東京女子プロレス・山下実優 インタビュー後編(前編:AKB48に憧れていた少女がプロレスの道へ 東京女子でのデビューと、人生初の「絶望」を感じた試合>>)2025年1月4日後楽園ホール、伊藤麻希とのタッグ「121000000(ワン・トゥー・…

東京女子プロレス・山下実優 インタビュー後編

(前編:AKB48に憧れていた少女がプロレスの道へ 東京女子でのデビューと、人生初の「絶望」を感じた試合>>)

2025年1月4日後楽園ホール、伊藤麻希とのタッグ「121000000(ワン・トゥー・ミリオン)」でマーシャ・スラモビッチ&ザラ・ザッカーの挑戦を受けるプリンセスタッグ王者の山下実優。2013年8月のデビューから来年でキャリア12年目を迎えるが、今年は自分に対する「マンネリ」と、そこからの新たな気づきがあったという。それを山下に振り返ってもらうと共に、来年4月に引退する里村明衣子への思い、伊藤とのタッグ、今後の目標などを語ってもらった。


2025年1月4日、プリンセスタッグ王座の防衛戦に臨む山下実優

 photo by Tatematsu Naozumi

【王座陥落も、後輩に感じた大きな成長】

――2024年1月4日の後楽園ホールで、プリンセス・オブ・プリンセス王座(=プリプリ王座)を保持していた山下選手は、アメリカのプロレス団体TNAで現在ノックアウト世界王座のタイトルを保持するマーシャ・スラモビッチ選手の挑戦を受けました。

山下:マーシャとは海外遠征中も何度か戦いましたが、強くて器用だし、見せ方もアメリカナイズされてカッコいい。"戦いの血"というか、スタイルやマインドが私に近いと感じます。

 マーシャは2020年から1年間、マーベラスの長与千種さんに指導を受けていました。その教えもあり、アメリカ人ながら日本のプロレスを熟知している。ほかの海外の選手とはまったく違いますね。日本でも私とマーシャしかできない戦いを見せたかったので、団体に「マーシャを呼んでほしい」とお願いしました。

――その試合には勝利しましたが、3月31日には両国国技館大会のメインイベントで、渡辺未詩選手に敗れてプリプリ王座から陥落しました。

山下: 2017年に里村さんと戦って「絶対エースになる」と誓った時、同時に「数年後に両国国技館で、王者の自分に次世代の選手が挑戦する」ということもイメージしました。そのために強くなって高い壁になると。それが現実になりました。ただ、壁になるはずが渡辺にベルトを奪われた。悔しいけど、人生はすべてがうまくいくわけではないですね。

――その試合の渡辺選手の印象はいかがでしたか?

山下:それまでとは意識が変わっていました。ただ「ベルトを獲る」「山下実優を倒す」と思っていただけでは、私に勝てなかったと思います。ベルトに対しての思いだけじゃなく、「ベルトを獲得した後、どうしていきたいのか?」という将来のビジョンも持っていた。それが勝負を左右したんだと思います。

 ただ倒すだけでは、お客さんの印象は「山下に勝った渡辺」というだけだし、ベルトが小さく見えてしまう。獲ったベルトの価値を高めるために、盛り上げるのがチャンピオンの仕事。その意識があったから渡辺は大きく成長し、現在も王者として防衛し続けているんだと思います。

【11年目で感じたマンネリと新たな気づき】

――4月からは2カ月半の海外遠征。帰国後の6月30日には、DDTのリングで髙木三四郎&山下実優vs男色ディーノ&伊藤麻希のミクスドマッチが行なわれました。凶器あり、"尻出し"をめぐる攻防ありとハチャメチャな展開になりましたが、そんな戦いにも適応していましたね。

