第96回箱根駅伝の2区を走り出す土方(右)。その時の「歴史を変える挑戦」のスローガンは今季、受け継がれた photo by YUTAKA/アフロスポーツ後編:OB土方英和(旭化成)が語る國學院大の強さ第101回箱根駅伝で初の総合優勝を目指す…
第96回箱根駅伝の2区を走り出す土方(右)。その時の「歴史を変える挑戦」のスローガンは今季、受け継がれた
photo by YUTAKA/アフロスポーツ
後編:OB土方英和(旭化成)が語る國學院大の強さ
第101回箱根駅伝で初の総合優勝を目指す國學院大。今季はここまで2冠を達成し、満を持して最大の挑戦に挑もうとしている。
そんな後輩たちの姿は、5シーズン前の主将・土方英和(現・旭化成)の目に、どのように映っているのだろうか。
自身が卒業してからのチームの変化、そして今回大会を俯瞰した勢力図のなかで、後輩たちに期待する理想の勝ちパターンとは−−。
【受け継がれたスローガン】
多くのメディアで「歴史を変える挑戦~EP.3~」のフレーズを目にすると、思いを巡らせる。國學院大OBの土方英和は、しみじみと話す。
「5年前に僕たちが立てたスローガンと、そのときの走りを見て入学してきた選手たちが、もう一度、同じ標語を掲げ、國學院の歴史を変えようとしているんですから、率直にうれしいです」
いつの時代も目標は、箱根駅伝である。「歴史を変える挑戦」のEP(エピソード)1は寺田夏生(現・皇學館大監督)らが2011年に果たした初のシード権獲得、エピソード2は土方たちが2020年に成し遂げた初の総合3位、そして今年度、目指すのは初の総合優勝。出雲駅伝、全日本大学駅伝を制しても、慢心は見えない。正月の舞台に懸ける思いが、ひしひしと伝わってくるという。
「一戦必勝で戦う気持ちを感じ取れますね。駅伝シーズンが始まる前から前田監督、選手たちもずっと『箱根を取りたい』と言っていましたから」
かつては新興勢力と呼ばれ、ダークホースの域を出ることはなかった。当時、主将だった土方は隔世の感を覚えていた。
「僕たちの頃は往路優勝、総合3位を目指していたこともあり、往路で貯金をつくり、復路はそのリードを守りきろうという感じでした。1日目の5人のメンバーでなんとかしようという雰囲気だったんです。正直、往路組と復路組の力の差はあったので、選手たちのなかでも、意識は違ったと思います。
今年度は、全員が総合優勝だけを目指すと言える戦力がそろっています。高校時代にエースだった選手たちに加え、大学でぐんと伸びた辻原輝のような主力もいます。國學院ならではの育成力も健在で、往路、復路ともに充実しているなと。メディアを通し、前田監督の口から『復路勝負』と聞いても、すぐにイメージが湧きましたから。往路で耐えて、復路で仕掛けていく展開もあるのかなって」
ただ、ライバルとなる大学のメンバーも、強力なラインナップを誇る。戦力を温存して往路をしのぐのは、至難の業。駒澤大には全日本大学駅伝の7区でエースの平林清澄(4年)を上回るタイムで走った篠原倖太朗(4年)をはじめ、10000mで日本人学生歴代2位の記録を持つ佐藤圭汰(3年)も準備している。そして土方がより警戒を強めていたのは、青山学院大だ。
「前回大会でも3区で先頭に立ち、そのまま逃げきっています。そういう勝ち方を知っていますからね。鶴川正也(4年)、黒田朝日(3年)、太田蒼生(4年)、若林宏樹(4年)が往路にエントリーされれば、かなり強力。國學院が復路に力を割くにしても、往路を終えた時点であまり差を広げられたくないですよね」
【平林に2区区間賞を期待する意味】
土方自身もよく知っている。大学4年時に2区で出走した第96回大会(2020年)の箱根駅伝では、4区から青学大の独走を許してしまった。"復路勝負"に持ち込むためには、往路での踏ん張りは必要不可欠。3年連続でエース区間での起用が予想される主将の平林には、大きな期待を寄せている。
「1時間5分台で走り、区間賞を取ってもらいたいです。前回大会(区間3位/1時間6分26秒)よりも確実に力をついていると思います。今年2月の大阪マラソンでも、後半のきつい場面でペースアップし、自分からどんどん仕掛けていきましたから。
あの走りは箱根の2区にもきっと生きてきます。20km以降の戸塚の坂って、マラソンの後半を走っている感覚にすごく似ているんですよ。お尻の筋肉が使えなくなり、力が入らなくなりますし、ラスト1kmは本当にきつい。どんな駅伝よりも一番しんどい。たぶん平林も2区の経験がマラソンに生きたと思いますよ。次はマラソンの経験が、2区に生きる可能性もあるのかなと」
過去に3年生から2連続で2区を走り、現在はマラソンに取り組むランナーならではの考察だろう。花の2区で國學院のエースが強さを証明することの意義も大きいという。時代をさかのぼっても、箱根路で赤紫の襷をかけて区間賞を獲得したのはふたりのみ。79回大会(2003年)の3区・山岡雅義、95回大会(2019年)の5区・浦野雄平(現富士通)だけなのだ。
「2区で区間賞を取ってこそ、大学駅伝界のエースだと思います。平林には箔(はく)をつけてもらいたいです」
これもまた、歴史を変える挑戦のひとつなのかもしれないが、勝負は2区だけで決まらない。10区間を通して見れば、総合優勝のカギとなりそうなのは山区間。青学大には若林、駒大には山川拓馬(3年)という経験値を持った5区の切り札がいる。
「國學院は山の5区、6区で耐えられるかどうか。できるだけタイム差を離されないようにしたいです。この区間で勝つようなことがあれば、もう絶対に優勝できると思っています」
土方はふと口元を緩めると、理想の展開を頭に思い浮かべた。
青学大のように往路の途中から独走し、復路は余裕を持って楽しいピクニックラン−−。
「OBとしてはそれくらい安心して見たいですが、現実的に考えれば、そんな駅伝にはならないと思います。10区でひっくり返して、総合3位になった僕たちと重ねるわけではないですが、101回大会でもドラマチックに初の総合優勝をつかみ取ってほしい。
國學院が歴史を変えるときって、いつも何かが起きるんですよ。出雲駅伝の初優勝も最終区間でトップに立ちましたし、初めてシード権を獲得したときも寺田さんが10区の最後でコースを間違えて、ぎりぎりで11位から10位に押し上げています。今回、期待するのは復路での逆転ですね」
1月3日は大手町でハラハラドキドキしながら、先頭で返ってくるアンカーを待つつもりだ。箱根史に"逆転の國學院"として、語り継がれることを想像して--。
photo by AFLO
●Profile
土方英和(ひじかた・ひでかず)/1997年6月27日生まれ、千葉県出身。國學院大時代は1年時から4年連続に箱根駅伝に出走。3・4年時はチームの主将を務め、箱根では2年連続2区に出走を果たし(区間7位、8位)、4年時にはチーム史上最高の総合3位に貢献した。また、同大史上初の三大駅伝優勝となった4年時の出雲駅伝ではアンカーを務め、3人抜きを果たしてゴールテープを切っている。卒業後は実業団選手としてマラソン、駅伝で活躍し、2022年9月から旭化成で競技に打ち込み、現在は副主将も務めている。マラソンの自己ベストは2時間06分26秒(2021年2月)。