「今日はアシストの部分で思った以上に(狙われた)。逆に言うとレイアップが打てた状況が多かったにも関わらず、そこでパスに目がいっ…
「今日はアシストの部分で思った以上に(狙われた)。逆に言うとレイアップが打てた状況が多かったにも関わらず、そこでパスに目がいってしまってターンオーバーになってしまった。そこは僕の判断ミスだったと思うし、やっぱりあそこではしっかりと打ちきる、ドライブしたあとに打ちきるっていうことをもっと見せていかないと」
12月28日(現地時間27日)、メンフィス・ハッスルのスタメンとしてNBAロサンゼルス・クリッパーズ傘下のサンディエゴ・クリッパーズ戦に出場した河村勇輝は、7本のスリーポイントを決めて23得点したものの4ターンオーバーを犯してしまったことについて、そう言った。
そして「今後、ああいったディフェンスをされる可能性もあると思うので、そういった意味では、このミスも自分にとってすごくいい経験になると思うし、次の試合で自分のアシストがどれだけ修正できるかっていうのが僕の課題でもあるので、また同じチーム相手に戦えるというのは、すごく楽しみです」。
河村は、そのままサンディエゴに残り、1日、中日を過ごしたあと、30日に同じ場所で、同じクリッパーズ相手にプレーする予定だった。メンフィス・グリズリーズでベンチ入りしているときは、“見て、学ぶ”ことが大半の河村にとって、スターターとして、そしてチームの主力として戦えるハッスルでの試合は貴重な体験。自らに対する対策を練り、勝負をかけて本気で立ち向かってくる相手にどのように応えていくか、課題が残れば次の試合でどれだけ修正し、成長していくか。それができることは、選手としての醍醐味でもある。だから河村は、ハッスルでの次の試合を心待ちにしていたのだ。
その日のグリズリーズの試合でジャ・モラントが右肩を故障したことを聞いた河村は、「わからないです。たぶん(このままサンディエゴに)いると思います。信じています」。人への気遣いが自然にできる河村だけに、30日に再び取材をする気満々だった日本人記者の心情を察して発してくれた言葉なのだろうが、一つひとつ実戦での課題を克服していきたい気持ちもあったはずだ。
結局河村は、翌日サンディエゴからオクラホマシティーに移動し、30日はハッスルのメンバーとしてではなく、グリズリーズのメンバーとして、オクラホマシティー・サンダー戦にベンチ入りすることになった。実は、27日にメンフィスからサンディエゴに移動する際、朝からの出発のはずが、飛行機が飛ばず夕方に変更。ロサンゼルスに到着後、バスで2時間ほどかけてサンディエゴに移動し、ようやくホテルに到着したのは午前1時半頃だった。「Gリーグ感というのをすごく感じました。かなり大変でした」と河村。「でも、これもまたいい経験という感じですね」と苦笑いを浮かべた。
それなのに同試合の翌日、移動の疲れを休めることもできず、また移動となってしまった。大都市ではないサンディエゴからオクラホマシティーへの移動、さらにサンディエゴよりも時差で時間が2時間早い地域に移って試合の準備をすることは、決して楽ではなかったはずだ。それでもサンダー戦では最後の11分1秒プレーし、自己最多の10得点、リバウンドも自己最多で3本、3アシストも記録したわけだが…。
このように2way選手としてのいい面も苦労も「とてもいい経験」と捉え、世界最高峰の舞台に挑み続ける河村。パリオリンピックで大活躍してその名を世に轟かせ、グリズリーズとエグジビット10契約を交わして今季はGリーグでプレーする予定が、プレシーズンで持てる力を十分に発揮し2way契約を勝ち取って日本人では史上4人目となるNBA選手になった。
上々の1年だった。
だが、2024年をどのように振り返るかを問うと、意外な答えが返ってきた。
「日本で最後のシーズンになってしまった横浜ビー・コルセアーズでは、もちろん自分たちが思い描いていなかった結果になってしまいましたし、またオリンピックでは3連敗で終わってしまって。その後NBAに入って、こういった形で2way(契約)が取れたことは、すごくいい年になったと思います。でも、やっぱり結果的に見れば、すごく悔しい1年だった」。
もう一度言う。
河村は、誰もが夢見るNBAという大舞台に立ち、ジャ・モラントやジャレン・ジャクソンJr.らNBAのスターたちとシーズンを過ごし、Gリーグでは主力としてプレーして、ますます成長できるチャンスをつかんだのだ。それなのに、成功よりも悔しい気持ちになったことが先行する。
ただ、それが河村らしいし、だからこそ今の「河村勇輝」があるのだろう。
「(2025年の抱負は)すごくこれだ、みたいなのはあまりないんですけど、とにかく今年以上に成長できる年にしたいと思うし、自身がより成長を感じられていると思えるような一年にできればいいなと思います」
成長できた自分は感じられる。だが、満足感に浸ることのない河村にとって“最高の自分”を感じる日は、いつまで経っても訪れないのかもしれない。
それだけに、河村が繰り広げていくバスケットボール・キャリアを見逃すわけにはいかないのだ。
文=山脇明子