の山下裕子が、3年生中…
第77回全日本バレーボール高等学校選手権大会(春高)が1月5日(日)に東京体育館(東京都渋谷区)で開幕する。春高東京都代表決定戦では3位決定戦で本戦の出場権を獲得した共栄学園高。その大一番で初スタメンに抜擢された1年生の山下裕子が、3年生中心のチームで存在感を増している
#2山下裕子(共栄学園)
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春高東京都代表決定戦で
初スタメン
涙のダムは決壊寸前だった。
春高への最後の一枠をかけた文京学院大女高戦。第1セットを落とし、第2セットも序盤から劣勢が続いた。対角を組む秋本美空キャプテンの活躍もあってジュースに持ち込んだとはいえ、常にかかるプレッシャー。リベロと代わり、ウォームアップエリアに下がると、山下裕子は弱気な心に負けそうになった。
「自分が出ているから負けるのかな」
「(同じミドルブロッカーで3年生の森)愛唯さんのほうがよかったのかな」
身長183㎝の高さを生かしたプレーを期待され、最激戦区である春高都代表決定戦で自身初スタメン。3年生中心の布陣で、下級生では唯一スタメンを務めた。「頭が真っ白でした」という準決勝の下北沢成徳戦では1-2で逆転負けを喫したものの、180㎝超えのブロックを相手に、果敢に腕を振った。得点が決まると、目を大きく見開いて誰よりも驚いた。
3位決定戦でも1年生ながら申し分のない活躍を見せていたとはいえ、負ければ3年生の引退が決まる一戦。秋本がサーブで後衛に下がった31-30の場面、戦場に戻る前に山下は覚悟を決めた。「先輩たちにこんなところで負けてほしくない」。その思いを胸に、何度も自分に言い聞かせた。
「真っ向勝負! 大丈夫、いつも練習試合をしている相手。(コートの)奥に打てば決まる!」
1点ごとに、満員に膨れ上がったスタンドが揺れる。息をのむようなジュースが続く中、32-32でライトからの二段トスを託された。思い切り腕を振ると、威力のある打球が相手ブロックの指先を大きく弾く。エンドラインの向こうでそのボールがはねると、緊張の糸が切れた。両手で顔を覆うと、試合中にもかかわらずおえつが漏れた。
3位決定戦の第2セット、得点を決めると涙が流れた
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その後輩の頑張りに応えるように、秋本がバックアタックを決めて試合を振り出しに。続く第3セットはマッチポイントでサービスエースを決めた秋本に、山下は真っ先に抱きついた。
地道なトレーニングで
夏場から成長
ルーキーを抜擢した中村文哉監督も「うれしい誤算だった」と振り返る大舞台での活躍。だが、それだけの過程は踏んできた。共栄学園中(東京)2年生時には全国中学生選抜に選ばれた逸材。だが、高校入学時は自らをコントロールできていなかった。
「体は大きくて、力強いスパイクは打っていたけど、筋力が全然ない。走る、投げる、跳ぶという動作が全然できず、思うように体を動かせていませんでした」(中村監督)
地道なトレーニングやボールを投げる練習から基礎固め。中村監督が「かわいくてしかたがないから、みんな(山下)裕子に厳しい(笑) 見ていておもしろいです」と語る3年生のサポートもあり、夏場から大きく成長した。10月の皇后杯関東ブロックラウンド2回戦ではのちに全日本インカレで優勝する筑波大を相手に、途中出場で大活躍。3枚ブロックにもスパイクを決め、その1ヵ月後の大一番での躍進につなげた。
コート上では唯一の下級生。練習中も先輩たちから声をかけられることが多い山下(右端)
20分のインタビューの間でも、まるであの激戦のコートに戻ったかのように次々と表情は変わった。明るく笑ったと思えば、眉をひそめて悔しがる。「顔の表情筋が豊かだなって、よく言われます。(代表決定戦での涙は)友達に、『なに泣いてんの』ってめっちゃいじられました」と照れ笑いした。
だが、3位決定戦の第3セットは例外だった。涙が乾くと、一貫として凛とした表情。3年生に腕を引かれた妹分ではなく、先輩たちと肩を並べてチームの先頭に立った。わずか2試合の間で、別人のような振る舞いだった。
「自分で映像を見て、こんなに険しい顔をしていたんだ、と思いました。中学生のときの自分が蘇ったというか、エースの自覚がある顔だなって。これからもあの気持ちや表情を継続できたらな、と思います」
次の舞台は全国の猛者たちが一堂に会する春高。その一球一球に、さらなる覚醒のヒントは隠されている。
2年生時に日本代表に選ばれた秋本(右)は身近にいる憧れ。「日本代表で活躍したい」と夢を抱く
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山下裕子
やました・ゆうこ/1年/身長183㎝/最高到達点294㎝/共栄学園中(東京)/ミドルブロッカー
文/田中風太(編集部)
写真/山岡邦彦(NBP)、編集部
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