ブレイクを遂げた2024年のラストマッチはベンチスタートだった。広島ドラゴンフライズの中村拓人は前日の試合で思うような活躍が…

 ブレイクを遂げた2024年のラストマッチはベンチスタートだった。広島ドラゴンフライズの中村拓人は前日の試合で思うような活躍ができずにスターターを外れて途中出場。コートに立てば躍動して好ゲームを演出したが、最後は勝利を逃して悔しさが残った。

「先発にかける思いは強い」。そう話す中村はルーキーイヤーだった昨シーズン、3月に負傷離脱したエースガードの寺嶋良に代わり、その後のB1リーグとチャンピオンシップを含めて全27試合に先発出場。今シーズンのBリーグでもコンディション不良で欠場した2試合とその復帰戦の1試合を除いて22試合にスタメン出場し、司令塔としてチームを支えてきた。

 台湾遠征から中2日で臨んだ12月28、29日の「りそなグループ B.LEAGUE 2024-25 B1リーグ」第15節・宇都宮ブレックス戦、中村はGame1に先発出場したが、約15分半のプレーで5得点のみに留まった。チームは前半に18本中11本と驚異の3ポイント成功率で東地区首位の強豪に喰らいついたが、後半はその頼みの3ポイントも11本打って0点。第3クォーターからギアを一段と上げた宇都宮を止められず最大15点差をつけられ、一時は2点差に迫る意地を見せたが、最後は力尽きて79-94で敗れた。

 Game2は中村とニック・メイヨに代わって上澤俊喜とケリー・ブラックシアー・ジュニアが先発し、大黒柱のドウェイン・エバンスを中心に立ち上がりから激しい攻防を繰り広げた。第3クォーターは前日の反省を生かして強度の高いディフェンスで引き締め、残り1分23秒まで宇都宮にフリースローでの得点しか許さなかった。第4クォーターは10点差を追いつかれながらも残り21秒で5点リードを獲得。しかし、比江島慎の同点劇で追いつかれると、オーバータイムで突き放されて94-100で勝利を逃した。

 朝山正悟ヘッドコーチは第2戦のスターター変更について、「前日の試合でソフトになっていた部分や5人のつながりが見えなかった部分があった。日本代表の選手であろうが関係なく、今いい選手やチームとして体現してくれる選手を優先的にスタートで使うのが当たり前だと思っている」と説明した。

 ベンチスタートだった中村は静かに闘志を再燃していた。第1クォーター残り2分42秒で途中出場し、約28分半のプレーで15得点、3アシスト、2スティールと奮起。前日とは変わって、気迫あるディフェンスや持ち味のドライブで躍動した。第4クォーターではラスト21秒で勝利に近づく大きな3ポイントを決め切り、ホームの大歓声を巻き起こした。

「昨日の試合で責任を果たすことができていなかったし、チームに貢献できていなかったので、今日は途中からの出場でチームにいい影響を与えたいと思っていたし、昨日の敗戦から今日は必ず勝たないといけないと感じていた」

 しかし、広島は5点差に広げた直後、タイムアウト明けに比江島の3ポイントを許して2点差。残り15秒でスローインのパスがズレてターンオーバーを引き起こし、比江島のレイアップで同点。チームとして試合の締め方の課題が顕著に現れ、中村も試合後は悔しさを噛み締めていた。

「(3ポイントを決めた直後は)チームとして『いける』という雰囲気は出てはいなかった。でも、相手が絶対にファールしに来るとわかっていた中でターンオーバーが出てしまい、最後のレイアップを決められて追いつかれてしまった。最後にインバウンドでパスを出したのが僕なので本当に責任を感じています」

 宇都宮の勝利への執念を肌で感じた中村は、「相手は決め切らないといけないところで決め切っていたけど、こっちはオフェンスが単調になっていて、その違いが点差に出た」と振り返った。それでも、接戦を繰り広げたのも事実。「負けはしたけど、チームとして改善すれば、よりトップレベルのチームともやりあえて勝ち切れると感じたので、もっとチームとしてレベルアップしていきたい」と手応えも得た試合だった。

 ただ、強豪相手に「いい試合をした」で終わらすつもりはない。朝山HCは、「勝ち切るためには試合の最後のところは向き合わなければいけない。やられてはいけないタイミングでの3ポイントと絶対にしてはいけないターンオーバー。ここはチーム全体で高い授業料として受け止めて、次の試合に向けてやっていかないといけない」と力を込め、「最終的にオーバータイムの100点ゲームという形にはなったけど、かなり強度の高いディフェンスができたと思うので、この強度をベースにしないといけない」とチームに継続を求めた。

 中村も悔しい敗戦を糧にして、「とにかく受け身にならないことが大事なので、ディフェンスでも僕らが仕掛けることによって強度は上がっていくと思う。この試合の強度を来年もやらないといけない」と強気に戦う姿勢を貫くことを誓った。

 ブレイクした2024年が終わった。3月から中心選手として試合に出続け、チームとともに頂点へと駆け上がってB1初優勝。下剋上の原動力となり、CSファイナルで最も印象的なプレーをした選手に贈られる「日本生命ファイナル賞」にも輝いた。その後もBCLアジアやEASLで国際試合を経験し、11月には日本代表でデビューを飾った。

「この1年で多くのことを経験できた。優勝もできたし、バスケットボールプレーヤーとしては本当にいい1年を送れた」と充実の年だったが、3月で24歳になる中村の伸び代はまだまだ大きい。「2024年は自信がついた年になったし、そこからさらにいろいろ経験した上で成長していかないといけないと感じた」と向上心を高めている。

 広島はバイウィーク明けから1カ月続いた遠征の多い怒涛の過密日程が終わり、やっとホームで1週間過ごす。一息ついて、次の試合は新年の1月4、5日にホームで行われるB1第16節の秋田ノーザンハピネッツ戦。中村のさらなる飛躍の年が始まる。

取材・文=湊昂大