2024年を振り返るに欠かせないのがパリオリンピック2024。HIPHOPのカルチャーであるBREAKINGがオリンピック競技に採択され話題を呼んだ。結果として、日本代表選手が金メダルを獲得しBREAKINGという競技が連日ニュースに取り上…

2024年を振り返るに欠かせないのがパリオリンピック2024。HIPHOPのカルチャーであるBREAKINGがオリンピック競技に採択され話題を呼んだ。

結果として、日本代表選手が金メダルを獲得しBREAKINGという競技が連日ニュースに取り上げられた。連日テレビや雑誌など多くのメディアに出演しBREAKINGを日本中にリーチした。だが、これまでの道のりは常に開拓の連続で苦悩と共に歩んできたことも多かった。そんな、日本のBREAKINGをこれまで盛り上げてきた立役者たちのRoad to Parisへの挑戦は約8年前から始まっていた。

BREAKINGが競技に採択された当時は反発や理解を得られないことも多かった。なぜならBREAKINGはカルチャーであり、スポーツではないからだ。今でも、BREAKINGが競技化したことに戸惑いや否定的な意見を持つ人も多くいるだろう。

ただ、間違いなく言えることはパリオリンピック開会式の日、セーヌ川ではShigekixが日本選手団を代表し堂々と旗手を務め、大会当日AYUMIは最年長の41歳で果敢に挑みシーンに光をみせた。HIRO10は自慢のパワームーブで会場中を沸かせ、AMIは金メダルを獲得し初代女王となった。

日本代表選手の4名はそれぞれがベストを尽くし多くの感動を与え、私たちにBREAKINGを通じて多くのメッセージを残してくれたが、それらに加えて忘れてはならない存在がいる。彼らと二人三脚で共に歩んできたJDSF ブレイクダンス部をはじめとするBREAKING TEAM JAPAN(以下、BREAKING JAPAN)の存在だ。

彼らが選手たちと一体になり歩んできたことや、その地道な活動の上に、この結果が結びついたことを多くの方に伝えたいと思い、FINEPLAYでは幾つかのエピソードにわけ、取材を敢行する。第一弾は彼らが発足時より掲げていた「ユニフォーム文化の脱却」についてJDSFブレイクダンス部の渡邊マーロック氏と千野秀行氏に話を訊いた。

BREAKING JAPANが挑んだユニフォーム文化の脱却


Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟
「JPN M NK DFADV LS TOP PRT OLYBを着用 BGIRL AYUMI」

そもそも、読者の皆さんはNIKEのスポーツウェアに「ブレイキン・ダンス」カテゴリがあり、現在も一般販売をされていることをご存じだろうか。そのアイテム数はシューズも合わせると60種を超える。このカテゴリが生まれたきっかけは「パリオリンピック2024」だった。NIKEを含めBREAKING JAPANのユニフォーム(フェデレーションキット)にかける熱量と本気度がとてつもなく高く、結果としてこれだけのラインナップが揃うことになる。

BREAKING BGIRL部門において金メダルを獲得したAMIは、毎試合ごとに異なる衣装チェンジで注目を集めた。一見、どの選手たちも私服のような“いつものスタイル”であり、統一性は無く、ユニフォームには見えない。男女ともに同じユニフォームを着ていた他国の選手たちもいたが、そもそも競技においてその規定は無い。
なぜ、60種ものアイテムを作る必要があったのか。そこにはカルチャーとして欠かせない要素が関係する。

HIPHOPの精神は「愛・平和・団結・楽しむ」この4要素が根底にあり、表現方法として「DJ・MC・BREAKING・GRAFFITI」の4要素がある。BREAKINGはHIPHOPカルチャーとしてのルーツがあり、オリジナリティやスタイルを大切に考えるカルチャーが前提にある。この考えをリスペクトし体現をするため、今回のパリオリンピック2024でBREAKING JAPANは「ユニフォーム文化の脱却」を掲げていた。


NIKE JAPANとの取り組み

BREAKING JAPANはオフィシャルユニフォーム開発先を探し奔走していた中、NIKEが手を挙げる。NIKEは誰もが知るグローバル企業であり、数々のアスリートをサポートし多くのスポーツアパレルアイテムも手掛けている。今回、オリンピックに向けてBREAKING競技に参加した国でNIKEとオフィシャル契約を結んだのは日本に加え、アメリカと韓国の3カ国だった。


Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟「コーディネートのバリエーションが豊富」

試行錯誤だったオフィシャルウェア

JDSFマーケティング担当の千野氏はこう語る。
「トータルで約3年ほど制作に時間を費やしました。逆に言うと3年でよくここまで作ってもらったなという想いです。NIKEさんとご一緒させていただき、我々のリクエストをとても的確に受け入れてもらうことができました。日本代表選手は4名ですが、その4名にそれぞれ個性があるため、セットアップなど1つのコーディネートではなく、それぞれの選手が自由に組み合わせられるファッション性のあるフェデレーションキット(ユニフォーム)を目指しました。オリジナリティがパフォーマンスにも影響を与えると思いますので。でも、そうした考えを進めていくとあれもこれも必要というようにどんどん話が膨らんでいき、付属品も含めると気がついたら60アイテムほどになっていました。それを、我々のフィードバックも反映いただきながらこの期間で作りあげていただき感謝しています。」

さらに、今回のユニフォームの制作にあたり、世界的に有名な抽象ストリートアートの先駆者である「FUTURA」がデザインを担当しており、NIKEの本気度が伝わってくる。随所に彼の代表的なキャラクターやアイコンなどが取り入れられていた。中でもスタジャンは、ファッション性の高いアイテムに仕上がっている。どれも実際に販売をするにあたり、アパレル商品としての側面も持ち合わせている。


FUTURAの象徴と「日本」のコラボが際立つスタジャン

デザイン性に加えて、こだわった着心地と機能性

例えば、ブレイキンはフロアに接触する部分が「頭」「ひじ」「膝」「背中」「尻」「肩」など多岐に渡る。さらにスピン技など摩擦が生じる技については、周りやすいテクスチャーか、またその布の丈夫さや厚さなど、細かい部分を加味すると気を遣うポイントが多々ある。取材を重ねて驚いたことは「言われないと気が付かない」機能が随所に施されていることだった。



肘は厚めに作られている

パンツの裾は折り返しでき、絞りもでき、
さらに紐のストッパーがある

JDSF理事であり、ブレイキン ディレクターの渡邊マーロック氏はこう語る。
「最初に上がってきたサンプルを実際にJDSFの強化選手やスタッフたちに着て踊ってもらいました。例えば、パンツの足元は絞る紐と捲ることができるようにしたいと言うことや、フードは被りたいけど、被って絞ると紐が垂れて踊る時の妨げになるので無くしたいなど、細かくフィードバックをさせていただきました。生地の質感や、ボタンやチャックなどフロアに当たる部分の位置関係など、ファッション性の部分と機能性の部分のバランスをNIKEさんにはとても上手に表現していただきました。このフェデレーションキットはよく見るとBREAKINGならではの体裁になっているんですよ。」



Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟
Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟

こうした背景により、選手たちに“着させる”ユニフォームではなく、“自ら選んで着る”ユニフォームが生まれ、その結果AMIは出場するたびにユニフォームを変更し、その模様が大きくメディアに報道されるなど本来のHIPHOPのカルチャーの側面である“個性”を表現することに寄与した。勝ち負けだけではなく、シーンを盛り上げるきっかけにも繋がった。こういった考え方そのものが、これまでのIOC率いるスポーツ競技になかったように思う。もちろん、団体競技などそれぞれスポーツ競技には歴史がありルールがある上で、ユニフォームを統一するものもあり、それらを否定するわけではない。ただ、今大会でBREAKING JAPANが、ブレイキンカルチャーをリスペクトする姿勢を新たな角度で主張し、カルチャーシーンからも応援される組織づくりやBREAKINGならではのメッセージを活かし体現したことは、スポーツシーンにおいて新たなフォーマットを提示できたように思う。

スポーツカルチャーへの風穴

ユニフォームとは「その集団の意識的統一をはかると同時に、他の集団との区別を明確化するもの」という定義がある。さらに競技により様々な規定がある上で制作をするものであるが、そもそもアスリートファーストを考えると、そのユニフォームひとつをとっても、パフォーマンスに影響が出るものと考える。