山下:私にはまだ隠れている能力があるのかもしれません(笑)。この試合はシンプルに面白くて、「お客さんを楽しませることが一番だ」と、あらためて気づかされました。

 実は、今年の海外遠征中に「私、ちょっと面白くないな」とマンネリを感じていたんです。いろんな選手と戦うなかで、「この選手はこう攻めてくるだろうな」とわかって、それに対応する自分の戦い方がワンパターンだと感じて。「このままでは弱くなって、いつか負けが続く日が来てしまう」と思ったんです。

――キャリアを重ねてきた山下選手でも、そんな新たな気づきがあるんですね。

山下:長く活動すると、ある程度"流れ"は予想できるんですが、流れを読みすすぎて「こうじゃなきゃいけない」と考えると、"固い"試合になってしまうんです。レスラーは、「このカードで何を見たいのか?」を意識しなければいけない。プロレスはお客さんを満足させないと、勝っても意味がないですから。

 髙木さんや男色さんと戦ったことで、いろいろ考えすぎていたものを全部落とすことができたし、「もっと自分にも可能性があるのかも」と思えた。「これからは考えを柔らかくしていこう」と気持ちを切り替えました。

【里村さんと闘えなかったら運命と受け入れるしかない】

――その後、10月6日に後楽園ホールで、山下実優&渡辺未詩vs里村明衣子&中島翔子戦が行なわれました。かつて"絶望"を味わった、里村さんとの7年ぶりの戦いはいかがでしたか?

山下:「やっとこの時が来たか」とワクワクしましたね。来年4月に里村さんは引退します。「引退まであと半年だから、うかうかしてられない」と思って、甲田哲也代表に「絶対に里村さんと戦いたいです」とお願いしました。

 私が「誰かと戦いたい」とお願いしたのはその一回だけです。7年前、私は里村さんと戦って"絶望"を味わいましたが、10月の試合が決まった時はまったく怖さがなくて。私もそれまでに、積み上げてきたものがありましたから。

 そこで倒せたらよかったけど、結果は里村さんのデスバレーボムで3カウントを取られてしまいました。負けて悔しかったし、「まだまだか......」と思いつつも、タッグマッチだったので物足りなさを感じました。「もっとやりたかったな」って思いましたし、やっぱりもう一回、シングルで戦いたいですね。

――試合後、里村さんは「山下実優。目の前に来いや。待ってるぞ」とコメントしていましたね。

山下:絶対に倒したい。2017年に「レスラーとして強くなる」と心に決めるきっかけをくれた里村さんと1対1で戦うことで、また大きな何かを得られるんじゃないかと思うんです。ただ、もし里村さんの引退までに戦えなかったら、運命だと受け入れるしかないですけどね。

 どれだけ頑張っても、叶わないことは叶わない。「叶わないかもしれない」と思うと動けなくなるんですよ。やりたいことに対して、そこに向かう努力ができたら自分を誉めたい。「自分がやりたいからやる。そこに向かいたいから努力する」ことが大切だと思っているので。それでも里村さんと戦えたら嬉しいですし、対角に立ったら全力でぶつかっていきます。

【伊藤とのタッグで挑戦したいこと】

――11月にはアメリカ・シアトルで、DDTプロレスと、アメリカのプロレス団体DEFYの合同興行「DDT In Utero」が開催され、山下選手はDDT UNIVERSAL王座を獲得しました。

山下:王座を持っていたのは一瞬でしたけどね(苦笑)。王者のMAOさんとマイク・ベイリーと私の3WAYマッチが突然決まりました。通常、日本でのタイトルマッチは約1カ月前に決まって、タイトル戦に向けて前哨戦があります。でもアメリカでは、会場に到着してから「今日はタイトルマッチだよ」とプロモーターに言われることがあるんです。

 海外遠征でアメリカの環境に慣れていてよかったです。不意打ちのタイトルマッチでも戦える調整をしておく意識ができていたので、その3WAYマッチも動揺はなかったですから。DDT UNIVERSAL王座を女性で戴冠した選手はいなかったので、「私がベルトを戴冠するのが一番面白いでしょ?」と思ったし、「ベルトを獲るぞ」と強い気持ちで戦いました。

