出雲1区、全日本2区と連続区間賞で存在感を発揮する青学大・鶴川 photo by SportsPressJP/AFLO後編:青学大の強さの源にある「厳しさ」と「優しさ」2025年1月2日・3日に行なわれる第101回箱根駅伝(217.1km/…
出雲1区、全日本2区と連続区間賞で存在感を発揮する青学大・鶴川
photo by SportsPressJP/AFLO
後編:青学大の強さの源にある「厳しさ」と「優しさ」
2025年1月2日・3日に行なわれる第101回箱根駅伝(217.1km/往路107.5km・復路109.6km)。優勝候補として迎える青山学院大は今季無冠だが、原晋監督は出雲駅伝、全日本大学駅伝とそれぞれのレース内容で自分たちの現在地を確認し、箱根に向かってきた。
年々学生長距離界のレベルが上がるなか、勝利を手にすることは至難。だからこそ、生粋の勝負師である原監督、そして青学大のランナーたちは前回王者としてではなく、挑戦者として2年連続8度目の箱根制覇へ向かっていく。
【対照的だった出雲、全日本の監督評】
青山学院の強さの源は、「厳しさ」と「優しさ」。
それは10年以上、このチームを取材して感じてきたことだが、2024年も駅伝の現場で同じような感想を抱いている。
前回の箱根駅伝。三冠を狙った駒澤が有利と見られていたが、青山学院は3区で太田蒼生(現4年)が、駒澤の佐藤圭汰(現3年)を沈め、優勝をたぐり寄せた。
2024年度は太田をはじめ主力選手の大半が残り、しかも前半のトラックシーズンでは鶴川正也(4年)が大活躍、日本選手権の5000mでは4位に入った。鶴川だけではなく、自己ベストを更新する選手が続出した。
これは、青山学院の三冠か−−。
夏の終わりころには、そんな下馬評が立ち始めた。
ところが、駅伝シーズンが始まってみると、青山学院は後手を踏んだ。
今年の駅伝戦線の特徴は、出雲駅伝、全日本大学駅伝ともに1位から5位までの順位がまったく一緒だということだ。
國學院、駒澤、青山学院、創価、そして早稲田。
青山学院は國學院、駒澤の後塵を拝した。まさかの展開である。
出雲で敗れたあと、原監督は不機嫌なように見えた。
「もっと、できたよね。1区の鶴川は区間賞を取ったけど、國學院と8秒、駒澤とは15秒差でしょう。これ、"わずか"だよね。鶴川の実力を考えれば、1区で1分の貯金ができてもおかしくない。そうすれば、2区、3区だって展開が変わってましたよ。これまで駅伝とはあまり縁がなかったから、どうしても区間賞が欲しくて守りに入っちゃったかな。これも経験ですけど。
それと5区の若林(宏樹・4年)ね。入りはよかったけど、粘れなかったなあ。4年生がたすきを渡す前のラスト1kmとか、そのあたりの『たすき際』が弱い。今後の課題です」
原監督の厳しさが出た。
ところが、11月3日に行なわれた全日本では、同じ3位でも表情が違った。柔和だった。
「國學院、強いね。それに駒澤のアンカー、山川くん(拓馬・3年)の走りにはびっくりしました。敵ながら天晴れ。強い学校を相手にしての3位。ウチとしては、真っ向勝負を挑んで、潔く負けた感じです」
出雲のような取りこぼしはなかった。青山学院としては正々堂々と力を発揮し、その結果を原監督は受け入れていた。
これは、監督の優しさである。
「レベルが上がってるんですよ。もう、呑気に構えてる場合じゃない。出雲の時は一度も勝ったと思った瞬間はなかったけど、今回は勝ったと思ったもんね。2区で鶴川が國學院に1分近く、駒澤には1分差以上つけた。これはいいぞ、と。そして4区の黒田朝日(3年)が区間新記録で、國學院には1分半くらい、駒澤には2分半くらいの差をつけたら、そりゃ勝ったと思っておかしくないよね」
しかし、ひっくり返された。なぜか? 原監督は言う。
「國學院の5区、6区が強かった。特に5区の野中くん(恒亨・2年)は"ホンマもん"だね。出雲の4区、全日本の5区と区間賞。言い方は正確じゃないけど、野中くんは國學院のレイヤーでいえば中間層。でも、ほかの学校に行ったらエースだよね。
今年は、中間層の差が出てます。鶴川、黒田、太田の3人はスーパーで、エースは遜色ない。箱根ならアドバンテージを出せるでしょう。箱根の勝負どころは4番手以下の中間層になってきます」
【2連覇のカギを握るのは中間層?】
そしてもうひとつ、原監督が言及したのは「特殊区間」における選手の経験値。
青山学院には1年、3年と山上りを経験している5区に若林、そして6区には前回、58分14秒で区間2位の好走を見せた野村昭夢(4年)が残っている。今回、野村は区間新を狙っている。
「前回は12月上旬のインフルエンザの影響で、体調が万全というわけではなかったんです。今回は、舘澤亨次さん(現・DeNAアスレティックスエリート)が持っている57分17秒の区間新の更新はマストとして、誰も突入したことのない56分台に挑戦します。ポイントは下りが始まる前の上り坂です」
前回、國學院と駒澤の6区は59分台だった。両校の「野村対策」もポイントになるのではないか。
こう見てくると、青山学院にとって今回の箱根駅伝のポイントは次の3つになる。
エースの出来。
中間層。
そして、特殊区間。
特殊区間は青山学院にアドバンテージがありそうだが、「絶対に区間賞を取ります。区間2位に1分以上の差をつけます」と豪語する鶴川、淡々とエースの職務をこなす黒田(彼がレースで外したことを一度も見たことがない)、そして箱根で「決定打」を放ってきた太田。この3人と他校のエース陣との対決は、今回のレースの「華」となるだろう。
青山学院にとって、大きな不安要素となるのが「中間層」なのだ。田中悠登キャプテン(4年)は全日本のあと、こう話していた。
「今年の課題は、中間層の意識がもうひとつ上がってこないことです。なかには、来年頑張ればいいや、と思っている下級生がいるかもしれない。だとすると、厳しい。勝つためには、どうしても突き上げが重要なんです」
なぜ、突き上げが大切なのか。田中は自分の経験談として語る。
「前回、僕は8区に区間エントリーされていました。でも、下半身の痛みが耐えられないほどになって、年末になって泣く泣くあきらめざるを得ませんでした。でも、僕が出なくても圧勝だったわけです。
これまで4年間を見てきて、12月に入るとなにかしらアクシデントが起きます。去年だって、12月頭にインフルエンザが流行して、中旬には佐藤一世さん(現・SGホールディングス)が虫垂炎になったり。予測できないことは必ず起こる。その時にどれだけほかのメンバーがカバーできるか。それが箱根駅伝に勝つポイントなんじゃないかと思います」
全日本に敗れ、原監督は優しさを見せた。
ただし、箱根駅伝に向けては競争を促し、厳しさを見せたはずだ。
「國學院、駒澤、強い。でも、相手が強ければ強いほど、挑戦しがいがあるし、勝ったときの喜びは大きいよね」
ディフェンディング・チャンピオンは、挑戦者として「箱根駅伝2025」に挑む。