2024シーズンF1総括10大ニュース(中編)「名門マクラーレンが26年ぶりに頂点に立った」 史上最多24戦のカレンダーで幕を開けた2024シーズンのF1は、バーレーンを皮切りに世界各国を9カ月間かけて転戦し、最後はアブダビで閉幕した。 1…
2024シーズンF1総括10大ニュース(中編)
「名門マクラーレンが26年ぶりに頂点に立った」
史上最多24戦のカレンダーで幕を開けた2024シーズンのF1は、バーレーンを皮切りに世界各国を9カ月間かけて転戦し、最後はアブダビで閉幕した。
1950年に始まり、75回目を迎えた2024年のF1世界選手権は、各地でどんなドラマを生んだのか。2009年からF1を現地で全戦取材するジャーナリスト・米家峰起氏に2024シーズンのトピックスを10点、ピックアップしてもらった。
※ ※ ※ ※ ※
角田裕毅はリカルドにもローソンにも負けていなかった
photo by BOOZY
(4)角田裕毅4年目に急成長も「レッドブル昇格」ならず
2024年の角田裕毅は、大きな成長を遂げた。
シーズン前半戦は常にQ3進出と中団トップを争い、時にはメルセデスAMG勢やアストンマーティン勢と激しい戦いを繰り広げた。
それに加えて、3年目までのようなミスらしいミスもなかった。開幕戦バーレーンGPのチームオーダーに対する失態で猛省し、それ以降は精神的にも努めて冷静さを保つよう心がけ、それが走りの安定性にもつながっていた。
ハースやアウディなど他チームから獲得の意向を示されるなど、F1界における角田の評価や位置づけは明らかに変わった。間違いなく中堅ドライバーのなかでトップの存在であり、これからトップドライバーへとさらなる飛躍が期待できるという評価を得た。
ただし、シーズン中盤戦はマシン開発が停滞して競争力が下がり、角田自身も第9戦カナダGP決勝のコースオフ、第13戦ハンガリーGP予選のクラッシュ、第20戦メキシコシティGP予選のクラッシュなど、いくつかミスを犯した。第16戦イタリアGPや第17戦アゼルバイジャンGPの接触は相手に非があるものとはいえ、角田自身も認めたように避けることもできた。
シーズン終盤のハイライトは、雨の第21戦サンパウロGPだ。予選では3位の快走を見せて、決勝でも表彰台圏内を走ってみせた。
雨脚が強くなったところでウエットタイヤを求めてピットに飛び込み、その後にセーフティカーや赤旗が出なければ、優勝争いを演じていた可能性もあった。チームの指示どおりにインターミディエイトのままステイアウトしていれば、ピエール・ガスリーを抑えて3位表彰台も十分に手にできた。
チームメイトとの戦いにも、まったく負けなかった。シーズン前半戦はダニエル・リカルドに圧倒的な差をつけ、終盤6戦はリアム・ローソンにも予選全勝で決勝でも優位性を見せた。シーズン後にアブダビで行なわれたテストではレッドブルRB20をドライブし、堅実な仕事ぶりとプロフェッショナルなフィードバックを印象づけた。
それでも、2025年のレッドブル昇格はならなかった。
4年目の角田は大きな成長を見せたが、ここぞという場面でミスがあったことも確かだ。ブラジルで表彰台を獲得し、そこで周囲に強いインパクトを残せなかったのも悔やまれる。
ディートリッヒ・マテシッツ総帥死去後のレッドブル本社の体制変化や、ヘルムート・マルコの権力縮小、スタッフ離脱が相次ぐレッドブルレーシングのレース屋魂の変化、そしてホンダとの関係が2025年限りで終了......。レースパフォーマンスとはほど遠いところで固められた方針を、角田は覆すまでのインパクトを周囲に与えられなかった。
F1参戦初年度2021年のピエール・ガスリーと角田の差を思えば、たしかにローソンのパフォーマンスはステディでミスもなかった。しかし、光る速さを見せた場面もなかった。ローソンにもまだ伸びしろがあるとはいえ、今のレッドブルは勝つために大成功を目指すより、ミスないこと・失敗しないことを選ぶチームに成り下がったということだ。
(5)中団グループは稀に見る「超・戦国時代」に突入
2024年の中団グループ争いは、これまで以上に激しかった。
以前も中団グループは常に大接戦ではあったが、2024年が特徴的だったのは、シーズン中に何度も勢力図が変わったことだ。
序盤戦はハースとRB、中盤戦はそこにアルピーヌが加わり、後半戦に入ってしばらくはウイリアムズとハースが中団トップのマシンとなり、終盤戦はアルピーヌが中団トップに加わった。逆に、前半戦に上位チームの一角にいたアストンマーティンは、後半戦は完全に中団グループに飲み込まれた。
前半戦で中団最上位の5位だったアストンマーティンは、73点を稼いで6位RB(34点)以下に大差をつけた。しかし、後半戦はアルピーヌが54点を稼いで5位となり、アストンマーティンは21点で7位と低迷を余儀なくされた。RBは12点しか稼げず、後半戦は9位。
こうした勢力図に大きな変化が起きたのは、マシン開発によるものだ。各チームはシーズン中に何度かの大型アップデートを投入し、そのたびに勢力図が変化する。中団グループ全体が0.3秒ほどの差しかないがゆえに、そのアップデートの成否が勢力図を大きく左右するわけだ。
シーズン序盤はRBがやや先行したが、第10戦スペインGPのアップデート失敗で停滞。その間にハースは着実に開発を進め、後半戦も2度の大型アップデートで常に中団トップの位置につけた。
また、第15戦オランダGPのみにアップデートを投入したウイリアムズがその直後だけ中団トップに立ったのも、ずっと無得点だったキックザウバーが終盤戦にポイント獲得を果たしたのも、2025年型フロアを投入したからだ。
開幕時点でマシン開発に失敗して技術体制を完全刷新したアルピーヌは、軽量化が進んだ中盤戦から徐々にパフォーマンスを向上させて、第19戦アメリカGPの大型アップデートで一気に性能を向上させた。第21戦サンパウロGPのダブル表彰台は雨を味方につけた結果だが、それ以外のレースでも中団最上位を走り続けた。
当然ながら、2025年もこの大接戦は続く。0.1秒のアップデートが大きな差になって現われる「超・戦国時代」になるだろう。
(6)日本人F1チーム代表「小松ハース」が大躍進
昨年最下位の苦渋を味わったハースは、エンジニアの小松礼雄をチーム代表に据えて2024年シーズンを迎えた。
小松代表はまず、マシン開発を停滞させていた組織の改革に着手する。イギリスのレース部門およびビークルダイナミクス部門とイタリアの空力部門のコミュニケーションを密に取り、マシンを速くするために本当に必要な開発アイテムが俎上に乗るようにしていった。
同時に、チームとして目指す目標・目的を明確にし、それを全員が理解して共有することで目の前の結果を意識して焦ることなく、本当に必要な作業に集中できる環境を整えた。
その結果が計4回の大型アップデートの成功であり、「ひとつでも上の順位」ではなく「入賞できなければ意味がない」というレース戦略によるポイント獲得だった。
ハースは見違えるように生き生きしたチームへと変貌し、現場の雰囲気も明るく活発なコミュニケーションが見られるようになった。現場においても、チームのSNS等での発信においても、その中心にいたのは小松代表だ。
チームスタッフも設備もほとんど変わらなくても、運営によってこれだけ変わるということを証明してみせた。小松代表の手腕はF1パドックにおいて高く評価されて、その存在感は日に日に増している。
(つづく)
「夢を叶える次の日本人ドライバーは?」