さらには、ユニフォームが話題を呼びアスリート自身の露出が増えると、BREAKINGの競技としての存在感が際立つことに加え、メーカー側にとっても喜ばしいことであり、BREAKING JAPANは他国にはない形で双方に貢献した。シーンにリスペクトを残しつつも“いつもの”スタイルで競技に参加する。こうした一つひとつのチャレンジがチームを底上げする力になったことに違いなく、シーン全体への影響をも考えた讃えるべき功績と言えるのではないだろうか。


Ⓒ公益社団法⼈⽇本ダンススポーツ連盟「BREAKING TEAM JAPAN」

【BREAKING Federation Kit】全60種+シューズ3種
■Mens 23種 ※
■Womens 27種 ※
■その他 カバン、ユニセックスのキャップなど10種 ※
■シューズ NIKE JAM 3種
※カラーバリエーション含む

渡邊マーロック
日本ダンススポーツ理事/ブレイキン ディレクター
日本のBBOYであり、日本のブレイキン競技のハイパフォーマンスディレクターとして、2024年パリオリンピックに向けたプロジェクトマネジメントを担当。パリ大会ではブレイキンナショナルチームの監督としてチームを率い、成功に貢献した。大会後も、日本ダンススポーツ連盟の業務執行理事として、強化・普及・マーケティングの各分野でブレイキンを軸にストリートスポーツ(アーバンスポーツ)の発展に尽力している。
また、ナショナルコーチアカデミーでも、豊富なマネジメント経験を活かし、日本の指導者の質を向上させるための施策を推進している。これまでに、飲料メーカーやスポーツブランドのマーケティング担当としてプロジェクトマネジメントを行い、企業のブランド力強化やスポーツとの連携を促進してきた。さらに、2020年からは渋谷未来デザインのスポーツプロデューサーとして、地域とスポーツを結びつける新たな取り組みを企画・推進している。

千野秀行
日本ダンススポーツ連盟 ブレイキン マーケティングパートナー
1997年にダブルダッチチームを結成。2002年と2003年には、ニューヨークのアポロシアターで開催された世界選手権で2連覇を達成し、日本ダブルダッチ界の礎を築いた。2005年には日本学生ダブルダッチ連盟を設立し、2006年には「OVER THUMPZ」を結成。以降、ダブルダッチを中心にアーバンスポーツの普及・発展を目的に、イベントプロデュースやパフォーマー育成を精力的に行っている。
その後、ストリートカルチャー全般への知識と経験を活かし、日本ダンススポーツ連盟のマーケティングパートナーとして立ち上げ時から活動を開始する。現在では、スポンサーの獲得やメディアリレーションのみならず、競技の普及を目指したコミュニケーション活動を主導する。現在もブレイキン競技やストリートスポーツの認知向上と発展を目指し、多角的な活動を続けている。

日本ダンススポーツ連盟(JDSF)とは
公益社団法人日本ダンススポーツ連盟 (Japan DanceSport Federation * 略称JDSF) は、日本におけるダンススポーツの統一組織。ダンススポーツの振興を図り、国民の心身の健全な発達に寄与することを目的としている。ブレイクダンス部はJDSF内のBREAKINGに関するプロジェクトに特化したチームで、主に世界ダンススポーツ連盟 (World DanceSport Federation : 略称WDSF)との連携をはじめとする日本代表選考業務や、JOCとの連携による選手強化業務、スポンサーやメディアとの連携を行うマーケティング業務を中心に活動。


JDSF 第6回全日本ブレイキン選手権
オープン・ジュニアの2部門で総勢約200名のBBOY / BGIRLが、
日本一の称号をかけて熱いバトルを繰り広げる。
日時:2025.2.15(土) – 16(日)
会場:NHKホール(東京都渋谷区神南2丁目2−1)
共催:NHK

■2025年2月15日(土)
開場 10:15(予定)
競技開始 11:00 (予定)
競技終了 20:00 (予定)
・ジュニアカテゴリー:プレセレクション~決勝
・オープンカテゴリー:プレセレクション~TOP16

■2025年2月16日(日)
開場 10:30(予定)
競技開始 11:00 (予定)
競技終了 18:00 (予定)
・オープンカテゴリー:TOP8~決勝

■チケット情報
・1月中旬より販売開始予定
JDSFのInstagramアカウントをご確認ください。

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