 私のプロレスは蹴り技が主体で、相手ふたりは跳び技を得意とするハイフライヤーで、どんなプロレスをしてくるのか予測不能だった。でも、どんな技がきても対応できるように「絶対に切り崩す」と思っていました。脳をフル稼働させたので、オーバーヒート気味でしたね。そんな戦いを経てタイトルが獲れたんですが......その24時間後、また3WAYの試合で負けて、もう手元にはありません(笑)。

――そんな、さまざまなことがあった2024年を振り返っていかがですか?

山下:デビュー11年で、もう少し落ち着くのかと予想していましたけど、怒涛の1年でしたね。「11年経ってもまだまだ面白いんだ」と感じました。

――2025年はどんな1年になりそうですか?

山下:「強さを追求すること」は変わりません。現在は伊藤との「121000000(ワン・トゥー・ミリオン)」でプリンセスタッグのベルトを持っていいますが、ほかのタッグチームも力をつけてくるだろうし、東京女子からいろんな選手、いろんなタッグチームが誕生するはず。海外も含めて、伊藤とのタッグどこまで防衛記録を伸ばせるのかに挑戦したいです。

――伊藤選手とのタッグが始動したのは2021年2月。間もなく4年を迎えます。

山下:同じ福岡出身で、私は伊藤をリスペクトしています。2021年1月の後楽園でのシングルマッチはメチャクチャやり合いました。うまく言葉では言い表せないけど、伊藤との試合ではシングルで戦ってもタッグで組んでもワクワクするし、一緒に行ける"境地"があるんです。

 同じ時代に生まれて、出会うことができてよかったです。結成当時から「ふたりでベルトを獲得して世界を回れたら楽しそう」「タッグでいろんな選手と戦いたい」とイメージできました。ファイトスタイルが真逆なふたりだからこそ噛み合うのかもしれませんね。

――2025年1月4日の後楽園で、プリンセスタッグ選手権試合が決まりました。今年1月にシングルで対戦したマーシャ・スラモビッチと、驚異の新人ザラ・ザッカーがタッグを結成して挑んできます。

山下:今年、ザラは定期的に東京女子に参戦しましたが、国内だけではなく海外でも一番注目されている若手です。マーシャ以来の衝撃を感じる選手。新年早々、マーシャとザラを挑戦者としてぶつけてくるなんて......団体は何を考えているんでしょう(笑)。

 伊藤とのタッグでは「10回防衛しなければ解散」を掲げています。このふたりとの戦いを乗り越えることができれば、10回防衛するという目標が現実的に見えてくるんじゃないかと。そのくらい厳しい相手ですが、タッグチームとしてのクオリティーや試合内容でも圧倒し、会場を"121000000色"に染めたいです。

【プロフィール】
山下実優

1995年3月17日、福岡県生まれ。165cm。2013年8月17日、DDTプロレス両国国技館「DDT万博〜プロレスの進歩と調和〜」でプロレスデビュー。2016年1月4日、初代プリンセス・オブ・プリンセス王座を戴冠。2019年4月5日アメリカでSHINE王座の獲得と、プリンセス・オブ・プリンセス選手権の最多防衛記録10回に成功。2021年2月に伊藤麻希とのタッグ名を「121000000」(ワン・トゥー・ミリオン)として本格始動。2022年11月ロンドンでEVE王座を奪取。2023年3月に「121000000」でプリンセスタッグ王座を獲得し、同年6月にはアメリカで設立した新団体「Spark Joshi Puroresu」の初代王者になる。2024年9月、「121000000」でプリンセスタッグ王座2度目の戴冠。2024年11月にDDT UNIVERSAL王座を獲得。2025年1月4日、後楽園ホールでマーシャ・スラモビッチ&ザラ・ザッカーの挑戦を受ける。