1998年度生まれの女子プロゴルファーと言えば、史上最年少でプロツアーを制した勝みなみ、アマチュアで史上初めて日本女子オープン優勝を飾った畑岡奈紗、2019年に日本勢42年ぶりの海外メジャー(AIG全英女子オープン)制覇という快挙を遂げた…

 1998年度生まれの女子プロゴルファーと言えば、史上最年少でプロツアーを制した勝みなみ、アマチュアで史上初めて日本女子オープン優勝を飾った畑岡奈紗、2019年に日本勢42年ぶりの海外メジャー(AIG全英女子オープン)制覇という快挙を遂げた渋野日向子ら、多彩なタレントがそろう。彼女たちは『黄金世代』と称され、一時代を築いた。

 その後、『プラチナ世代』(2000年度生まれ)や『新世紀世代』(2001年度生まれ)、さらに『ダイヤモンド世代』(2003年度生まれ)と、新たな世代が次々に台頭。あらゆる世代がしのぎを削る群雄割拠の時代に突入していく。

 そうした状況のなか、2024シーズンは再び『黄金世代』の選手たちの活躍が目立った。彼女らがツアー本格参戦を果たした2018年、あるいは2019年から5、6年が経過。小学生が中学生に、中学生なら大学生となる月日を経て、彼女たちは新たな成長のフューズに入ったのかもしれない。


今季ツアー初優勝を飾った臼井麗香

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 2024シーズン、大躍進を果たした『ダイヤモンド世代』の竹田麗央をはじめ、『新世紀世代』で過去2年連続女王の山下美夢有や、岩井姉妹(明愛・千怜)らがツアーを引っ張るなか、2024シーズンにあらためて存在感を示した『黄金世代』。はじまりは、3月のアクサレディスin MIYAZAKIでの臼井麗香のツアー初優勝だった。

 その後、"遅咲き"の『黄金世代』天本ハルカが4月のパナソニックオープンレディースで初優勝。さらに、6月のヨネックスレディスで新垣比菜が6年ぶりの勝利でツアー2勝目を挙げ、続く宮里藍サントリーレディスオープンで大里桃子が3年ぶりに優勝を飾ってツアー3勝目を挙げた。

 そして、8月には河本結がNEC軽井沢72で5年ぶりの優勝。米ツアー参戦後からの低迷を脱して完全復活を遂げた。また、海外では不振が続いていた渋野が全米女子オープンで2位と、あらためて存在感を示した。

"遅咲き"や"返り咲き"を含め、2024シーズンの話題となった『黄金世代』躍進の連鎖。この繋がりの力はどこから生まれてきたのか。なぜこのようなことは起こったのか。JLPGAの永久シード保持者である森口祐子プロに話を聞いた――。

 プロテストに合格した『黄金世代』は28人くらいだと聞いています。そのうち、これまでにツアー優勝を遂げた選手は15人ですから、13人は未勝利です。『黄金世代』と言っても、いまだ思ったような活躍ができていない選手がおよそ半数はいるわけです。

 ともあれ、同世代にツアー優勝を経験している選手が15人もいるのはすごいこと。しかも、植竹希望さんと高橋彩華さんが2022年に、吉本ひかるさんと小滝水音さんが2023年に、そして2024年、臼井麗香さんと天本ハルカさんがツアー初優勝を飾っています。『黄金世代』のなかでも後れをとっていた人たちが今なお、毎年のように勝利を挙げているのですから、まだ未勝利の選手たちも当然、「私も」と思っていることでしょう。

 そうやって、お互いが刺激し合っているなかで、新垣比菜さん、大里桃子さん、河本結さんが同時期に復活優勝。この世代にはやはり、独特な雰囲気、"何か"があると感じます。

 2024年のパリ五輪の時、植竹さんとメールのやり取りをして、その"何か"が少しわかったような気がしました。

 パリ五輪では、体操男子団体で日本チームが金メダルを獲得。その直後、リオデジャネイロ五輪の団体金メダリストである白井健三さんが、同じ1996年生まれの谷川航選手と萱和磨選手のふたりに対して、インスタでコメントを出していたんです。そこには、こう記されていました。

「みんな史上最高だけど、特に同期の活躍は自分のように嬉しいです。無邪気にライバル同士で争ってた中学生の頃から、次第に世界に出るようになっていって、今日という日に全員がオリンピックの金メダリストになりました 航、和磨、夢叶ったね! おめでとう」(白井氏のインスタグラムより抜粋)

 この白井さんのコメントを読んで、「『黄金世代』って、こういう感じなの?」と植竹さんに聞いたんですよ。すると、こんな答えが返ってきました。

「『黄金世代』ってまさにそういう感じで、みんなで無邪気に高みを目指していました。もちろん、(ライバルの優勝を見ると)悔しさはあります。でも、同じ世代としての誇らしさがあるんですよね」

 その言葉を聞いて、なるほど、と思いました。

 先にも触れたとおり、1998年度生まれの優勝者は15人。他の世代では多くても6人くらいらしいので、やはり『黄金世代』というのは"特別"な感じがあります。

 そんななか、誰かが勝つということは、自分が負けていることになるんだけど、それでも「おめでとう!」と祝福できるのは、自分たちの世代への誇りがあるからで、自分もその仲間である、という高揚感みたいなものがあるのだろうなと思います。

 もちろん彼女たちは、内に秘めた競争心というか、「負けたくない」という気持ちを強く持っていて、常にお互いに刺激をもらって、自分の力に変えられているような気がします。そういう相乗効果みたいなものが『黄金世代』には働いているのだと思います。

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 森口プロが言う、『黄金世代』の間に生まれている相乗効果をひとつ挙げるなら、それはある種の"同期現象"の類いだろう。同期現象とは、まったく違う振動をしていた複数のメトロノームが、お互いの振動が影響し合って、数分後には振動がそろってしまうという、あの現象だ。

 人間の脳や行動でもこの同期現象が起こっていて、スキップがまったくできなかった子どもが、スキップが得意な子たちの間でやっていると、自然にできるようになったりするという。また、サッカーのようなチームプレーにおいては、数人がいわゆる"ゾーン"に入ると、それがチーム全体に波及して"チームフロー"という同期現象が起こることも報告されている。

 人間のなかで同期現象が起こるには、空間、時間、目的の共有が必要とされている。1998年度生まれの子たちが小学校入学を目前に控えた2004年は、宮里藍がプロに転向。本格的にツアーに参戦し、"藍ちゃんフィーバー"が巻き起こった。

 その後、宮里は世界の舞台でも躍動。学校の休み時間や放課後にゴルフの話で盛り上がり、『将来は藍ちゃんのようなプロゴルファーになる』と、2005年に小学校に入学した子どもたちは、そんな人生の目的を共有してきたのかもしれない。以降、互いに努力を重ね、才能を競い合って、その強さを波及させてきた。そうして、『黄金世代』と呼ばれるようになる。

 NEC軽井沢72で『黄金世代』50勝目を挙げた河本は、誇らし気にこう語った。

「うれしいです。私たちの世代で女子ゴルフを盛り上げたいという気持ちがあるので、まだまだ若い子には負けたくない」